彼方へ - Go Beyond - 連載 Vol.40 - 最終回
第六章 最終章
其の十六 どうして困難にばかり挑戦するのか
著 / 山田徹
不思議な自問自答が沸いてくる。いつかのカサブランカのホテルで考えた時に似ている。
そういえば、到着したホテルはカサブランカのそれを思い出させる姿で、予想をはるかに超えて立派だ。
歓迎の晩餐まで用意されていて、味わったこともないような豪華な宮廷料理を前に、思わず先行きに黒々とした不安を覚えた。
この国のパートナーの予定者らは、こうして饗応をするのが儀礼だと思っているようだ。しかしその先にあるものを思うと、絶望的だ。
この時代、北京はもちろん急激に経済発展を遂げる中国のキャピタルタウンだ。この饗宴もそうだが、常に外国企業との合弁先を探している。そして投資をしこたまさせ、やがて役人とともにそれを上手く取り上げる。そう言う筋書きだ。彼らにとっては残念なことに、いや我々には喜ばしいことなのだが、彼らが望むほどの投資資本などボクタチには無いのだ。資本は、というとアイデアと経験と、やる気だけだ。
とにかく世界に一歩出て、自分だけの力で道を切り開くのは困難だ。困難だが、それをクリアするのを莫大な金を使うと「パリ・北京のジャパンマネー」になってしまい、2度と開催できなくなる。彼らはそれで済むのだろうが、ボクタチはそうはいかない。
それにしてもこの国の急成長ぶりは、一九九二年のパリ・北京の時と比べれば、凄まじい。その成長はアンバランスだと関連会社の北京駐在の男が言った。
ボクは
「だいたい成長過程というものはアンバランスなものだよ。子供が大きくなっているときもそうだろ」
そうは言ったものの、やはりこの国の成長ぶりは恐怖だ。巨龍が必ずアジアを飲み込む。それは文化と秩序を破壊する。
たとえば日本に来る外国人が京都に行くように、われわれもこの国の古き良きものはどこにあるのだろうかと目を凝らす。それはたくさんあるのだが、この成長という急激な変化の中で、守れるものも少ない。
あのころ日本人も何かに憑かれたかのように「スクラップアンドビルド」という掛け声だった。
「いやそれは何も古い建物や文化を壊して、新しいものに立て替えようという意味ではなかったのだけど、どこでどう間違ったのかねえ。でも壊され果てる前にバブルが崩壊して、いくばくかは残ったんだよなあ」
「中国は文化を残すことが出来るのでしょうか」
「文化大革命でも壊せなかったし、戦争でも壊せなかった。でも経済成長というモンスターは、毛沢東よりも手ごわいのじゃないかな」
「なるほど」
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