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TIMER TO RIDE 「890アドベンチャーRという難問」 大鶴義丹 No.243より


 某ウェブマガジンの記事経由で、KTMジャパンさんから、最新の890 ADVENTURE Rを10日間ほどお借りした。まだ400キロくらいしか走っていない新車同然の車体であった。
 大型アドベンチャーバイクに関しては、アフリカツインからGS、トライアンフまで、大半の車種をダートで激しく乗った経験がある。獣道で苦しみ、転倒もしている。GSだけは独自の哲学があるが、あの大きさをダートや獣道などで扱うと言う点においては、基本的にどの車種も同じだ。借り物CRF250RALLYを、自分のYouTube動画で走らせているが、そのサイズの走り方とは大きく違うのは言うまでもない。
その中間サイズである、890 ADVENTURE Rの意味を以前から気になっていた。ただし、それは他メーカーにもラインアップされている、ミドルサイズのアドベンチャーバイクが気になっていたという意味ではない。
ハスクバーナのエンデューロマシンを十年弱で4台乗り継いできたので、KTMというメーカーのオフロードに対する哲学の少しは理解している。
「Ready to Race」と小ぎれいには言っているが、簡単に日本語にすると「素人お断り」だ。
 だから一部のオンロード車種を除いて、私はビギナーやリターンライダーにKTMのバイクを勧めたりはしない。そんなメーカーが出す、890ADVENTURE Rという変わり種が「まとも」なはずはない。怖いもの見たさだ。
 だが、大概のメディア記事を読んでも、その確信犯的な「本質」に触れていると感じたものはない。ミドルサイズアドベンチャーという予定調和の枠組みで話は終わる。極端なものだと、景色を楽しんでみた的なYouTuber動画などもあるが・・・ 「アフリカツインより小さくて可愛い」というコメントで悶絶した。
唯一ジワリと染みた記事は、有名オフロードライダー様のものであるが、難しい領域に入っていて、一般的には難解だった。ただ、彼の言葉で一番参考になったのは、一般ライダーでは、意図した本質にたどり着くのが難しい。林道ツーリングではそのほんの表面しか分からず、モトクロスコースを本気で走ることもできるが、それも本質の一面でしかないと。
あくまで個人的な憶測だが、KTMは心の奥で、ツアラー志向で豪華に大型化していくアドベンチャーマシンに対するアンチテーゼがあるのではと思っている。
またその根幹には同社の歴史的マシンである620 ADVENTUREや、2001年にダカールでの勝利に成功したワークスマシン・950ラリーなどの存在がチラホラと見え隠れする。今の450サイズ系のラリーバイクとは違う、あの時代のラリーバイク哲学というものを「裏テーマ」として織り込んでいるのではと。そう考えると、日本のフィールドでは理解しがたい本質も理解ができる。
そして実際に私が林道で体験したポテンシャルの片鱗。まず、デフォルトの状態の足回りのセッティングが、アドベンチャーとしてはかなり固い。モトクロス的なジャンプが可能なのも理解できる。フレームもかなりガッチリとした印象で、アフリカツインなどとは全く別の意図があるマシンであると分かる。
ギリギリ常識範囲で、荒れた林道からフラットなものまで2時間以上無言で走り回った。ペースが上がれば上がるだけ先が見えなくなる。とても不思議な感覚だった。
だがエンデューロマシンでビビットに林道を走ると言うものとは全く違う。やはり200キロという車重を扱う乗り方が大前提で、そこは既存の大型アドベンチャーバイクと多くのモノが共通する。

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