BigMausとゆく 変態戦車道
※本記事は独断と偏見と未検証の知識・出典に基づくものであり、記事中の知識を披露して変態扱いされたり、識者にハチの巣にされたりしても筆者は一切の責任を負いません。
※簡潔な説明のため、厳密には戦車ではない戦闘車両も戦車と呼んでいる箇所があります。ご了承ください。
1.前書き
こんにちは。走って踊って壊れる戦車、BigMausです。
月日の流れは早いもので、本記事の公開日を以て大晦日まで3週間となりました。
無為に日々を過ごしては悔恨の念に苛まれるばかりですが、今年は某所の素敵な企画によって毎日様々な記事を楽しむことができるようになりました。
私も筆をとり何か書こうと思い至ったものの、過去を振り返るのは苦手な性分。故にここはひとつウンチク語りでもしようと思います。題して、
BigMausとゆく 変態戦車道
明日から厄介ミリオタ扱いされる知識を、あなたに。
2.記事をより楽しむための戦車知識
本記事はあまり複雑になりすぎないよう努めたものの、解説をする上で一部の用語を使わざるを得ません。
そこで知っておくと記事をスムーズに楽しめる、戦車用語の一部をこちらで説明します。
戦車の(大まかな)構造
戦車は大きく分けて砲塔と主砲、車体、履帯に分けることができます。
砲塔・・・いわゆる”あたま”の部分。主砲(よくキャノンとか大砲とか呼ばれる)を備え、360度回転できることが殆どです(=旋回砲塔)。
車体・・・いわゆる”胴体”。砲塔を支え、エンジンやサスペンションなどが収まっています。戦車のドライバーは基本的に車体側に乗っています。
履帯・・・いわゆる”キャタピラ”で、無限軌道とも呼ばれます。車輪より圧倒的に悪路に強く、戦車の大重量を支えます(雪の上でスキー板を履くと沈まないのと同じ理屈です)。
砲塔が無いと戦車とは別物として扱われることが多いですが、稀に戦車でありながら車体に直接主砲が付けられているものも存在します。
搭乗員とお仕事
戦車はほとんどの場合複数人が乗り込みそれぞれの仕事を担います。
基本的に4人でそれぞれの仕事を行いますが、乗員を減らし機械化や兼任をすることで補う場合もあります。
役割を担当する搭乗員の名称と仕事内容は以下の通り。
車長・・・戦車の指揮を執るリーダー。周囲の状況を確認し、搭乗員たちへ指令を出します。
操縦手・・・戦車の運転を担当するドライバー。戦車には最低でも車長と操縦手は必須で、その2名だけの場合車長が操縦以外の全ての役割を兼任するブラック戦車と化します(WW2までのフランス戦車によく見られた)。
砲手・・・主砲の狙いを定めて射撃するスナイパー。攻撃力の要です。
装填手・・・主に砲弾を込めてリロードをする乗員(ローダー)。自動装填装置(弾薬庫から自動で砲弾を取り出し、主砲に込める装置)を積むことで省略されることもあり、最近の戦車に特によく見られます。
おおよその基礎知識を学んだところで、次からが変態戦車の登場です。
ぴったりのBGMを流しながらいざ突撃。
3.世界の変態戦車
お待たせしました。ここからが記事の本題。
本当は大量に紹介したいところですが、今回はそこそこの内容量で記事の最後まで楽しんでいただくことが重要です。
そこで「1国1両」かつ「試作以上の域まで達した」ことを条件にチョイスしました。知識のある方にとっては不満がある内容かもしれませんがご容赦ください。
①イギリス🇬🇧 : FV4005 Stage1/Stage2
歴史上初めて「戦車」を創り、そして現代戦車の基本である「主力戦車」を生み出したイギリス。
しかし「英国面」という言葉が表すように数々の(発想が)狂った兵器を作る紳士達は、当然のように戦車という分野でも数々のゲテモノを生み出しています。
その中でも飛び抜けて頭のネジが外れた戦車の一つ。
それが今回取り上げるFV4005です。厳密には戦車じゃないけど許して
頭がでかすぎる
巨大な頭は、搭載した主砲が原因。
今日に至るまで戦車の主砲は口径(=砲弾の直径)120mm程度までのところ、なんと1.5倍以上も太い183mm砲を選択。
弾頭と、弾頭を飛ばすための火薬の詰まった装薬を合わせた砲弾の長さは実に144cm、重量は弾頭だけで72.6kgにも達しました。
一方で車体は当時のイギリスの主力戦車であり、現代戦車の手本となった傑作「センチュリオンMk.3」でした。その為車体はごく常識的な大きさとなり、非常にアンバランスな見た目と化しています。
このFV4005は開発段階によって2種類の姿があり、それぞれStage1とStage2と呼ばれています。知名度は圧倒的にStage2のほうが上ですが、それはStage2がFV4005の完全体であり、また今でも博物館に現存しているからでしょう。
ではStage1はどんな姿なのかというと…
何を隠そう、FV4005 Stage1は砲塔の中身が丸見え!
また、Stage1の特徴として、凄まじい重量の砲弾をセットする装填手の為に装填補助装置が備えられていました。ただしやってくれるのは砲弾を砲の前に持ってくる所までで、押し込むのは人力。求む人間ゴリラ。
当然イギリス軍もStage1を最終型とは考えておらず、砲塔を装甲で囲うなど様々な改修を施すことでStage2へと進化させます。
巨大な砲塔はさぞ重装甲だろうと思いきや、肝心の装甲厚はたったの14mm。砲弾はもちろん機関銃にも貫通されかねません。もっともFV4005は前線から一歩離れた場所からの戦闘支援が目的だったので適当とも言えます(頭が重すぎて余裕がなかったともいう)。
当時強力な戦車を生み出し西側諸国を恐怖に陥れたソ連に対抗するべく、ひたすら大火力を求めた紳士の手で生み出されたFV4005でしたが、あまりの扱いづらさや対戦車兵器の発達の影響もあって1957年には開発中止となりました。
おまけに数年後イギリス自身がより小さくて十分な火力の傑作戦車砲を作った為、FV4005はますます存在意義を失ってしまうのでした。
②ロシア(ソビエト連邦)🇷🇺 : T-35(と多砲塔戦車たち)
第二次世界大戦では傑作戦車「T-34」を作り出して戦車大国ドイツを叩きのめし、戦後も数々の革新的な(そして兵士の居住性を考えない)戦車を生み出したソ連。
そんなソ連もかつては小型戦車が中心で、当時の役目である「歩兵に先駆けて敵陣を突破する」強力な戦車がありませんでした。
時は1930年。
戦車の設計も製造も経験不足だったソ連はまだ仲良しだったドイツの協力や世界的に注目を集めたイギリス戦車を参考に、高火力と重装甲を兼ね備えた夢の戦車開発に取り掛かりました。
その結果生まれたのがT-35でした
今度は頭が多すぎる。
これはソ連が狂ったというより、当時流行した戦車の設計思想の影響です。
当時はまだ兵器の性能が低かった為、WW2以降ほど厚い装甲は要求されませんでした。また戦車は敵の陣地を破壊して突破することが最も大事だったため戦車同士の戦闘もあまり考えられていませんでした。
結果生まれた戦車像は「当時としては厚い装甲とそれなりの機動力を持ち、複数の砲を備えて一気に多方面を攻撃する」多砲塔戦車というものでした。
しかし多砲塔戦車には後に大量の問題点が生まれます。
対戦車兵器や戦車砲が急速に進化し、より分厚い装甲が必要になった。しかし元々が大重量の多砲塔戦車は十分に装甲を強化できない。
巨大で機動性が劣悪なので、進歩した兵器にとって良い的になる。
砲が多くても乗員の指揮を執るのは車長1人なのでうまく連携が取れず、砲塔同士の干渉もあって満足に攻撃力を発揮できない。
重く複雑なため整備が大変なのに故障は頻発、しかもコストが高い。
このような課題の結果としてT-35を含む多砲塔戦車は急速に時代遅れの代物と化してしまったのです。
折しも世界大恐慌による経済事情の悪化のおかげで、諸外国はコストのかかる多砲塔戦車の正式採用をせずに済みました。
しかしソ連は社会主義国家、しかも当時独自の経済計画である「五か年計画」のおかげで世界恐慌などどこ吹く風。
その余裕ゆえにT-35以外にも多砲塔戦車を研究・開発し、試験運用や量産までこぎつけてしまいました。
後に運用の困難さや多発する故障、貧弱な防御力から多砲塔戦車への疑念は増すばかり。挙句の果てに当時の指導者であるスターリンに「どうして戦車を百貨店にするのか理解できない」と苦言を呈されてしまいます。
結局T-35は1933年から1939年にかけて61台の生産にとどまりました。
後継となる多砲塔戦車は砲塔が1つの戦車に対する優位を証明できずにコンペに敗北、ソ連における多砲塔戦車という変態の血脈は途絶えるのでした。
③ドイツ🇩🇪 : VT1-2 (DRK)
現代まで数々の名戦車を産み、いち早く戦車を主力とした戦い方を開発した戦車大国ドイツ。
今はレオパルト2という戦車を開発・採用し、欧州はじめ多数の国に輸出もされました。
そんなレオパルト2の開発と同時期、新たな戦車を模索していたドイツは1975年、非常に斬新な試作戦車を作りました。
それが VT1-2 です
頭が無くなり、主砲が2本生えました。
砲塔が無いことは車高を低くして撃たれにくくできる、減った重量分でより厚い装甲を装備できるなどメリットもあります。
しかし「敵を狙うためにいちいち車体ごと回る必要がある」という大きなデメリットは避けられず、積極的な攻撃は不可能です。
更に技術が進歩した結果、この頃には戦車が走り続けながら敵を狙って撃つ行進間射撃という戦い方が現実的になり、ますます無砲塔戦車は不利でした。
それでもドイツがこの奇抜な戦車を大真面目に追求した理由は、急激に進歩する砲弾に対抗するため、伸びしろのある防御力に着目したからだといわれています。
では行進間射撃の問題はどうするのか?同じくらい機動的に戦うには?
開発陣の答えはこうでした。
『目標を狙って旋回したら、最適なタイミングで自動で発砲すればいい』
…頓挫する未来しか見えない話ですが、なんとVT1-2は試験で要求される命中精度を見事に達成してしまいました。
機動力も優秀で、2400psもの馬力を誇るエンジンを搭載していました。例えると軽自動車を37台用意しても勝てません。この強力なエンジンのおかげで最高速度は時速70kmとされました。
実験車両とはいえ高い性能を持ったVT1-2は、DRKという砲塔のない戦車の開発計画のために作られた試作車の一つでした。
VT1-2は優秀だったものの市街地や森林での弱さや、突然敵と遭遇した場合の対応の難しさを指摘されてしまいます。また同時期に完成していたレオパルト2(記事冒頭に登場)に対する優位性を見つけられず、結局部隊からは採用を拒否されてしまいます。こうしてVT1-2を含むDRK計画は夢と消えたのでした。
④スウェーデン🇸🇪 : Strv.103
北欧随一の工業力を持ち、長らく武装中立を掲げたことで独自の兵器を開発してきたスウェーデン。
スウェーデンの戦車の歴史はドイツから不採用となった車両を買ったことから始まります。
かつて先進的な戦車の開発・生産を達成したスウェーデンは、中立国だったことが祟って第二次世界大戦による戦車の急速な進化にすっかり置いていかれてしまいました。
仮想的であるソ連が強力な戦車を開発している情報を受けて、スウェーデンは既存戦車の改良と共に新型戦車(実態を隠すためにKranvagn=クレーン車と呼ばれていた)の開発に取り掛かりました。
しかし壮大な要求に技術が追い付かず開発期間が伸び続け、戦力的にもイギリスからセンチュリオンを輸入できたため、1950年代後半にKranvagnの開発は頓挫してしまいます。
一方で軍事力を以て中立を保っていたスウェーデンにとって、次世代戦車の独自開発は到底諦められるものではありませんでした。
あまりに過剰だったKranvagnの反省も踏まえつつ、戦略や地域事情に合う戦車を考える中でスウェーデンが見つけた答え。
それがStrv.103です
どうしてこうなったのか?それはスウェーデン特有の事情、そしてまだ発展途上だった自動装填装置が大きく関わってきます。
スウェーデンはKranvagnの開発の時から自動装填装置に強い興味を持っていました。ソ連という敵国を間近に控えながら人口故に兵士の数を確保できないスウェーデンにとって、装填手いらずで1台当たりの乗員を減らせることは非常に魅力的だったのです。
しかし当時の自動装填装置は非常に信頼性が低く、小型の砲への採用が限界でした。主力となるような強力な戦車への搭載には壁が立ちはだかります。
ただし、それは砲塔があった場合の話でした。
スウェーデンの戦車技術者スヴェン・ベルゲは、過去の仕事や他国戦車の視察などの経験から独自に次世代戦車の案を考えていました。その内容は
「主砲は車体に固定し、自動装填装置と直結させる」
「鋭い傾斜をつけた装甲で砲弾を弾く」
「左右は車体を回すことで、上下は特殊なサスペンションでシーソーのように動いて狙いをつける」
このようなユニークなアイデアになったのは何も強力な戦車を求めただけではなく、スウェーデンが重視する厳しい地形を利用した待ち伏せによる防衛戦に特化したために出来上がったものでした。
ベルゲの考えは当然反対を食らいましたが、当時の上層部によって認められ開発はスタート。1963年には試験が始まり、その3年後には量産までこぎつけたのでした。
待ち伏せ専門であることや人的資源を極力減らさないために、Strv.103は他にもユニークな特徴が多々ありました。
エンジンを2種類搭載し(ディーゼルとガスタービン)、通常時と走行時で使い分ける機能
エンジンを搭乗員より前側に載せ、装甲の一部として活用
撃ったら素早く撤退するために前後進とも時速50kmで走れる
3人の乗員のうち無線手は後ろ向きに座り、後進時に操縦を担当する
車長席に操縦装置や発射装置が備わり、車長はすべての操作が可能
砲塔のある戦車に引けを取らない戦闘能力を備えたStrv.103でしたが、戦車技術の急激な進歩がその寿命を縮めてしまいます。
まず新しい方式の砲弾が開発されたことや対戦車兵器が進化したことで、それまで強固に敵弾を弾いた傾斜が役に立たなくなってしまいました。
さらにドイツの項目で述べた行進間射撃が実用化されてしまったことで、砲塔が無いStrv.103は非常に不利な立場に立たされてしまいます。
このような立場の変化からStrv.103は90年代末までに全車が退役し、スウェーデンは現在ドイツのレオパルト2の改造型を採用しています。
番外編① オーストラリア🇦🇺 : AC1 センチネル
第二次世界大戦前後にオーストラリアが開発した戦車。開発中に主砲が時代遅れになってしまったものの、非常に常識的な外見をしています。では何故変態なのかというと、車体前面の機関銃のカバーの形が…
番外編② ドイツ🇩🇪 : 自走砲用サイレンサー
戦車ではなく、研究施設において自走砲の砲撃音を減らすための実験装備。
名門兵器メーカー、ラインメタル社と音響工学研究所(IFL)が開発しました。
何で変態かって?察してください。
4.終わりに
ここまで読んでいただきありがとうございました。
長々と書き連ねてしまいましたが、本記事を読んで少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
今回は普段触れることのない戦車という兵器、ましてやその中でも変わり者たちをいくつか紹介しました。
ただし今回記事にした戦車たちは残っている情報も比較的多く、試作車の製造や正式採用にまで至るなどかなりまともに作られた戦車ばかりです。
興味を持った方はぜひ調べてみてください。設計者の頭のねじを探してあげたくなるような戦車、さらには資源の無駄遣いだとして設計者の首が文字通り飛んでしまった戦車もこの世には存在するのです。
変態戦車はあなたの好奇心を歓迎します。
最後に、本記事を書くきっかけを作ってくださった某Discordサーバーの皆様へ感謝申し上げます。他にもたくさんの記事が日々投稿されていますので、ぜひそちらもお読みください。
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