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エルヴィンへの反語的回答ー非政治的「敵」概念試論②ジークの「敵」

ジークの「敵」−『進撃の巨人』 次に同じ『進撃の巨人』から、ジーク・イェーガーが抱いていた「敵」概念について分析していく。先の章でも少し触れた通り、彼は作中において巨人=エルディア人問題の「最終解決」を唯一合理的、説得的なかたちで構想しえた人物である。内実は後ほど明らかにするとして、エルディア人を子どものつくれないからだに創り変える、という計画が実現していれば確かに「巨人のいない世界」が創造されていただろう。彼もまたマーレに生まれたエルディア人として、エレンたちパラディ島住

    • 人生酒場

      人生酒場という名の居酒屋に居座っているからには、人生について語り合わなければならない。君島は人生という抽象的な議題にたどり着くために、近々の恋愛事情という話題から始めることにした。もっとも恋愛について語ることが自らにもたらす心地良さについて、彼自身意識していないわけではなかった。自然とにやけ面が顔に張り付いてくるのをとめられなかったしとめようとも思おもわなかったしとめたくなかった。 「俺にはもう、理恵子しかいないんだよ」天井の低い座敷牢のような階段下の物置のような居心地の悪い

      • わたしはあなたに語りかけている

        白木は、乗るはずだった電車が甲高い音を上げて通過していくのを眺めながら、辞めよう、と思った。会社を、辞めよう。そう心の中で唱えてみると、先程まで塞いでいた気持が嘘のように晴れ渡っていく。会社を辞めよう。やりがいのないデスクワークから抜け出そう。性根の腐った上司から逃げ出そう。そうして、自分が本当にやりたかったことをやるんだ。いや、まずは本当にやりたいことを探すところから始めなければ。彼は砂時計をひっくり返す時のような清々しい感情で踵を返し、プラットフォームから改札へと続く階段

        •  八月の骨の髄まで届くような熱気もようやく鎮まってくる夕暮れ時、小泉は近所の見慣れたお寺の前でふと、散歩の足を止めた。住宅街の間に僅かに引っ込んだかたちで伸びている参道の奥に、本堂を囲んで垂れ下がった鯨幕が見える。 ────葬式だ。  彼はその物珍しい光景を見て、身震いするほどの興奮を覚えた。というのも、彼は誰にも明かすことのないある趣味を持っていたからだ。見ず知らずの他人の葬儀に参列すること、それこそ彼が密かに味わってきた暗い楽しみだった。  きっかけは会社の上司に弟の葬

        エルヴィンへの反語的回答ー非政治的「敵」概念試論②ジークの「敵」