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日本語教師日記50.直訳だと通じないとき

学習者と一緒に宿題をチェックしてるとき、私が言う決まり文句があります。

いい! いいですね! 間違いではない。

するとそれを引き取って学習者が、

「でも・・・言いません、ですね?」

と言ってくれます。

これは、「文法的には間違いではないが、こうは言いません」と
しょっちゅう私が言いますので、生徒も慣れているわけです。

間違いではないが、ギクシャクしている。
誰もそうは言わない。
直訳がきかない。

外国語学習では、そういうのはいくらでもあります。

今日はその中でも、「直訳だと通じない」例をお話ししますね。



あるとき、生徒から、おすすめの漫画を教えてと言われていて、「よつばと!」の情報をレッスンのあとに送っておきました。
これは、現在第15巻まで出ています。

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ほんと、おすすめです。

するとすぐ生徒から返信が来て、

「新しい教科書かと思って、ほとんど買いました!

と言っています。

え〜、買ったとな?!
15巻のうちのほとんどとは、貴君は一体、何巻買ってしまったの?

さすがに慌てました。

この人は、かなりの上級者です。
ああ、言葉が足りなかったか、悪いことをしてしまった・・
と思ってから気がつきました。

彼は、

「(先生が送ってくれたURLを開いて)、
(それが次に使う)教科書なのかと思って、
もう少しで買いそうになってしまいました」

と言いたかっただけなのでした。

つまり彼は、もう少しで〜しそうになった にあたる英語、

I almost  bought it/them.

が、日本語に直訳しても、通じると思ったのです。

というか、日本語で

ほとんど ➕ 動詞

が、「量的なことである」のを把握できていなかった。(後述)

(一度でもレッスンで習えば、絶対こういう間違いはしない人です)



I almost did.   は、「した」と言っていながら実は、そのことをしていません。

その「行為を、ほとんどした」=しそうになった

です。

以前に書きました、母語の順番と、日本語のそれとが同じだと思って
(1回しかレッスンを受けていない人)、
プレゼントを渡してくれながら、

これ・です・に・あなた!

と言った人の話と、間違いの種類としては同じですね。
かなりの上級者でも、たまにこういうことがあります。



そういえば、中学の頃、苦しみませんでしたか?

I bought nothing.    私は 無(何物でもない物)を 買った。 

   どうやって、「無いもの」を、買うの?
   無いものを「買った」なんて言わなくて、
  「何も買わなかった」じゃだめなの?
   I did not buy anything.  と I bought nothing.は どう違うの?
 
あらあら、私が日常的に生徒たちから訊かれるようなことの、
そのリバースな疑問を持ちまくっていたんですね。

そのほかに、

I saw nobody.        私は 「誰でもない人 」を見た。

There was nothing on the table.  
テーブルの上には「何物でもないもの」があった。

これは、中学1年の私には、飲み込みにくかったです。
母語にない「言い方」だと、脳の方が受け入れ拒否になりやすいのでしょうね。



逆に英語話者は、日本語の
「何も買わなかった」「何も見なかった」「誰も知らない」
などは、最初は、何をどうやっていいか、困ってしまうようです。
テストで間違わなくなっても、口にするまで時間がかかるようです。


そうそう、可愛いのがありました。
これも、直訳では通じなかった例です。

日本で出産・子育てをしながら、日本人と日本語で話そうと
とても一生懸命のお母さん生徒が言います。

「先生、この間、恥ずかしかったです!」
「頑張ったんですけど・・・」

ほほう、何があったんですか?

「レストランで、粉ミルクを作ろうと思って、お湯を頼んだのですが、
    通じませんでした。
    ボトルを出して、粉ミルクを出して、ボトルを振ってみても、だめでした」

本当に一生懸命頑張ったそうです。

すみません。
熱い水をお願いします。
私は、ミルクを作ります。
これは私の赤ちゃんです。(赤ちゃんを持ち上げた)🤣
今は彼女はランチタイムです。

というふうに、学んだ限りの日本語でコミュニケーションを取ろうとしたのでした。

💮💮💮 えらい、素晴らしい!  💮💮💮

ウェイターさんは、

「あつい・・・みず?」

で絶句して、厨房とテーブルを2〜3往復してから、
最後に上司のような女性と一緒に戻ってきまして、その女性は両手を打って、

「あっ、お湯ですね! お湯ね? すみません」

と言って、お湯を持って来てくれたそうです。

・・・・わからないかなぁ、熱い水。

「お湯・・っていうんですね? でも熱い水は、お湯でしょ?          
hot water では通じませんか?」

通じませんねぇ〜😅

でもお母さん生徒よ、その意気やよし!
これからも頑張ってほしいです。
応援しないではいられません。


おまけ:「ほとんど」を教えるとき

ほとんど は、肯定も否定も、量的なものです。

全体を10として、8とか9とか、全体に近づいているときです。

でも、量だけではないことに気をつけてください。

例文

頻度
    「ほとんどいつもそこで買っている」
   
        「いつも」は100回のうち100回行くことですが、
      「ほとんどいつも」は、80〜90回以上です。
      「よく行く」とは違います。


    「たくさん用意したがほとんどなくなった」
     20枚ピザを用意して、2切れしか余らなかったようなときですね。
     たくさん食べた とは、見ている側面が違います。

内容として
    「ほとんど聞いていなかった」
     時間的に、5分のうち4分を聞いていなかった、という「量」ではなく、 
     内容の8〜90%は「ちゃんと聞いていなかった」という意味です。


媒介語を使うこと、辞書をそのまま信じて使うことの落とし穴があります。

辞書ではほとんどは、

for the most part、largely、mostly、approximately、more or less、close to、some、just about、or so、about

ですが、そのまま使うことはできません。
遠回りで大変ですが、一つ一つ例文を読み込み、実際に使えるようになるまで練習することが大切ですね。






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