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日本語教師日記43.法則を知れば怖くない(4)人称代名詞①二人称の「あなた」


この投稿にぴったりの写真がないので、数年前、オクラを放置して、
筆〜折り畳み傘サイズまで育ってしまったときに撮った写真を載せました。


さて、今日の話題です。


日本語学習者が、早い段階で刷り込まれがちなのは、

日本語では、「あなた」は言わない。
会話では「あなた」も「私」も言わない。

でしょう。

間違いではないけれども、100%正しくもありません。

①「あなた」を省いて良いとき と、
② 言わない方がいい場合と、
③ 言わないと意味が通じない場合

とがあります。

「日本語では【あなた】を言わない」というのを信じると、
こういう作文を書きがちです。

明日成田に行きます。妹「は」来ます。
寿司は好きですから、空港の すしバーに行きます。
行きますか?

この人が、成田に妹さんを迎えに行ったのだろうということはわかります。
すし「が」好きなのは、どっちだか、よくわかりません。
自分が好きで連れて行って、妹さんは初体験かもしれません。
そして、この人は私にも行きたいかと、誘ってくれているのでしょうか。
うるさいことを言うようですが、ちょっともやっとくる文ですね。

このぐらいまでには直します。

「僕は(最初は言っておきましょうか)、明日成田に行きます。
妹「が」日本に来るからです。
僕は寿司が好きなので、妹と空港の寿司屋に行きます。
先生も一緒に行きませんか?

・・・いや、成田は遠いので遠慮します。

また、「は」「が」もまだまだ間違っているレベルで
このへんで慎重に導かないとあとで苦労します。

「てにをは」なんて、抜かしても大事ないではござらぬか。

とおっしゃいますか?

どうしてどうして、そうもいかないことがありますよ。

父「は」戦場に行かされた。
父「に」戦場に行かされた。

たった一つのひらがなの違いですが、意味が全然違います。
これを瞬時に正しく読み取れるためには、

受け身(普通の受け身・被害の受け身)

使役

受け身使役

をじっくり学んで間違えないようにする必要があります。


と、すぐに脱線して行きましたが、自力で戻ってきました。


今日は「あなた」について考えてみたいのです。

まず、日本語には、Youに100%合致する言葉はないです。
言い切ってしまいました。
大丈夫です。


Youの代わりの言葉がたくさんあります。
なぜかYOUを使わないようにするかというと、
「直接その人に呼びかけるのは失礼である」というところからだそうです。

漢字で書くとよくわかります。

あなた=  彼方 
 ・・・こっちのほうにいる私ではなくて、そっちのほうにいるお方です。

そなた =其方  
・・・お侍さんがよく使います。これも、そっちにいるお方です
    お侍さんが、奥さんや娘さん・息子さんに言います。

そのほう= 其の方
・・お侍さんが、部下・家族を含めた目下の人に言います。
 お侍の息子さんがパパに向かって、
「そのほうも行かれまするか?」
などというと、いくら地の部分が丁寧でも、駄目でござる。
びんたを張られますので気をつけましょう。

類似語に「そち」がありますね。
お侍さんが、家人や使用人などに呼びかけるときに使うそうです。


歌舞伎ですと、もっといろいろあります。

「そもじ 」これは、其文字です。
 男性から配偶者だそうです。

てまえ=手前
・・・「手前、生国と発しまするは・・」のヤクザの自己紹介でもご存知の、
一人称です。またしても、「こっちがわの人間」=私 です。

これに「お」がついて、「お手前」というと、今度は自分ではないほうの「あなた」という意味になります。
これは武士同士だそうです。

しかし、丁寧語はあっというまに地に落ちることがありまして、
手前、お手前も、「てめぇ!」に変化して、罵り言葉になりました。

や💮ざや、ちん💮らのみなさんが、肩を揺すりながら、

て・め・ぇぇぇ〜・・・

と言ってきたら、大抵ビビります。

これが英語で、怖いお兄さんが、

YOU~~~...

と言っても怖くないかも知れない。
言葉そのものが意味を持った、面白い例かもしれません、「てめぇ」。

貴様、も丁寧語から落ちてしまった言葉だそうですよ。

歌舞伎では奥さんが旦那さんに対して、
「こちの人」とよく言っています。
うちの人、旦那さんの意です。

世話物(リアルな芝居)では、男も女も、
あなた、のことを「こなさん」と言っております。
この語源は、私は知りません。

ちなみに旦那は、昔は檀那と書いたそうで、意味は「布施」(寄付)。転じて、寄付をする人、お寺のパトロンのことだそうです。檀那寺・檀家、と言う言葉にオリジナルな使い方が残っているそうですよ。

旦那は、何も「自分の配偶者」ばかりではありません。
時代劇にはよく出てきますが、芸人や芸者が、お金を落としてくれる男性に「旦那ぁ」と言っていますし、男同士も呼びます。目上に対してですね。
素浪人月影兵庫に対し(花山大吉に対してでもいいですが)、焼津の半次が「旦那ぁ」って呼びかけています。

「僕」と「君」は、吉田松陰あたりから、幕末の志士の若者らの間で広まった呼称だそうです。拙者・貴殿より、平等な感じがしたから、ということも聞きました。


こんなことを考えているのが好きなので、きりがなくなってきました。

「あなた」の代わりに、日本人は、「名前+さん・ちゃん 」または、
タイトル(社長・部長、女将さん、ご主人・・)を普通に使っています。

地方により違いはあると思いますが、
「あなた」 というと、改まりすぎに聞こえ、
または冷たいですとか、距離をおこうと努めている場合もあります。

喧嘩のときに、切り口上で

「じゃ、あなたはそうなさってはいかがですか」

と言われたら、怒っているなぁと思うのが普通です。

学習者が、

「あなた」はフォーマルな日本語なので、丁寧で、いい感じなのだ」

と、いつまでも思っていたらいけませんので、適当なときに直します。

また、フォーマルな場面でも、目上から目下、同レベルならあなたで問題ありませんが、下から上に使うと、「勇気あるな」となります。

💮🙆‍♀️
先生:あなたのいう意味もよくわかります。もう一度話し合いましょう。
生徒:ありがとうございます。先生の判断におまかせします。

🙅‍♂️😡
先生:山田、みんなに合わせることも、ときには必要だぞ。
山田:それはあなたの都合でしょ。
先生:ぬぅ、あなただと〜!?💢


ちなみに、結婚したばかりの頃、旦那の実家に行きますと、
全員が全員をYOUで呼びます。
馴染むのに時間がかかりました〜😭
慣れないので、しばらくはひやひやして、困りました。

中でも、義父母に対して、YOUはなかなか言えず、

YOUもビール飲みますか?

と言えないばかりに、ビール持って後ろから、そーっと、

え〜とあの〜、ビビ、ビールです。
ディスイズアビヤー、みたいな?

って、挙動不審なのでした。
義父はこれを私にやられて、ギクッと驚いていました。

今ですか?
全然平気です。言いまくっています。


続きますね。




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