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日本語教師日記51.法則がわかれば怖くない(10)語順の違いを受け入れてもらう

皆さんは、外国の方と喋っていて、まだ言いかけなのに、
遮られるようにして、相手から話し出された経験はありませんか?

うちは旦那が英語人なため、しょっちゅうこれをやられ、深刻なバトルに発展してきました。(今はお互い加齢により鈍くなり、喧嘩をしません)。


例)

私:昨日区役所の・・
夫:えっ、それがどうしたの?
私:まだ何も言ってませんがっ。

あるいは、私が普通の長さ(と自分では思っている)文章を喋っているのに、
途中で、

夫:tamadocaくん、君その話、いつかは終わるの?

と言われて、非っ常ぉ〜にむかついて、大喧嘩に発展とか。(今は加齢により・・あっ、もう言いましたね)

これは実は、語順の違いの招く悲劇で、英語(その他、日本語と言葉の順番が違う言語)を母語とする配偶者を持つ、日本人の皆さんの経験するところです。

いつか、「外国人を夫にもつ妻の集まり」みたいなのがあって、みんなが口を揃えて、

・気性が荒くなった。
・自分がこんなに喧嘩ができるような人間だとは知らなかった。
・結婚後、武闘派になってしまった。

とおっしゃいます🤣

これ、夫君に遮られ遮られ、しかし大事なことはどんなに遮られても話さなくてはいけませんから、

「黙って聞きなさいちゅうの!スピリッツ」

が開発され、気も強くなるということではないか、と妻たちがお互いを分析していました。


日本語教師の皆さんは、生徒と自由会話をしていて、最初の一言ぐらいを言っただけで、

えっ?

どうしましたか?

と、驚き騒がれた経験はありませんでしょうか。

私は、教え教えて10年になる英国人教授の方がそれでしたので、

Sさんはなにゆえに、すぐに驚いて訊いてくるんですか?
もしかして、英語の順番では、最初に言いたいことを言ってしまうため、
つまり、一番大事なことが文頭に来るため、
私が話はじめた言葉の最初の方に、大変そうな言葉があると、
驚いてしまわれるのですか?

と、訊いてみたことがあるのです。

果たしてその通りで、私はSさんから、千里眼先生として、一層尊敬されることになりました。


英語の語順:私は食べませんでしたそれを。

日本語の語順:私はそれを食べませんでした。

ぐらいなら両者睨みああわず、なんとか理解しあえます。


しかし、これが、名詞を修飾し、時間・場所ファクター、理由、誰とともに・・などの要件を入れていくと、ものすごく違います。

私は、
英語が喋れるようにならない日本人と、
日本語が喋れるようにならない外国人は、

「ここのところを、まだ乗り越えられていない人」

というふうに見ています。


私は日本語学習者の皆さんに、

「日本語って、ヨーダ先生のように聞こえますか?」

と言ったら、みなさんそうですそうです、とおっしゃいました。

じゃあと思って、私が英語の語順で(=私にとってはヨーダ先生式に)
喋ってみました。

こうです。

私はしませんでしたそれを昨日なぜなら私は持っていた・ない・のお金。
(I did not do it yesterday  because I had no money.)

通じました。

嘘だと、盛っているとお思いになるかもしれませんが、本当です。


日本語の順番に抵抗のある人は、このように話せば、通じるのです。

どうしちゃったのこの人という喋り方になります。

もちろんこれは、実験でして、
「本当に言葉の順番が高い塀になってますね」
と確認するためにやったことです。

このあと、

・・・これほど違うのですから、難しく感じても当たり前です。
だからこそ、じっくり練習をして、十分に発語をして、
変だなーという感じを薄れさせていくしかないですよ。
だから諦めずに練習しましょう。
もう、すぐに、自分が変なことを言ったら、
「あれっ?」とわかるようになりますから。
そうなったらしめたものです。


とお話ししています。


指導法:

ボトムアップが一番いいようです。

媒介語(英語)を使う場合は、語彙の確認もしたいので、絵文字があれば絵文字、なければ単語を並べます。
日本語の語順で並べると「できてしまって」練習にならないので、
英語の語順で並べます。

① 👦 🚀 

 ② [last night]

③ place factor

④ make a past negative sentence.

かなり初級者向けです。

正解はそれぞれ、

①男の子は、ロケットを見ました。
②男の子はゆうべ、ロケットを見ました。
③男の子はゆうべ、NASAで ロケットを見ました。
④男の子はゆうべ、NASAでロケットを見ませんでした。

これが難しいのか・・と思われると思いますが、難しい人には難しいのです。


ちなみに、④は日本語として不自然です。
・男の子はゆうべ「は」NASAでロケットを見ませんでした。
   (他の晩は見た、という含み)
かまたは、
・男の子はゆうべ、NASAでロケット「は」見ませんでした。
(ロケット以外は見た、という含み)
ですが、面白いけど長くなるのでやめますね。

難しい、確かに最初は唸っている人が多いです。
これは日本人が、よく勉強しているのに、「次は何言うの?」モードに入って、
I.....I.....I.....えっ?   あ〜い・・・あ〜い・・
となりがちなのと、好対照を見せています。
まさにお互い様なのでした。

けれども、少し練習をすれば、日本語の 主語⇨時間⇨場所⇨名詞⇨動詞  

の順番を間違えずに言えるように、すぐになります。


学習者は大人なので、すぐに「自分の言いたいことをすらすら言いたい」
という、燃ゆる思いを抱いています。


その、はやる気持ちに水を差すようであれですが、
レッスンでは、基本的な語順をまず定着するまで練習していただき、
そのあとで、一言一言、じわじわと増やしていく。

目の前でフラストレーションに悶々とする人を見ているとこちらも辛いですが、
急がば回れ、とはこのことだと思います。

お会いになったことはありませんか?
とても上手に喋れているつもりで、短文を繋いでいるだけの人。

行った?  昨日。ミキ、いたよ。みんなカラオケ行った。

みたいな。
ご多分に漏れず、主語を外せば上手に聞こえると思っているフシもあります。


私は、ジリジリしている生徒たちにいつも言っています。

嘘だと思っていいですから、ですます体で行きましょう。
「ですます」からドレスダウンはすぐできますが、逆はできないですよ。
騙されたと思って、半年を、私と一緒にがんばってください。

私は某国の政治家ではありませんので、
(あんまりひどい)嘘は言っていません。

日本語学習者って、大変なんだなぁって思ってあげてください。

合掌。


注:

写真は、ヨーダ師のモデルとなった、日本人の学者、依田先生です。
そのことを言うと、「じゃあ、日本語が難しくてもしょうがないですね」
と、なぜか観念してくれる人が多いです。


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