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エッセイその88.翻訳の沼(2)昔の翻訳と食べ物②

前回の続きです。

昔の翻訳は、その時代になかった物に苦労しているのが見られる事があります。


私の覚えているのは3つ、前回書きました、
「ターキッシュ・デライト」⇨「プリン」。

それからあと二つが、
「さくらんぼジャム入り薄焼き卵」と、「ザリガニ」です。

特に、「ザリガニ」は、強烈で忘れられません。


今日は、翻訳家の方の苦労のしのばれる、
「さくらんぼジャム入り薄焼き卵」
について書きたいと思います。


これは、すごく愛読した、
「すばらしいフェルディナンド」か、
続編の「おきなさいフェルディナンド」で読んだものです。

気になったのは、お店で女の子が食べていたのが、
「さくらんぼジャム入り薄焼き卵」だった、というくだりです。

まず、さくらんぼジャム、で不思議な気持ちになりました。

昔はパンにつけるものは、今と違って限られていて、
マーマレード・いちごジャム・ピーナツバターぐらいでした。

ピーナツバターは、クランチーなどというしゃれたものはなくて、
ねっとりしたペースト状のみ。
上に向かって開いた、紙の小さいパッケージで、
「ソントン」というメーカーのものがいつも家にありました。

今ちょっとググってみたら、ちゃんとあって、嬉しいです。


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ピーナツ「クリーム」という名前になっていて、
(昔は「ピーナツパター」だったと思います)、
「ずっと愛される」という一言もパッケージにあります。

クリームとしたのは、
「我々ソントンとしては、
作れなくてクランチーを作らないのではなくて、
うちはピーナツクリームの会社なのです」
と表現している気がしてきました。

パッケージが懐かしいです。このままでした。
いちごジャムや、チョコレートクリームも同じような容器でした。


そして、さくらんぼジャム。
昭和の子供たちは、果物として、そのままのさくらんぼを食べる、
と言うことが、あまりなかったように思います。

日本橋三越の最上階のお好み食堂で、
フルーツポンチや、プリンアラモード、チョコパフェなどを頼むと、
毒々しいピンクで、軸のついた、元の食感や色から遠〜く離れた、
あのお飾りのようなのが一つのってきた、あれがさくらんぼでした。
今でも小さな缶や瓶詰めで売っているけれど、どういう使い方をするのかな。
おうちでクリームソーダを作るのかしら。

それにしても、あれで作ったジャムって
どんなものなのだろう、と思ったのは間違いありません。

そして、薄焼き卵。
薄焼き卵に、さくらんぼジャムが入っているという。

薄焼き卵っていうのは、薄く焼いた卵なのでしょうが、
それをおかずにご飯を食べることはまず無いと思います。

薄焼き卵は、「錦糸卵」の元でありますね。
焼いて、千切りにして、ちらし寿司にのせます。
スイーツでなく、セイヴォリー・・甘くない方の食べ物群の一員です。

「もしかして、ポーランドには、
関東の卵焼きのように甘く味付けをした卵を薄く焼き、
それにさくらんぼのジャムをくるんで食べるのだろうか」

と思った私。

なにしろしょっちゅう読み返していた本なので、
そこまでくると必ず毎回、(なんだろな〜)と思っていました。


さて、その頃から幾星霜が経ちました。

娘たちがが大きくなりまして、仙川駅前の伊勢丹クイーンズ付近に行きますと、
その角に、クレープ屋さんがありました。

子供が大きい声で、
「お母ちゃん、クレープ食べちゃだめなんでしょう?」
と言うわけです。
そりゃもう、必ず言います。

我が家は、「あれ食べたい」「これ買って」と言うと、
必ず、食べさせず、買わず、という方針でした。


お母ちゃん、なんで食べたいとか買ってとか言っちゃだめなの?
「だめだから」
なんでだめなの?
「お父さんにきいてごらん」
お父さんもだめだって。
だけど、食べたいとか買ってとか言わないと、
食べさせてくれないし、買ってくれないじゃん。
「そうだねー」
じゃ、言っても言わなくてもダメなんじゃん。
「そうだねー」

という会話があったことを、書いていて急に思い出しました。

そういうことがあって、娘たちは、「ダメなんでしょ?」
と言うようになったのですが、ほんと、かわいそうでした。
子供には酷でしたね。


とまた、脱線したんですが、あるときそのクレープ屋で、
まぁ今日はいいよ、と言ってクレープを選ばせ、
二人がわしわしと立ち食いしているのをぼーっと見ていたときです。

私は突然に思いました。

さくらんぼジャム入り薄焼き卵って、もしかしてクレープじゃない??

と。

そう思ったらもう、そうとしか思えません。

しかし、絶版になった「フェルディナンドシリーズ」は、
Amazonマーケットプレイスでも一万円と9800円、
そして、邦訳を読んでも そこはたぶん、確認できません。

ポーランド語は全くできないので、英訳を買うしかないけど、
まあ、そこまでして確認しなくてもいいんですが、
みなさんも、あれはクレープだったと思いませんか_

おそらく翻訳家の方も、原文にあたり、どんな食べ物かを、
ポーランド側に問い合わせたりして、どんなものかはわかったのでしょうが、
クレープが当時の日本になかったのだからしょうがない。
見た目似ている「薄焼き卵」をぶっつけたのかなぁと想像しました。

私ならどうするかなぁ・・さくらんぼのロールケーキ・・
ぐらいにしていたかもしれません。
ロールケーキは昔もありましたからね。


書いていると、懐かしいことを芋づる式に思い出し、
ものすごく長くなってしまいました。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

次回は「ざりがに」行きます。


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