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日本語教師日記99.英語に頼ってはいけないところ(1)例えば、直訳だとだめな例

私は教室では直接法ですが、プライベートでは必要があれば英語を使うのはためらいません。

クラスでは、会ったばかりの人たちと1時間向き合い、
直接法(日本語のみ)でレッスンを行います。
特に初心者では、説明に使う言葉も非常に限られています。
たまに、たった一つがどうしても伝わらず、両者で、

ええとええと、
う〜む

ということになります。

駆け出しのころですが、こんなことがありました。
超初心者、2回目ぐらいのレッスンです。
あなた・わたし以外に、もう「彼・彼女」が出てきます。

人称代名詞です。
名前を繰り返しいう代わりに、she、he, theyに置き換える。
どの言語でもあるはずなのですが、
生徒の側に緊張があったか、彼が自分の理解に自信がなかったのか、
考えすぎになってしまったようです。

私:これは、アンジェリーナ・ジョリーです。
        「彼女」は、アメリカ人です。
          「彼女」は、映画スターです。


日教(日本語教師養成講座by 千駄ヶ谷日本語研究所)で習った限りでは、こうぶつけて、通じるはずでした。
でもそうはいきませんでした。

生徒:せんせい、かのじょ、なんですか?

ここで「 彼女は she です」と言えれば楽なのですが、クラスでは言えません。

他の写真を見せて、同じことを繰り返します。

Kanojoとは、なんだろうNA?

と首をひねっている人以外は、(あ、sheね!)とわかった顔になっています。

私も奮闘します。

私:これは、クイーン・エリザベスです。
彼女は◯◯さいです。

生徒:あ〜、クイーン?!

私:いえいえ、う〜む。(そっちへ行っちゃうか・・)

別の写真を出し、板書します。

ミニー・マウスです。
ミニー・マウスは、かわいいです。
ミニー・マウスは、ディズニーキャラクターです。

うむうむ! と見つめてくれる生徒にうなずきながら、
2行目と3行目の「ミニー・マウス」をホワイトボードマーカーで指し、


ミニー・マウス?  また? いいえ。
(ここで、2つめと3つめの「ミニーマウス」に消し線を書き加え、)
「彼女」です!

生徒:Oh! she!  OK!

とわかってくれました。
冷や汗かきました。


英語を使って教えることの是非ですが、先生ごとに意見があると思います。

英語が母語じゃない国からも生徒たちはたくさん来ているので、
基本、クラスのグループレッスンでは英語を使いません。
生徒の国の数だけ、母語と同程度に話せる日本語教師はなかなかいないでしょうから、直接法は現実的でもあります。

ただ、この「かのじょ」で、10分も使うと生徒の時間を無駄にしますので、このときは使っても良いでしょうね。

初心者であっても、頭をひねって自分で着実に理解して行った方がいいのは当然なので、媒介語を使うのは本当に慎重にしなくてはいけません。

名詞はまだいいのです。
日本語にあって、彼らの国にないものは、ビジュアルで一瞬に伝えられます。

問題は動詞ですね。
特に、英語で教えてくれる先生にばかり当たってきた人で、
頭の中に対訳表を作るのが普通になっている人です。
N2以上で、類似表現がたくさん出てきて、苦しむことが多いです。


生徒がどこかで間違えていると、例文を作ってもらうと発見できます。

「日本語教師は英語を教えてるのが仕事ではないのだから、
     完璧を目指さなくてよい、理解の助けになれば十分だ」

という説には十分賛成していますが、
これ教師が知っておかないと、嘘教えちゃうな〜、と思うことも、また多々あるのです。

例えば、「期待」という言葉があります。

期待していただけに
期待が持てる
君には期待しているよ。

これを読むと、日本語の「期待」の特徴がわかります。
日本語の「期待」は、「良いこと、ポジティブなこと」を予想して、起こるであろう、起こってほしいという気持ちを抱くことです。

ところが、英語人に対して、
「期待の意味はexpectation です」
教えてしまうとだめなんです。

英語のexpectには、良いことも悪いこともあるからです。

作文で、
「私たちは大きな台風を期待しています」
などの文を見つけると、ここで止めます。

私:英語では、何かが起こりそうだというとき、いいことでも悪いことでも使えるでしょ?

生徒:はい。

私:日本語はいいことに使ってください。
あなたの上司が、「私はあなたに期待しています」と言ったら、
その場で喜んでください。

生徒:私の、何に、期待していますか?

私:あなたのこれからの成長に、ということですね。
言わなくても、「あなたに期待している」っていうのは、そういうことなんです。


翻訳の世界で、「悪い翻訳は、原文が透けて見える翻訳」と言われますが、
確かにその通りで、生徒の間違いの中に、

「ああ、あれを、ああ間違っているな?!」

と、ちゃんと透けて見えています。
面白いものです。

次回、頭の中の対訳表だけで中上級まで行ってしまうことの悲劇についてお話しします。


内容に合った写真がなくて、鳥からのパクチーソース和えの写真をのせました。



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