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エッセイその89.翻訳の沼(5) 私もしょっちゅう誤訳例大祭


先日、米国人で 日本語⇨英語 の翻訳を仕事にしているAさんに、
私の拙訳を直していただく機会がありました。

Aさんは、言いにくそうに教えてくれました。

「tamadocaさん、翻訳、よかったのですが、
一つだけちょっと気になることがありまして・・」

(ちなみに、会話は全てこの通り、日本語のみです)

この翻訳は、去年翻訳コンクールに応募して、
かすりもしなかったものです。


以下に
原文 ⇨ 悩んでいるメモ ⇨自分の翻訳と続きます。


・・・・ここから・・・・・

7:34 p.m. Friday, 14 February

Location: A truly horrible bar designed to make everyone feel like they will never belong anywhere in life. There’s a gold-plated moose head on the wall, a giant, fake-gold chandelier, mirrors everywhere, and uplighting. What kind of monster do you have to be to install uplighting?

I am sitting still, very still. I’ve arranged myself into the perfect casual-but-attractive pose at the bar, with my best side(the right) facing the door. It’s not terribly comfortable, but that’s alright because MWCBTO(Man Who Could Be The One) should be here any second, and if films have taught me anything - and they have taught me everything - love at first sight is key to all this happily ever after stuff.


(?_?)
uplighting とは?
怖い話をしているときに、懐中電灯で下から照らす、
そういう上向きのライト? 別のもの?
貴重な出会いの場なのに、変なライティングが恨めしい?

What kind of monster do you have to be to install uplighting?

直訳:
上向きライトを取り付けるに、どのような怪物でないとなりませんか?

意訳:
何を間違ったら、こんなライトにできるわけ?
このライト、ほんと勘弁して。
なにが悲しくてこんなライティング・

しっくりしない。何かを見落としているのか。
ねじ曲げすぎか・


・・私の訳したもの・・

2月14日(金)7:34pm

現場:まじ酷すぎるバー。「この世のどこにも居場所がない」と万人に思わせる仕様。壁には金めっきのヘラジカの頭、金まがいのシャンデリア、壁は やたらに鏡だらけ。そして下から照らすライト。
なにが悲しくてこういうのにしようと思ったわけ?

私はじっと静かに座っている。バーカウンターに、完璧な「すかしてないけどいい女」を装って座り、自分が一番綺麗に見える方(右側ね)を、ドアに向けておいた。くつろいでいるわけはないけれど、それはいい。今にも「運命の君」が、そのドアから入ってくるわけだし、私が映画から何か学習してたとしたら(全ては映画から学んでるんだけど)、一目惚れは その後のハッピーエンドにつながる重要事項だから。

・・・・ここまで・・・

まだまだ全然ギクシャクしていますね。
原文を尊重したいが、踏み外さない範囲で意訳もしたい、
と悶々としているのがよくわかります。
読み返して思いました。

(落ちるわけだ・・・)

かつて、アカデミー出版の「超訳」というのがありまして、
作家さんに訳してもらったりして、読みやすくないこともないけど、ここまでやったらひどいでしょう、という意訳・・いや、ストーリーの提出順さえ、「こっちの方が面白い、わかりやすいから」と変えてしまったという超訳、あれにはすごく反発を覚えたので、自分が訳する時の、ある意味「足枷」になっているのでした。


そして以下が、Aさんに教えてもらったことです。

「What kind of monster do you have to be to install uplighting?

というのは、連続殺人犯などについて、

What kind of monster is he to do this!
(なんたる鬼畜の所業か!)

というな、紋切り型の言い方があります。

この小説で彼女が問題にしているのはライトの向きなんですが、
この彼女いま、ブラインドデートのために格好つけて座っている。
それなのに、ライトは「怪談」をするときのような下からのライト。
これは彼女には酷です。
そこで、わざと、メディア報道の言い方を踏んで、
「どんな鬼畜がこんなライティングをしたのでしょうか!」
と、言わせた、ということなのです。



言われて冷や汗がでました。
教えられなければ一生わからないことです。
まことに、オノレの限界をまざまざと感じました。

この仕掛けは、この国の人、
普段からその言い方を知っている読者だからわかる可笑しみ。

私には理解できないし、どんなに工夫した訳をしても、
日本の人にはその「共通の土壌」がないため、
おかしくもなんともないかもしれません。


こんなとき、足掻いても越えられない翻訳の壁を感じます。

疑問ともなんとも思わずに、陽気に間違って訳してしまう私。

これがあるから、面白いのかもしれませんが・・てこれ、負け惜しみ?


続きます。

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