【マンガ紹介 #9】僕の妻は感情がない【小ネタバレ】

家事ロボットとの「恋愛」を考えつつも、きちんと夫婦として暮らす上で両者の考えをまとめていく夫婦ストーリー。

一話を読む場合には下記リンク


作品データ

巻数:7巻(連載中)
作者:杉浦次郎 (著)

あらすじと1話

近未来、社会人3年目で集まった貯金で中古の家事ロボットのミーナを買った小杉タクマ。
「ただいま」「おかえりなさいませタクマさま」のやり取りが成立する。冷蔵庫内の食材から好きな食べ物リストから健康とランダムで料理する高級家電製品。
少し疲れていたのかほろ酔いを少し過ぎる程酒を飲みながら「嫁さんが居たらこんな感じなのかな」と漠然と彼は思った。心地よい気分且つ缶ビールを口元に添えたまま「僕のお嫁さんになってくれない?」と冗談を漏らす。そして彼女は機械的に「かしこまりました」と答えた。出来上がったオムライスには「LOVEタクマ」がハートの中にあるケチャップアート付き。
マニュアルにはそんな応対をするという記載は無い。いてもたっても居られない彼は、半分嬉しさ半分焦り、または端的に浮足で彼女を手伝おうとするも空回り。恥ずかしながら初恋をも優に超えると直感しながら手を握り返す等の彼なりの精一杯の愛情表現を示す。
就寝時間、とても眠れる状態ではない頭の中の喧騒を抱えてたが「タクマさま」と唐突に声を掛けられる。
「お好きなものは何ですか?」明日の献立はランダムで良い。
「何がお好きですか?」レシピ登録されてる物は大体。
「他には何かありますか?」レシピに登録されてる物ならば、と言いかけた矢先、迸る衝動と共にスッと起き上がり彼はこう伝えた。
「君が好き、君が一番好きだよ」「かしこまりました」
確認できたことに満足したためかスリープモードに入るミーナ。それを見守るタクマ。眠れない夜は暴走する感情と共に。
その感情は悪夢となってタクマは叫びながら起き上がる。自分の愛情が変な形で伝わらないように「昨日ミーナちゃんのこと好きって言ったけど、料理して食べたいって意味じゃないからね!」手を強く握りながら伝える。彼女は自身が金属と合成樹脂で構成されてるため健康的に食べるのに相応しくないとロボット的回答をする。
ただそんな淡々とした、人間には無い認識の不一致を感じさせない回答に対して安堵を覚えた。それでもこの安堵だけでは自分の「好き」は伝えられてはいるが完結していない。本当に彼女は受け取ってくれているだろうか。疑問が重なる度にビール缶を開ける。
酷く酔い始めてる彼を見て、彼女は無理やり水を飲ませたり健康面を労り始めつつ「ミーナひゃんビール持っへきへ...」と唸る彼に、わざわざビール缶をシンクにて素手で破壊しながらストックが無いことを伝える。
「みぃーな」「はい」「ミーナひゃん」「なんでしょう」
「僕のことをどう思っている…ミーナちゃんにとって僕ってなに?」間髪入れずに彼女は答える。
「タクマ様は夫です」幾つかの機械的な確認項目を満たしながら最終的にタクマ本人に「普段やっていることと変わらないように思いますが」ただ彼は泥酔中何も決着がつかないまま夫婦らしいこととして布団へと誘う。初恋以降特に恋愛をしていなかったため女の子と同じマットの下は余りにも刺激が強すぎる。特に暗闇でも輝く彼女の瞳を閉じさせたら破壊力は抜群。
まだ、文字通り夫婦の営みに慣れない彼はただただ彼女が傍にいてくれるだけで嬉しいことを告げて夜を過ごした。
次の朝、薄目でこちらを見つめる彼女。昨日の寝床で伝えた光輝く目を閉じて欲しいという願いは曲解として伝わっていた。至近距離で見つめあってドキドキするから閉じて欲しいと言っただけで恐怖の意味は含まれてないことを伝えつつ綺麗な瞳をしてると言い、朝っぱらからイチャイチャするのだった。

惹かれた点

判らないことを表現できても、何がどう判らないのかを口頭で全て説明させることも無く、二人の平和な擦れ違いだけで表現している描写が多い。時にその擦れ違いは大きくその他を巻き込みつつも二人の愛は止まらない。大変素晴らしい。
また別作品との比較になってしまうが、ロボット物によくある「感情が無い」ことのカタルシスが「感情を覚える」や「自己犠牲」を行うことに焦点が当てられやすいのに対して、この作品はかなり多角的に表現してるし、様々な日常シーンもただ描写するだけでなく二人のQOLを上げつつ二人が叶えたい夢を追う描写もある。
1話の時点から察せるが妻である小杉ミーナは無表情のまま過ごすし、妻であるポジションを全面的に表現することになるため、そんじょそこらのロボットよりも「ロボット」であることに着目される。中には善意ではなく礼節の上で最低限な装いですらなくデカデカと悪意で対応する者も居るが、まったくもって苦難ではなく、飽くまでも出会いの延長線上で付き合いが続く。中には誤解や認識をすぐに改めることもあれば、表に出てしまった悪意共々誠意を違う形で貫く人も居る。
言わば社会的ロールをきちんと全うしつつ、ロボット物によくある「試練を与える者」としてのトークンだけでは済ませず、きちんと夫婦または周辺のロボット共に様々な方向で歩み寄っているため、互いの生を全うし続けてるのが伺える。
また全体のコマが勢いやアングル調整は余りせず、二人の全体像を映すことが多いしアクション漫画のような

巻毎のネタバレコメント

今作は大変気に入っており巻数ごとに微量のネタバレを含めたコメントを残す。このコメントを踏まえた上でも展開が判らないようにすることは意識しているが避けられる形式にするため以下お読みになられる方は慎重に巻数を選んで頂きたい。また幸いにも私の文章力ではその巻の全て語りきることは不可能なので読んだとしも、お手に取った際も十分満足いく体験ができることは付記しておく。

1巻のネタバレ付きコメント

上司との弁当箱のシーン、超好き。近未来という設定なので「昭和的・令和的」という表現がまったく合わないがオフィス内は昭和築の昭和風の内装ではあったし上司と飯食うのも若干古い時代の思想ではあるが、その肝心の上司がメチャクチャ現代的な思考だったし、そう実感させた方法も秀逸だった。

2巻のネタバレ付きコメント

私も高速タックル食らいてぇな。でもこの二人と同等の愛情表現が出来る気がしない程、二人は互いに誠実である。ただいつもの部屋で、何気ないタイミングで日常の続きとして描写されたことを踏まえると、我々人間同士も常日頃愛情を意識すべきと思わされる。
あと何だかんだでスーパーミーナさんとミーナさんの関係は、スーパーミーナという完全知的生命体のおかげで説明が人間寄りだったり嬉しさを余すことなく表情に出しているので判り易いが、同時にミーナさん也のロボット同士の接し方が初めて露わになった関係性でもある。複数話で補足するように互いの上下関係が無いことを示すが、プログラミング言語でよく言われる「マスター/スレイヴ」でも無ければ「親/子」関係ではなく、互いに人間の役に立てることをに注力する様子を全てひっくるめて友情と言いたい。

3巻のネタバレ付きコメント

デメテルVI型さんの名前と役職と外見超好き。特にロボット物は「不気味の谷」現象に関してSFの中でもかなり敏感なジャンルではあるし、初めての「モブロボット」が出てきたのもデメテルさん。出場するコマ数は少なくとも手やしぐさや姿勢から「安心・安寧」を示すための所作を表現しており、完全に対人間用なことが伺える。
またその回とは別にスピーカーの回も好き。

4巻のネタバレ付きコメント

この巻は小杉タクマの親族が続々と登場する。最初は読者の不安をそのまま体現するかのような振る舞いになるが、タクマさんがそうであるように、大変思慮深い家系であることが伺える。また確かに「試練」ではあったが、タクマさん自身がしっかりと認識しないといけない試練を一番穏便な形で与えた厳しくも大変優しさに溢れる方々であることが伺える。

5巻~7巻のネタバレ付きコメント

本巻から二人が社会に溶け込み始め、そのために様々なキャラが出てくるが紆余曲折に二人と関わっていたり、また二人の成熟された関係性の特殊性を表現するために存在したりする。それが巻跨ぎするので今回は数巻をまとめてコメントしていく。
二人の新居に関しては杉浦先生の本領発揮が出た瞬間があり、儀によって儀を成す。儀を施している家主を説得させ新たな儀へと昇華させた。他作品も含めてしまうコメントになるが昨今では「呪い」をテーマにした作品がバトル・ホラー・コメディとジャンル問わず業界で盛り上がるを見せているが、呪いの儀の実態とその高すぎる日常性が、人間本来の強みを全面的に出している。個人的には「傀儡謡 怨恨みて散る」のような怨嗟を一番体現してる気がする。
また出てくる高校のロボット研究会、生徒達の真摯さには心打たれる。物理学の宿題問題の「ただし摩擦は無いものとする」のような議題と意見の粗さはあれど、理想を口にする上で自分の世界と実世界の不和に対する不満を率直に言いつつも、自身の内にある正義の揺らぎを鵜呑みすることも出来ず、本音を漏らしたり謝罪を取り入れて、大変青臭くて大変良い。
そして同じニーナ系統のサツキちゃん。初めてロボットの希〇念慮を見た。いや理論上「Nier Automata」が初めてになるが作者のヨコオタロウ氏がパネルで示したように余りにもファンタジー要素が多いため現代に沿わないリアリティで希〇念慮を表現していた(注釈:飽くまでもリアリティ基準の話での匙加減とする)。またこの界隈では当たり前の「ロボット三原則」を如何に応用するかも、ロボット物の大きな約束事である。そして本作のサツキちゃんは見事に体現せしめた。
サツキちゃんの願いは本当に叶わないし遺された我々だけでは主人の祈りを知る由も無いが、使命と命令と莫大な愛情はサツキちゃんの器には余りにも容量不足だった。「一緒に壊れてあげたかった」

最後に

SF日常ロマンス、無理やり本作をジャンル付けするなら左記のようになるし確かな要素も確認できるが、最終的には二人の愛が確かなものであることを多角的に見せるためだと思っており、ガッチガチの構造主義な私としては取り巻く環境は確かにロボット用に整備されてはいないが、少しの労力で安寧を得られることを考慮すると二人の未来は輝かしいものだと伺える。
また最後になってしまうが、杉浦先生の作品は全作品読んでるので以前「ニセモノの錬金術師」の感想を書いた際にいつかこの作品も書こうと意気込んでいた。そして突如アニメ化の知らせが入る。筆を取らずにはいられなかったので今回執筆した。アニメおめでとうございます。
是非これを機に、本作もお手に取って頂けますと幸いです。
最後までお読み頂きありがとうございました。

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