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マクロファンドが考える5月のカタリスト、米中・財政パッケージ・経済再開について

機関投資家でも、バンクのトレーダーでも、ヘッジファンドでも、投資の仕事に関わる人達の月初のミーティングといえば「今月のカタリスト」は何か?についてだろう。

カタリストとは相場を動かすドライバーのことで、言い換えれば「これからマーケットは何に注目していくか?」ということである。

少しだけ私の投資プロセスについて話をすると、私自身は、マクロ投資(国際情勢や金融政策、ファンダメンタルズの動向を見極めて投資する手法)を以下のプロセスに則って行っている。

i. マーケットのカタリストになるテーマをブレストする
ii. カタリストとなるテーマの展開を分析
iii. 各カタリストと市場の織り込みのギャップ(=投資機会)を分析
iv. 投資戦略(デルタの取り方・損切り/利食いのポイント)に落とし込む
v. 実際にトレードする

twitterやnoteでは、このうち、i )とii )を中心に発信している。

最初のステップであるカタリストのブレストは、独りよがりになら無い為にも、自社だけでなく、他社を含めたトレーダーやファンドマネージャーとディスカッションをすることが多い。

カタリストとなるテーマの展開分析は、大半を自分自身(または社内のメンバー)で考えるが、市場織り込みとのギャップを考える上でも、エコノミストやシンクタンク等の意見にもできるだけ耳を傾けるようにしている。(エコノミストの話を信じるというよりは、"エコノミストの見方=市場での織り込み"として考えることが多い)

さて、今日はこの数日、他のトレーダー達と話をしていて、5月の相場のカタリストになりそうなテーマが三つ挙がってきているので、それを紹介したい。

コロナウイルスの対応を巡る、米国 vs 中国のヒートアップ
米国では「コロナウイルスが中国の研究所から漏れた」という話をしきりにメディアが報道するようになっている。

特にトランプ政権からは(開示された証拠はないが)、大統領も国務長官も「中国の研究所から漏れたという証拠が多数ある」と発言している。

政権が急にコロナウイルスが中国の研究所から漏れたと発言し始めたのは、ある意味で、米国のコロナウイルスによるショックがピークを迎え、徐々に「コロナウイルスに対する対応を振り返る反省の時間」に入ったとも見える。

つまりトランプ流の責任逃れである可能性は高い。

トランプ自身は、コロナウイルスによる死者は、当初想定された死者数よりも遥かに少ない数で収まりそうだと自画自賛しているが、足元の支持率が落ちてきている為、責任を転嫁しようとするインセンティブは高い。

一方で、昨年の貿易戦争の教訓から、トランプ政権は、マーケットが不安定な時期に対中強硬策を取ると米国にもしっぺ返しがくるということがわかっている。

昨年はトランプ大統領が関税を急遽引き上げると発表したことをきっかけに、8月にリセッション懸念が広がり、株価は8%近く調整した。

今のマーケットは昨年以上に神経質な状況であることを踏まえると、8%程度の調整では済まないだろう。

当然、トランプ政権はそのことを熟知しており、関税を発動すると、中国からの報復と、株価下落に見舞われ、支持率をさらに落とすリスクがある。

そう考えると、大統領選までの間に米国側が中国に制裁を科す可能性は低く、トランプ政権としては「中国に対して拳を上げて国内向けにアピールするが、振り下ろすこと(関税発動)はしない」という戦略が最適解になる。

米中問題の展開について、マーケットでは、まだコンセンサスが出来上がっていないが、"大統領選までの間に米国側が中国に制裁を科す可能性は低い"との上記の帰結はロジックも単純であり、マーケットが受け入れ易いコンセンサスになると考える。

現時点で、今後、この考えがコンセンサスになっていくことに違和感はない。しかし、今月は香港人権法案に基づく報告書の提出期限があることや、そもそも中国側にもトランプ大統領を引きずり落とすインセンティブがあることを考えると、リスクはコンセンサス以上に高いと感じている。

次期大統領選の民主党候補であるバイデン氏はオバマ政権時代から中国との親交が厚く、親中派としても知られている。

中国側からすれば、次の4年間がバイデン氏になるのであれば、肉を切って骨を断つ戦略を取る可能性も考えられ、中国は米国の挑発にあえて乗った上で、自ら貿易合意を破棄するリスクもあるだろう。

米国の財政パッケージ
既に第二次世界大戦に匹敵する財政出動を行なった米国であるが、さらなる財政パッケージが議論されている。

まだ柔らかい段階の話であり、マーケットでもコンセンサスは出来上がっていない。

現時点では給与減税を取り入れたい共和党と、州政府支援を取り入れたい民主党の間で意見が分かれている。

民主党が主張する州政府支援は、実は前回の財政パッケージに組み込まれるはずであった。しかし、共和党がそれを受け入れず、最後は民主党が折れる形になっている。

これには理由があり、現在、コロナウイルスによる経済的ダメージを多く受けている州の殆どが民主党下の州であるため、共和党は民主党の案に乗りたくないのである。

一方、トランプ大統領が主張する給与減税は、失業者支援には繋がらないと民主党は批判的だ。

意見が真っ向から対立していることを踏まえると、「どちらかが通る」という可能性よりは、「どちらも通る」or「どちらも通らない」可能性が高い。

財政パッケージの規模は民主党の州救済が1兆ドル、給与減税は最大で1兆ドルとも言われており、規模としては十分、マーケットのカタリストになるだろう。

マーケットは現時点で、金額や時期を含めてコンセンサスが出来上がっておらず、何も織り込んでいない。

ロックダウン解除の成否
今日からイタリアのロックダウン緩和が始まっているが、米国でも徐々にロックダウンを緩和する州が出始めている。

4月はショートカバーが先行する中で、経済再開の期待が高まった月だったが、5月は期待から、経済活動の再会を「評価」する時間帯に入るだろう。つまり、これからは、経済活動の回復度合いとコロナウイルスの新規感染を抑えられるかという点がカタリストになる。

経済活動の回復度合いを測る上で、今注目されているのがGoogleが提供するMobility Reportだ。

これは消費者のスマホ位置データからレクリエーション施設、交通機関、職場などにどれほどの人が戻ってきているかを指数化している。

米国や日本では州・都道府県レベルでレポーティングされており、速報性も高い。何よりもこれほどのデータが詰まっているにも関わらず、無料というのも有難い。

コロナウイルスの新規感染者が伸びるか否かは、ウイルスの潜伏期間も考慮するとすぐに結果を知ることはできない。最低でも二週間は様子を見るほかないだろう。

マーケットの期待値は予定通りロックダウンが解除されるところまでは、フルに織り込んでいる。

その後の回復度合いについてはU字、もしくは戻っても8-9割というのがコンセンサスになりつつあると感じている。


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