#1 日記 「姉のお腹」

姉が仕事を終えて21時過ぎに帰宅してきた。
帰宅してすぐに入浴するとのことだったので、いそいそと服を脱いで準備をしていた時だった。

姉「ちょっと!これ見て!お腹の中心にこんなの珍しくない?!」

服を半脱ぎ状態でとても年頃の女とは思えない格好で私に近づいてきた。

よく見ると、へそのちょうど上のあたり、お腹の中心に赤ニキビができていた。

私「ほんとだ…これはなかなかないね…」

私も私で、姉の腹にできた赤ニキビをさも貴重な生き物を発見したかのようなリアクションで観察してしまっていた。

姉「これ、腹ニキビだよね?腹ニキビなんて、あたし聞いたことないよ。」

そりゃそうである。だいたいニキビができるところと言えば、顔だったり背中や胸が代表的であり、あまり「腹ニキビで悩んでいます…」という紳士淑女は見たことがない。(私が知らないだけかもしれない)そんなものが姉の腹に居座ってしまったのだから、ある意味選ばれた女である。

私「まぁとりあえずお風呂入ってきなよ」

と、一応冷静を装って入浴を促したところで、姉が突然、

姉「あんた、あたしがお風呂に入っている間に、腹ニキビで一句、なんか歌詠みなさいよ。作っておくのよ!」

そう言い残して、湯煙に消えていった。腹ニキビができるくらいの女だから、やっぱり考えることもぶっ飛んでいる。

私「したら、腹ニキビが季語ね!」

ここに1人、真のバカがいたのだ。

布団で寝転がっていた私は、水を得た魚のようにスマホのメモ機能を片手に、筆を、いや指をすべらせていた。もうどうしようもない妹なのだ。

姉「お風呂上がったけど、できた?!」

私「できたよ!3つくらいかな〜」

姉「じゃあ、あたしがお風呂場で考えたやつはね…」

…? あ、姉も考えてたんだ。それは知らなかった、まさかの合同での歌詠みだったのか。ふーん…

姉「打ち上がれ へその上から 腹ニキビ
  って感じかな。あんたは?」

私「まず一つ目ね。
  夜も更けた わずかに感じる君の鼓動
  触れればすぐに 腹ニキビ
  って感じだね。
  二つ目は、
  腹ニキビ 人に問うても意味はない
  我が身に生きる 赤きソウル
  三つ目は、
  振り返る 己の道になきことを
  新しきを知る 腹ニキビ だよ。」

姉「いや、すごいじゃん。この短時間でよく三つもさ〜。腹ニキビは、もう冬の季語だね!」

私「けっこう楽しかったわ!腹ニキビでここまで飛躍できるとは…」

私達は、謎の達成感に鼻息を荒くしていた。別に褒められることじゃない。歌を詠むのは風情があっていいが、季語が腹ニキビだのなんだのって、庶民が過ぎるのだ。

姉「あんた、このことnoteに書きなさいよ!腹ニキビの歌も入れるのよ。」

姉にそう言われて、この度の次第である。これが初めてnoteに公開したエピソードなことに少しばかり後悔が残る。でも、2人で夜な夜な歌を詠んで楽しんだから良いことにしておこう。

歌は無限だ…



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