NHKのひろしまタイムラインの差別扇動ツイートについて

 すでに様々な人がこの件について指摘していると思いますが、私なりに今回の問題点をまとめておきたいと思います。私は歴史学は素人ですから、この記事は、今回の騒動における感想に過ぎないものです。

1.問題の発端。

 今回問題となっているのは、しゅん@ひろしまタイムライン(@nhk_1945shun)というアカウントです。

 このアカウントは紹介によれば、「75年前の中学1年生・新井俊一郎さんの日記をもとに、今の広島の10代が想像をふくらませ、「シュン」として伝え」るものだということです。

 問題の発端は以下のツイートです。

 このツイートは、いわゆる「朝鮮進駐軍」、朝鮮人が日本に攻めてくるということを示しています。

 これ以前にも、朝鮮人のツイートをおこなっています。例えば、以下。

 一方で、このツイートの基となったであろう日記には、朝鮮人という言葉は出てきていません。

6月16日(土) 晴
 我々は、今日も勤労作業に出動した。それは、県内〇〇村に行き、そこで軍の〇〇作業を行なふためである。朝早く広島駅に集合し、汽車に乗って〇〇村へと行った。暗いカンテラの光の中で熱汗を流しつつやった。実に草臥れた。秘密のことなので作業のことは以上しか書けない。午後四時半、汽車にて帰宅。

2.何が問題か。


2-1.改ざんの問題

 日記に書かれていないことを、NHKが改ざんしてツイートしたことになるということがまず問題です。この点については、8月21日にNHKが反論しています。それについては3.で後述します。

2-2.差別の扇動の問題(こちらのほうが重要)

 そもそも、「朝鮮進駐軍」というものがあった事実はこれまで示されていません

 もちろん、「朝鮮進駐軍」ではなくても、「朝鮮人が攻めてくるという事象が存在した」かもしれませんが、人種を特定して、事実かどうかわからないものをなんの説明もなくツイートすることは差別の扇動(ヘイトスピーチ)です。

 関東大震災においても、「朝鮮人が攻めてくる」といった全くのデマが起こり、殺傷事件が起こっています。

3.どうすべきだったのか。

 もちろん、シュンくんが当時、このような差別思想をもっていて、日記に書いたのかもしれません。当時は情報の伝達にも問題があり、デマがデマを呼ぶ状態であったと推察されます。現代の意識でシュンくんを責めることはできません。戦争当時の状況を伝えることがこのアカウントの目的ですから、このようなツイートをするな、とは言えないかもしれません。

 このようなツイートをするのであれば、その当時の歴史文脈を踏まえたうえでの、注釈をつけるべきだったでしょう。日記をそのままツイートするだけでは、事実の誤認が起こりえます。

4.NHK側の対応。

 NHKは、「8月20日のシュンのツイートについて」として、ツイートについて以下の見解を述べています。

 まとめれば、日記とインタビューから、シュンくんが実際に考えたことをツイートしているに過ぎないから問題はないという認識です。

 しかし、これは今回の記事でいう1.にしか答えておらず、2.の問題についてはまったく答えていません。

 NHK側は自らが差別の扇動を行っているということに気づいていないのでしょう。現代の価値観を歴史に投影することは非常に危険です。しかし、それは、歴史に注釈をつけず、そのまま垂れ流さなければいけない、ということを意味しません。その当時の事象が、なぜそのようになったのか、様々な面から検討しながら注釈をつけていくことが必須になります。


なお、この記事は「朝鮮人差別があったことを隠すべき」と言っているわけではありません。念為。

5.追記(2020/8/22)。

立憲民主党の塩村あやか参院議員が、以下のツイートをしていました。

 このツイートには事実誤認と、歴史への姿勢にかんする問題点が存在します。

5.1 事実誤認について

 まず、もともとのツイートの問題点を指摘している人は、「寝た子を起こすな論」を提唱しているのではないということです。これについてはすでに述べています。そして、塩村さんのいうように、「差別をしてきたことを恥じ、二度とこんな教育をしないと確認をしたい」ならば、それこそ注釈が必要であるでしょう。差別の扇動にならないように、確実に校正・注釈が必要であると考えます。

 NHKは、このツイートが差別をうむという可能性を考えなかったのでしょうか。あるいは、手記やインタビューでそういった主張があることをそのままツイートすることが、差別の撲滅につながると考えたのでしょうか。普通に考えれば、朝鮮人を差別することにつながるとわかりそうなものですが。

5.2 歴史への姿勢について

 「当時を知る事は大事。歴史だからだ。この企画の本質は、当時のリアル=「歴史」を知る事だと思う」と塩村さんは述べていますが、そもそもこのツイートはシュンくんの目線で書かれたものです

 歴史学において、手記や証言は非常に重要ですが、事実誤認やヘイトスピーチ、間違いが起こってはいけません。そのために、様々な視点から事象を見つめて、間違いが起こらないようにします。そのうえで、意義なり、論点なりを提示していくわけですが、今回のNHKの企画はそのような歴史学のまなざしが全くない、ただのバラエティになっている節があります

 そのようなものを「差別の歴史を知る」ために有益と断定して、妄信してしまうのは、たんなる視野狭窄に陥っていると言わざるをえません。

 塩村さんのbioには、以下のように書かれています。

「差別やヘイト肯定のアカウントは申し訳ありませんが、ブロックさせて頂きます」

 塩村さんの無邪気なツイート肯定が、差別やヘイト肯定を後押ししていることを認識してください。「世の中の風潮を改善させる」ためには、このようなツイートを野放しにしておいてはいけないのです。


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