駆け込み訴え/太宰治
※こちらはネタバレありの感想文となります。ご注意くださいませ。
イエス・キリストを銀三十枚で売った有名な裏切り者、イスカリオテのユダをご存知でしょうか。
裏切り者の代名詞となってしまうほどの大罪を犯した彼はどうしてそんな裏切りを働いたのでしょうか。
理由は多くの哲学者や神学者などが考えてきたけれど、中でもとびきり異質な理由を提示した人間がおりました。
それが太宰治先生。
駆け込み訴えで太宰先生は、ユダがイエスに恋愛感情を抱いており、それが原因で裏切ったのだとお話――最早二次創作の域ですが――を書いています。
青空文庫というサイトにある駆け込み訴えのページを貼っておきます。無料で読めますのでぜひ。
紙が良いという方は様々な出版社さんから短編集などの形で刊本として出ておりますので書店で探してみてくださいね。
あらすじ
旦那さまと呼ばれる者の前に訪れた1人の男。
その男は大層興奮した様子で「あの人」について告発をはじめた。「あの人」が如何に自分を憎み嫌い、意地悪をしてきたのか。どれほど「あの人」を献身的に愛してきたのか。まるでジェットコースターの様に目まぐるしく回る情緒末に、彼は「あの人」の居場所を告白する。
感想など
これを初めて読んだのは約2年前。その時の感想が残っていたのでまずそちらを共有させて頂きます。
なんて酷い。殉死なんて望むべきでは無いです。
まず、この物語で注目すべきところはユダの情緒不安定さだと思っています。
彼は最初、こんなことを言っています。
イエスへの嫌悪感や怒りを露わにして、すぐにでも殺してくれと言わんばかりの様子。
しかし、ここからイエスの居所を言うまでになんと約12540字もかかります。
この間に彼は、イエスのことを阿呆なほどの自惚れ屋だの凡夫だのと貶したかと思いきや、愛してるだのあの人が死んで私も死ぬだのとヤンデレムーブをかましたり、矛盾がありすぎる。
こんなのを聞かされ続けた旦那さまの身にもなってみろと言いたくなります。
ただ、この矛盾ばかりの独白。読みながら若干思い当たる節が私にもありました。それは何か。
そう、推しへの感情です。
好きだと愛していると言っていたのに、突然もう推すのを辞めたいと言い、少し経てばまた世界一愛してるだのなんだのと言い回る。
殺せとまでは言わないが、彼がいなくなったら私も死ぬくらいは言ったことがある。
そんな私は傍から見たらユダと全く一緒ではないか。私は彼のことを笑う資格なんて無いのではないか。
それに気がついた途端、なんだかユダがとても愛おしく近しい存在に感じられました。
きっと、ユダはまだ揺れているのです。イエスに恥をかかせられて復讐したいと望んだけれど、やっぱり1度愛してしまったその気持ちは消えずイエスのことをすぐに切り捨てられずにいる。
だから、あんなにだらだらと独白を続けたのです。
そして最後の最後。
無理やり銀三十に惹かれイエスを売った卑しい商人に、イエスに出会う前の、ただのイスカリオテのユダになろうとしてあんな言葉を口にしたのでしょう。
と、まあここまでが2年前、初見の感想です。
実際2年経ってから読んだ感想は確かに上記ような感想も抱きましたが、やはり時間が経てば感性も少しづつ変わり違う感想も抱けるようになりました。
まず、ユダは全体を通して自分が愛したイエスとは違いすぎていて癇癪を起こしているのです。
イエスは聖者に近しい存在です。万物に愛を与え、俗世から遠い人物です。弟子たちや民衆はそういったイエスを崇拝しています。
しかし、ユダは違う。イエスのそういった面ではなくもっと俗らしい、ただの人間としてのイエスを愛しているのです。
だから気持ちが揺れているというよりは、「この世で1番貴方を愛しているのに、どうして私が愛した貴方になってくれないんだ」と怒っているのです。
最後に
ここに書いたことはあくまでも私の感想ですから
皆様が読めばまた、違う感想を抱くと思います。
この駆け込み訴えのいいところは読もうと思えば15分もかからずに読めるというところ。
太宰先生の書く、狂気的で美しい世界に飛び込んでみてはいかがでしょうか。
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