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アメリカン・ブッダ 読書感想文


コレまで海外古典SFばっかをメインに読んでいたこともあったし、日本SFはじつはあまり読んだことがなく日本SFといえば神林長平を好んで読んでいたくらいだった。

先日とあるSF作家さんと知り合うきっかけがあり、その著作を読んだことがきっかけで最近の日本SFもだいぶ凄いことになっていることを感じさせられたので、最近話題となっていた柴田勝家のこの著作を読むに至った。
 そのSF作家さんの作品はそのうち読書感想文に上げる予定。
最近の私の興味がVRやAI等のテクノロジーが社会に与えるであろう影響や加速主義等のSFスペキュラティブ的な分野で、また元々民俗学や宗教等にも興味があったからである。
この柴田勝家は表題のアメリカン・ブッダを始めSF的ガジェットと民俗学を駆使した独自のSF作品を発表している。
まさしく今私が読みたい小説で手を伸ばさない理由がないわけだ。

このアメリカン・ブッダはタイトル自体がパワーワード過ぎて半ば出落ち感が否めないが、読み進めてみると確かに『アメリカン・ブッダ』であると認めざるを得ない。
文庫あらすじに或るように、
『もしも荒廃した近未来アメリカに、 仏陀を信仰するインディアンが現れたら――未曾有の災害と暴動により大混乱に陥り、国民の多くが現実世界を見放したアメリカ大陸で、仏教を信じ続けたインディアンの青年が救済を語る書下ろし表題作』とある。
三題噺的なあらすじ構成かもしれないが、その仏教的要素と重要人物がインディアンである必要が確かに感じられる、半ばネタバレとなってしまうが、世界を破滅させた大災害の後、多くのアメリカ人はアニメ『アクセル・ワールド』的なVR世界の中に移住し、現実世界より時間が大きく乖離し引き伸ばされた世界に新たな生活基盤を移していた。
その世界「Mアメリカ」では既に現実のように社会が形成され、国家のようなものや現実の企業の様に不自由のない暮らしが約束されている。
そんな中荒廃した現実世界より交信があった、ブッディストのインディアンだ、正確にはブッダの信仰に近い信仰形態をもつインディアンの末裔の青年からであった。
彼の交信は自身の出生から彼の部族アゴン族の教えなどが語られるが、彼の数時間程の交信の間に「Mアメリカ」では何十年の歳月を経てその間に彼に関する議論やアゴン族の実在を疑う声、現実世界の様子などでもちきりとなる。 
その彼の語る仏教の教えやインディアンについてが本編では大きな主題として語られるが、終盤に差し掛かることでネイティブアメリカン出会ったインディアンを迫害し「アメリカ」を支配した白人の罪の問題や、VR世界の自由な生活すなわちアップグレードされた人的感覚を捨て去り現実世界と向き合う仏教的「四苦」の葛藤、また鯛の中の鯛的世界説やそして最後の冒頭に登場したブラフマンのくだりの伏線、そして感動の覚者との対面などこの短編に多くのアイディアや唸らるギミックが散りばめられている。

また短編集となっており表題作のほか、VR世界で一生を終える少数民族、未来の自分の助言と向き合う短編、一族の封印された過去を埋めた壁に纏わる怪奇譚、すべての物語を病原体とし国内に持ち込ませない検疫官の仕事ぶりを描く作品、他の長編小説に登場する南方熊楠が英国留学中に対峙した天使事件など、他の作品も見どころが多いので、機会があれば是非一度読んでほしいと思える短編集だった。




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