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--SS|めくらの王子

 国王には2人の息子がおりました。
 兄の方は盲目の王子です。幼い頃に目を患って以来、王子は家臣に頼りきりでした。着替えも食事も移動すらも、自分でできません。王様は、そんな王子の存在を恥じていました。
 一方、弟の方はたいそう壮健な若者でした。自分の部屋には召使一人入れません。自分のことは全て自分でこなします。そんな彼に、王様はしきりに感心しておりました。

 ある夏の日には、東西の隣国が手を組んで攻めてきました。すると王様は、2人の王子に戦に赴くように命じます。盲目の兄は西の国境へ、弟は東の国境へ軍を従えて向かいました。
 勝鬨を上げたのは弟です。東から攻めてくる敵軍を破り、見事帰還を果たしました。一方の兄は西の戦に負け、敗走を余儀なくされました。王様は言葉無く溜息をついたといいます。

 日は流れ、若い2人の王子はともに成人の時を迎えました。この国では、世継ぎが成人するタイミングで、次期国王として皇太子の冠を授けるという風習があります。王がどちらの王子を皇太子とするつもりなのか、家臣たちは誰一人知りません。しかし、王様の心はもうすでに決まっている様子でした。

 一人の老臣が、王様の部屋に入っていきます。意を決してどちらを皇太子にするのか尋ねると、弟の王子の名が返ってきました。
 老臣は少し考えてから言います。兄の王子を皇太子にすべきだと。老臣はわかっていました。弟の王子が部屋に召使を入れないのは、召使を信じていないからだということ。戦争で勝てたのも、味方の戦死を厭わなかったからだということ。  
 王子様は目が見えません。しかし、誰よりも家臣を信頼し民を大事にされている。そんな方こそ、立派な君主となるのではないか。老臣はそう続け、王の部屋を後にしました。

 迎えた戴冠式の日。王が冠を乗せたのは、兄の王子でした。王子は盲目ゆえ何が起こったのかまだわかっていません。しかし、自分に触れた手が国王の--愛する父の手であることは、はっきりとわかったようでした。

Fin.

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