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再生医療ってなんだろう? (1) -培養肉と再生医療の切っても切れない関係-

こんにちは、ビビです。私のお散歩コースにある、ちっちゃなカフェ🏡。ずっと気になっていたのですが、先日、やっと立ち寄ってみました。グルテンフリーのケーキ🧁が、めっちゃ美味しかったです。素敵なお店を見つけた時って、何だか世界が楽しくなりますね🐾

さて、今回は4回くらいにわたって再生医療等について書いていこうと思います。等? そう、「再生医療等」なんです。まずは、その理由からお話しますね。
それから、初回は、再生医療と培養肉🍖の関係についてもお伝えしたいです。この2つを取り上げた意外な理由を楽しんでいただけると嬉しいです。
シリーズの予定:
1️⃣再生医療分野の紹介:培養肉と再生医療の切っても切れない関係
2️⃣再生医療分野の課題:治療用細胞の製造ってめちゃめちゃ大変!
3️⃣再生医療分野の研究:新しい分野の研究は天才的なひらめきに支えられている!?(前編&後編)


🦠再生医療等って?

再生医療という言葉が、あちこちで聞かれるようになりました。でも、具体的にどんなことを示しているのだろうと思っている方も多いはず。
「再生医療」は、『機能障害や機能不全に陥った組織や臓器を、細胞や人工的な材料を利用して、「機能の再生」を目指す医療』って感じでよく説明されます。
何となく、分かったような、分からないような・・・?。他にもよく聞く、細胞治療とか、遺伝子治療とはどう違うの?って、思った方のために、もう少しだけ詳しく解説してみます。
この分野の製品を、正式には、「再生医療等製品」といいます。かつて主流であった低分子医薬や、高額な薬価が時折話題となる抗体医薬などとは異なるカテゴリーです。この「再生医療等」には、再生医療、細胞治療、遺伝子治療の3分野の製品が含まれます。文字通り、細胞治療は細胞を使った治療、遺伝子治療は遺伝子導入技術を使った治療です。
お気付きの方もいらっしゃると思いますが、再生医療には最初の定義の通り、細胞を使った技術(細胞治療)も含まれますし、その細胞には遺伝子導入(遺伝子治療)が施されていることもあります。つまり、3つは、それぞれ別の治療カテゴリーではなく、時には重複したカテゴリーとなります。

例えば、心筋細胞をシート状に培養し、心機能の弱った患者の心臓に貼り付けて機能を強化する治療は、組織と細胞の中間のような印象はあるものの、再生医療とされるでしょう。これがシートを作らず、細胞のままの投与であれば、再生医療であり、細胞治療でもあります。遺伝子を導入して免疫力を強化した細胞を患者さんに投与する場合、細胞を使うので細胞治療であり、遺伝子導入もされているので遺伝子治療でもあります。これが、遺伝子を生体内に直接送り込んで治療をするのであれば、単に遺伝子治療です。慣れないと、ややこしい関係ですね。

iPS細胞から目的の機能を持つ細胞に分化させ、これを治療に用いる研究が進んでいる

そんな再生医療等、特に細胞を使った治療にかかる製造現場や最近の研究などを見ていくシリーズです。

🦠培養肉と再生医療の関係を紐解く

突然ですが、皆さんも食料自給が、この先、どんどん厳しくなっていくのをご存知だと思います。
世界の人口は2050年には100億人近くに達し、食料需要は増える反面、気候変動の影響などにより、供給が伸び悩むことが予想されています。かなりポジティブに見込んでも、世界の食料需給ギャップは現在の102パーセントから90パーセント程度に落ち込むとされています。日本はもともと食料自給率の低い国です。農林水産省発表では自給率は38%で、他の先進国と比較しても極めて低いです。自国で賄えない分は、他国からの輸入で賄うしかありません。何らかの事由で食料事情が切迫した場合、十分に入手できない可能性もあります。また、食料の中でも重要なタンパク源の一つである肉類は、動物を生育させる必要があり、その過程での環境負荷が高いと言われており、環境負荷の少ない代替えタンパク源の開発が求められています。
こうした中で、安定的に食料、中でもタンパク源を確保する手段の一つに培養肉(家畜を飼わず、人工的にお肉の素となる細胞を培養し、食用肉に成長させる)が挙げられており、世界中の企業、特にスタートアップがその市場を獲得するため、鎬を削っています。

培養肉の原料となるのは、牛などの家畜から採取された細胞です。その中でも幹細胞と呼ばれる、無限の増殖能力を持ち、かつ目的の機能を持つ細胞に分化する能力を持つ細胞を選び出します。そして、それを大量に増やした後、筋細胞に分化させることで食用肉を獲得しようという作戦です。これが成功すれば、火星へ向かう宇宙船内でも、牧場を作ることなく、牛肉を食べることが出来るかもしれません。

実は、培養肉の細胞培養技術は、再生医療のそれととても関連があるのです。

シャーレに細胞とその栄養素となる培地を添加して培養肉を育てているが
ステーキ状にする技術はまだ研究途上

🦠再生医療と培養肉の共通の課題 <3D培養>

今までのバイオ研究で培った技術で、細胞を2D、つまり一列に並んだシート状に増やす方法は一般的であり、比較的簡単です。培養容器の底面を物理的処理、あるいはコラーゲンなどでコーティング処理した、細胞が接着しやすい環境下で培養します。この場合、細胞は床面をシート状に広がって増えていきます。細胞が増えすぎて床面が埋め尽くされ、さらに盛り上がって重なってしまうと弱って細胞死を起こします。

これに対して、細胞を小さな球状の塊になるように培養する技術の研究が進んでいます。底面を非接着性にすることで、細胞がごく小さな塊状(Spheroid、スフェロイド)に成長します。2Dと同様に単一種の細胞を培養するのですが、Spheroidの方が、より生体の細胞に近くなります。例えば、肝細胞であれば、重要な代謝酵素であるCYP系のタンパク質の発現が増加し、これらの発現率がより生体に近くなることが知られています。この細胞を用いることで、創薬研究において重要な肝毒性試験をより適切に実施することができます。
また、こうした培養法の違いによる細胞特性の変化は、再生医療の研究でも、治療の目的や他の要因と合わせて考慮され、シート状にして移植するか、Spheroidでの投与にするかなど、決定されます。

培養肉においても、Spheroidの研究はメリットがあります。底面に細胞を培養するよりも液中でSpheroidとして培養するほうがメリットがあります。底面に接着した状態で培養する場合、細胞がある程度底面を埋め尽くした段階で細胞を試薬を使って丁寧に剥がし取る作業を繰り返し、徐々に増やしていくため、手間がかかりますが、Spheroidは液中に浮遊していますので、これを回収し、新しい培地に投入するだけで比較的容易に増やすことができます。また、体積あたりで培養可能な細胞数も多いです。
理由は少しずつ違いますが、再生医療でも培養肉でもSpheroid培養の研究が進んでいます

ご紹介したいずれの培養方法でも、単一種の細胞で培養することが基本ですが、実際の食肉は筋細胞だけでなく、脂肪などの成分も含んでいます。幹細胞から筋細胞だけでなく、必要な他の細胞種にも分化させることは難しかったのですが、筋細胞と脂肪顆粒を含んだSpheroidにする方法を、順天堂大学の研究グループが報告しています。お肉に旨みがついた感じでしょうか。Spheroidの概念も少し変わりつつあります。

ちなみにですが、3Dプリンタ技術を使ってもう少し大きな構造物に仕上げる方法があります。Spheroidをインクのように使うのですが、プラスチック素材などのようにすぐには接着しないので、Spheroidをニードルで串刺しみたいにして、ニードルを支柱のように使って、固定します。その後、そのまま培養して細胞が増え、隙間を埋めつつ接着していくことで、うまく目的の構造物が出来上がります。あまり厚みが増えないチューブ状の構造体が得意なようです。

このように様々な3D培養が研究されていますが、なかなか大きな細胞塊を作ることができていません。その一つの理由に、栄養分が塊の奥まで行き渡らないことによる細胞の壊死があります。中心部は、死んだ細胞の塊になってしまうのです。通常、生体の臓器には血管が入り込んで栄養や酸素などを輸送していますが、生体外での3D培養ではまだ血管を適切な位置に作らせることが難しいようです。

🦠再生医療と培養肉の共通の課題 <安全な培地>

細胞を培養するための培地についても研究が必要です。通常、実験で細胞を培養する場合、細胞の成長を促す生体因子などを多く含む牛胎児血清(FBS)を添加しますが、大変高価であるだけでなく、動物由来であることから、抗原性のある異種タンパクやウイルスの混入が完全に否定できないため、由来のわかる化学物質等で置き換えることが求められています。

細胞を培養するための安全な培地の研究は、培養肉と再生医療の共通の課題

培養肉でも再生医療でも、無血清で使える培地が必要なのは同じです。さらに培地の成分を変更することで、細胞の分化を促す研究も進んでいます。例えば、iPS細胞の性質を維持するための培地を使えば、分化することなく、どんどん細胞が増えます。そして、適切なタイミングで特定の因子などを添加したり、取り除いたりすることで、必要な機能を持った細胞、培養肉の場合は筋細胞に分化させることができます。
より低コストで効率的に、かつ安全に必要な細胞を培養する方法を、大学や企業の研究者が日々、研究しています。

余談ですが、培養肉に焼いた時の香りをつける研究も進んでいるようです。食事は五感でするもの。こちらも今後の研究が楽しみです。

最後に一言だけ。
私の知人にも、将来火星を旅する際の食生活を豊かにしたい!と、培養ウナギの研究をしている人がいます。こんな素敵な野望が、サイエンスを切り開く原動力なんだなと考えると、みんなの「夢」と「想い」がとても輝いて見えてきますね。

🦠次回は・・・

今回はここまでです。
次回は、再生医療の製造現場のお話をしていきますので、楽しみにしてください。
このお話は、ポッドキャストをもとに書かせていただいています。ぜひこちらも聴いていただけると嬉しいです🌻

サイエンマニア
133. 生きた細胞を食料や医薬品に?今ホットな再生医療分野について語る!
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