見出し画像

自治体でのナッジ研修レポート:1日ナッジ研修@水戸市役所

こんにちは。ポリシーナッジデザイン合同会社の植竹香織です。
元横浜市職員で、現在は起業して自治体等におけるナッジの政策活用のサポートを行っています。

今回は、2023年8月に水戸市役所で行われた「1日ナッジ研修」についてレポートします!


「いばらき県央地域連携中枢都市圏職員人材育成事業合同研修」として行われた本研修は、2023年8月29日、30日の2日間にわたって開催されました。
ポリシーナッジデザイン合同会社の植竹が講師を務め、水戸市及び近隣市町村より、2日間で60名を超える職員の方々が参加されました。

研修プログラムは9:00〜16:30まで行われ、大まかに90分x4コマで次の各テーマを扱いました。

<研修プログラム構成>
1:公共政策とナッジ、行動科学の理論、ナッジ手法EAST
2:ナッジの政策活用プロセス(1)(目標設定と行動分析)
3:ナッジの政策活用プロセス(2)(ナッジ戦略と効果検証)
4:政策立案演習(グループワーク)、まとめ(ナッジ活用時の注意点及び実践上のポイント(倫理的配慮、プロジェクト管理等))

ナッジ研修プログラムの構成(ポリシーナッジデザイン合同会社)


1コマ目は「入門編」として、ナッジに関する基礎と公共政策における活用の意義や国内外での活用事例などの概要をご紹介したのち、人間の持つ思考の癖である認知バイアスについてエビデンスとともにクイズ形式で説明。その後、ナッジの4つのポイント「EAST」の各手法を国内外の具体的事例とともに解説しました。

2コマ目では、ナッジの政策活用プロセス(目標設定→行動分析→ナッジ戦略→効果検証)の概要を説明。また、その基礎となる人間中心設計(Human-Centered Design)についてもご紹介しました。
目標設定のステップでは、「意識だけではなく行動に着目すること」などの原則を解説。行動分析のステップでは、目標行動をどうすれば促進できるかという視点から、行動の分解や行動の阻害要因の検討という行動分析の方法について解説したのち、具体的な課題をもとにテンプレートを活用しつつ個人ワークを行っていただきました。

行動プロセスマップテンプレート(©︎ポリシーナッジデザイン合同会社)


お昼休みを挟んだ研修の後半、3コマ目では、ナッジの政策活用プロセスの後半である、ナッジ戦略と効果検証について概要を説明しました。

ナッジ戦略については、EASTの活用と同時に、フォッグ行動モデルに基づき「動機」と「能力(行動のとりやすさ)」を双方一定以上に上げていくことが必要という考え方もお伝えした上で、再び個人ワークに取り組んでいただきました。

フォッグ行動モデル(フォッグ2021を参考に作成)


効果検証については、まずは効果検証の必要性を理解したうえで、状況に応じた適切な効果検証手法の目処が付けられることを到達目標としました。 現状の課題(なぜ前後比較では必ずしも政策効果が正確に検証できないのか?)から、ナッジの効果検証時によく用いられるランダム化比較試験(RCT)や差の差分析などの手法とその活用場面を中心に説明を行いました。

4コマ目では、ワークショップを行いました。

テーマは、「がん検診の受診率を向上させるには?」としました。自治体からがん検診の通知が送られてきた経験のある方も多いと思います。がん検診を受けるという行動は、重要性を認識している場合でも「時間がない」「面倒」「自分だけは大丈夫」といった気持ちが生じやすく、先延ばしされやすい行動です。

5〜6人のグループに分かれ、各グループで行動プロセスと各行動の阻害要因・促進要因を検討し、阻害要因を解消するような方策(ナッジ)のアイデアについて議論いただき、その後全体共有をしていただきました。

<共有されたアイデアの概要>

●開封を促すためのアイデア
・開封しやすいよう圧着ハガキや切り取り線のついた封筒の活用(Easy)
・封筒にくじをつけたり、招待状のような高級感のあるデザインの活用、「●●市からの特別なお知らせ」といったような注意を引くメッセージの掲載(Attractive)
・同年代の受診率や罹患率を表示(Social)
・忙しい人が多い時期は避け、週末の前の日(金曜日)に到着するように送付する(Timely)

●検診への関心を高めたり重要性を認知してもらうためのアイデア
・まんがで説明(Easy)
・子どもに家族の健康について学ぶ宿題を出す(Social)
・検診を受診したことによる早期発見エピソードや治療の体験談、罹患者からの受診おすすめメッセージの掲載(Social)
・実際に罹患した場合の治療費用や治療期間を記載(Timely)

●予約申込を促すためのアイデア
・デフォルトで受診日程を指定しておく(Easy)
・予約不要・手ぶらで受診できたり、チェックボックスにチェックを入れるだけで申し込める(Easy)
・その人向けにカスタマイズされたおすすめプランが表示される(Easy)
・託児先の提供(Easy)
・一定期日より前に申し込むことで割引が受けられる「早割」を導入する(Attractive)
・友人同士など、複数人で申し込むことで割引が受けられる(Attractive, Social)

●受診当日の確実な受診を促すためのアイデア
・前日にリマインドを行う(Timely)

ナッジ研修参加者の発表より

最後のまとめでは、「もし効果が見られなかった場合、どう改善していくか?」「ナッジ活用時の倫理的配慮の必要性とポイント」「ナッジプロジェクト運営時のコツ」など、実践時に判断に迷いやすい点を中心をご説明しました。

1日ナッジ研修の感想として、次のようなお声をいただきました。

<アンケート回答>

●研修内容についてのご感想

「実務に近い内容、生かせる内容で学ぶことができたため、とても理解しやすかった」(40代、男性)

「考え方や取り組み方法など自分の業務や政策立案等活用できる研修内容でした」(30代、男性)

「目標の設定からアクションまでの流れを体系的に学ぶことができて良かった。」(30代、男性)

「行動プロセスを分解して考えて、それに対する阻害要因を見つけナッジを考える、という一連の流れを個人ワーク等を通して実際に考えることができたので理解しやすかったと思います。グループワークでそれをさらに共有できて理解が深まりました。」(30代、女性)

「各グループの発表に丁寧な講評をいただき、講義の内容がさらにわかりやすくなりました。」(40代、男性)

「ただナッジ手法によって目標を達成するのではなく、効果検証や拡大可能性の検討をすることが印象に残った」(30代、男性)

ナッジ研修参加者アンケートより


●業務での活かし方についてのご感想

「どの部署に移動しても、どのような仕事をしても、ナッジは有効に使えるんじゃないかと思いました」(20代、男性)

「非常に手軽に、担当者レベルの発想で実施できる部分もあるので、とても有用な考え方であると思いました。」(30代、男性)

「なぜ思うようにいかないか、と考えるときに、プロセス・阻害要因を丁寧に洗い出すことから始めようと思いました。」(20代、女性)

「自分の業務の中で課題になっていることを、行動プロセスマップを使って分析し、政策立案に活かせたらいいなと思いました。ナッジの視点で今までの広報の仕方を考え直してみたいと思いました。」(30代、女性)

「行政の施策の周知は、とかく情報過多になりがちだが、行動分析、EASTを意識することで、手法の整理、効果の向上が可能であることが実感できた。今後の施策形成に生かしたいと思いました」(40代、男性)

「役所内の業務において、よく周知、啓発というものがあり、どれだけ行っても効果が薄いような気がしていたが、きちんと「行動」にフォーカスし、かつそれにまつわる理論的背景を学べたことで、効果が高い周知・啓発ができるのではないかと思った」(30代、男性)

ナッジ研修参加者アンケートより

●組織内での共通認識化についてのご感想

「わかりやすく伝えるという点は、自治体が苦手としている部分かと思うので、もっとナッジの考え方が広まって欲しいと思いました」(30代、男性)

「自分だけでなく組織(特に課長や補佐など)として共通認識を持てるとやりやすいと思います」(30代、男性)

「この手法を実際の業務の中で実践するには、全員が知っていないとできないと思ったので、必修の研修として組み込んでもいいかなと思いました。」(30代、女性)

ナッジ研修参加者アンケートより


このほか、多くの方々から非常に励みになるお声をいただきました。お招きいただきました水戸市役所の皆様、そして研修にご参加いただきました皆様、本当にありがとうございました!


(後記)

この記事では、講師として参加させていただいた水戸市役所での「ナッジ研修」についてご紹介しました。

一般的には、ナッジ研修というと2時間前後の入門研修をご依頼いただくことがほとんどなのですが、今回は、一日のプログラムを2日間にわたって担当させていただきました。

数年前では考えられなかったナッジに対する理解や期待を感じたと同時に、参加者様には丸一日という長い時間を割いていただくこともあり、必ずその後の実践や政策立案に役立てていただくため、「どの情報をどの深度まで取り入れるか」という点に非常に気をつけて研修プログラムを組み立てました。

通常の研修では時間の関係でなかなかできませんが、スモールステップで、応用を可能にするようワークの時間を多くとることができました。また、自治体と民間双方の立場から政策ナッジに関わってきた自らのこれまでの経験を活かし、実務上のポイント解説も随所に入れさせていただき、実践の際の困りごとをある程度解消できるような内容とすることを目指しました。

特にグループワークでの活発な議論の様子が見られたこと、またアンケートで多くの参加者の方々から貴重なフィードバックをいただけたことが大変励みになりました。

なお、アンケートではナッジを組織内での共通認識とすることについてのご意見をいただきました。この点については、世界初のナッジユニット英国行動インサイトチーム(BIT)が2023年3月に発行した行動科学の応用に関する指針"Manifesto"においても、「行動科学を組織に組み込む」ことが10の重要項目のうちの1つとして挙げられています。

今回の研修を通じて、受講者の方ひとりひとりがそれぞれの自治体や業務にてパイオニアとなっていただき、より良い公共政策の実践につなげていっていただくことを期待しております!

(文責:ポリシーナッジデザイン合同会社 植竹香織)
(写真提供:水戸市人事課)


ポリシーナッジデザイン合同会社のナッジ研修についてはこちらから


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?