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海外のナッジ実践事例③:ウィルス対策(外出抑制ナッジ)

このシリーズでは、海外のナッジ実践の最新事例をお伝えします。今回は、ウィルス対策のナッジ事例を3回に渡って紹介します。

最終回の今回は、「外出抑制ナッジ」をご紹介します。

ナッジとは、自分からその行動をしたくなる環境づくりをすることで行動の変化をサポートする手法です。ウィルス対策として求められる社会的距離(ソーシャルディスタンス)をとるためには、人々の行動変容が不可欠ですが、人との距離をあけたり、外出しないようにするというのは、平常時にはなかなかないこともあり、規範が明確に共有されていません。つまり、周りの状況をうかがって、やっている人がいれば自分もやるけど、周りがやっていなければやらない、という心理に陥りやすい状況でもあります。その壁を越えるために、ナッジが役に立ちます。

テーマ3:外出抑制ナッジ

ウィルスの感染拡大を防ぐために最も重要なのが、人との接触を減らすこと。そのためには、なるべく多くの人に、不急の外出はせず自宅で過ごしてもらうことが必要です。どのような考え方に基づき、どのような手法やメッセージが効果的なのか、海外での事例を中心にご紹介します。

①コミットメント

コミットメントとは、よく用いられるナッジの手法の1つで、宣言(宣誓)してもらうという意味です。その際には、他の人にわかるような形で宣言してもらうことで、さらに効果が高まります。下記の"Stand Against Corona"(コロナに立ち向かおう)のウェブサイトでは、「手を洗う」「くしゃみをするときは口を覆う」「社会的距離をとる(外出自粛)」「他者への配慮を行う」の4つの項目を守ることを宣言することができます。世界中で、いろいろな人がコミットしているのがわかるのも良い点です。


②代替行動の提示

これまで外出して行なっていた行動が、家の中でもできることを示したり家の中での過ごし方を具体的に提案すること、すなわち代替行動を提示することも有効です。

深呼吸する、ストレッチする、お気に入りの曲を聴く・・・など、空いた時間を有意義に過ごすためのメニューが紹介されています。


日本でも、「オンライン飲み会」や「オンライン帰省」が勧められています。これまでと異なる新たな行動をするには、心理的なハードルがありますが、なるべくイメージしやすいように具体的に示すことで新たな行動をとるハードルを下げられます。


③「顔の見える犠牲者効果」

「みんなのために」「感染リスクの高い人のために」というよりも、顔の見える一人を思い浮かべさせることが効果的というエビデンスがあります。例えば、「田舎に住む自分のおばあちゃん」など、自分の大切な人を思い浮かべてもらい、その人を守るためと考えてもらうことで行動変容を促すことができるかもしれません。

④インセンティブ

ロシア・モスクワでは、学校閉鎖期間中は公共交通機関の学割運賃が適用外になっているそうです。私たちも、定期が切れている日は今日は出かけなくてもいいかと思いますよね。人の行動を変えるためには、少額のインセンティブでも活用できることがわかる事例です。

日本では、帰省を自粛した学生にお米とマスクをプレゼントする自治体も。インセンティブとしてだけでなく、自粛は皆に応援される行動だという社会規範を示し、自炊の助けになって外出頻度も減らせる、まさに一石何鳥にもなるナッジです。


⑤向社会的メッセージ

ただ「家にいて」「外出しないで」と望ましい行動を伝えるだけではなく、行動がもたらす結果をポジティブに伝えて利他性を喚起することで、行動変容につなげる効果が高まります。

イギリスの医師たちが作成した映像では、「あなたが自宅に留まることを選択すれば、他の人たちの命を救うことになる

ニュージーランド警察は、ちょっとユーモアを交えて、「TVの前でゴロゴロするだけで人類を救える」とツイートしています。


なお、このような利他性を喚起するメッセージは、日本においても効果があるというエビデンスがあります。広島県で、災害時の避難行動を促す際にどのようなメッセージが有効なのか検証した結果、この種のメッセージの行動変容効果が高いことがわかっています。


⑥メッセンジャー効果

メッセージの内容とともに、そのメッセージを誰が伝えるかという点も重要です。人間には、いくら正しいこと・すべきことを言われても、反射的に反発したくなる心理があります(心理的リアクタンス)。ある行動をとってもらいたいときには、相手に響くメッセンジャーは誰なのか、よく検討してみるのも1つの手でしょう。

心理的リアクタンス:
何かをするよう指示されると、反発して逆のことをしたくなる心理。
(例)宿題をやりなさいと親に言われるとやりたくなくなる。


ナッジの観点から人々の行動や現象を捉え、自分ができることを考えるヒントにしよう

緊急事態には、将来の見通しが立たず、また不慣れな状況にさらされることで判断力が落ちてしまって、通常であれば起こらないような反応が見られることもあります。危機においてこそ、人間の思考の癖(バイアス)を前提としたコミュニケーションが重要になると考えられます。


<バイアスについてもっと知りたい方へ>

代表的な認知バイアスを事例とともに解説しているサイトです。

<おまけ>

ニュージーランド警察のTwitterはユーモアいっぱい。トップの画像は、今週の星占い・・・よく見ると、どの星座も「あなたは家で過ごすでしょう」となっています。つまり、みんな家で過ごしてくださいということですね。

現状のような、普段と異なる状況、個人の自由がきかない状況はストレスがたまります。こうして上手に情報発信していくのもナッジの1つだと言えそうです。




この記事は、2020/4/8のYBiT研究会での発表をベースに、日本の事例についてはその後リサーチしたものも含め紹介しています。
文責:植竹香織(横浜市行動デザインチーム)

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