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イカフェス

「イカがいつでもとれて羨ましいですね。」

何気ない一言が全ての始まりであった。

長崎県の北のほうにある離島、壱岐島ではイカが年中水揚げされるらしく、時期によって様々なイカが食べれた。対馬海流に乗ってやってくる様々なイカたちは島の人々の舌を唸らせてきた。中でもアオリイカ、ケンサキイカなどは有名だ。

豊かな自然と環境で豊富な作物が取れることからなんでもあるのが島の大きな魅力だが、一つだけを選んで世間に売っていくとなると選ぶのが難しかった。そんな中で選ばれたのが「いつでもいるイカ」であった。様々な種類が様々な季節にやってくる。そして晩秋になると何種かのイカが混じり合う。

壱岐島の「イカ」のおいしさ、食べ方を普及していくことで壱岐島の魅力を発信していこうということになった。年中イカがとれる珍しさを売りにしてイカの魅力、食べ方、種類などを伝えていこう。イカのカレンダー、イカレシピ本、イカグッズ、イカサミット、イカファイト、イカマネー、様々なアイディアがイカを題材に形になり商品化やイベント化されていくようになった。その中でわたしも島の人々と一緒にイカを美味しく食べる「イカスパイス」を作った。ハーブとスパイスそして昆布に壱岐島の塩を混ぜ合わせ作ったミックスはイカフライ、イカサラダ、イカ焼き、イカパスタ、イカご飯と様々なものに加えることで複雑さと豊かさを与えてくれた。

晩秋に多くのイカの種類が水揚げされるから全国に声をかけて「イカフェス」を開こう。そうやって始まったのが毎年11月10日に開かれるようになった。イカの足が10本あるのと1がイカっぽいからと言った簡単な理由からであった。最初の規模は小さかったが年を重ねるごとに規模は大きくなり、日本全国、世界各地からイカシェフが集まり壱岐島で腕をふるうようになった。合わせて勉強会や会合も開かれるようになりイカの知識が深まる場となっていった。

面白いこと、楽しいこと、ためになることにと多くの人に声をかけ、多くの人々が壱岐島にイカを求めてくるようになった。しかし集まっていたのは人だけではなかった。今まで出会うことがなかった世界中のイカたちもそこに集められていた。大きな水槽の中で集められたイカたちは人間たちには聞こえない周波数の音でコンタクトを取るようになった。

今でも毎年11月10日は「イカフェス」が開かれている。

イカによるイカのためにイカフェスである。

そこにかつての人間の姿を見ることはできない。

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