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パプリカ 暗く美しい思い出

私の中でパプリカといえばスペインである。深い青色に覆われたスペインの港町。細い路地の脇にそびえ立つ薄汚れた白い壁たちが道を暗くする。空の青さや明るさに比べると暗い日常。乾いた空気と湿った曲調のフラメンコ。うすら暗い世の中をパッと明るくしてくれるのが眩しいほど赤いパプリカである。



その昔、スペインから船を海に出しアメリカ大陸からパプリカの元となる唐辛子を持ち帰ったのは探検家コロンブスである。その後、どのようにパプリカの原産地と呼ばれるハンガリーに渡ったかは諸説あるが、一説にこんな話がある。ハンガリーの一部を支配していたオスマン帝国の高級官史がハンガリーの美しい水汲みに恋をし、自分の庭に閉じ込めてしまったそうである。閉じ込められた娘はその庭園でいろいろな新しい植物に出会う。その中に赤い美しい実をつける植物があった、その植物を乾かして粉にしてトルコ人たちは料理のアクセントに使っていた。高級官史が逃げ道として掘ってあった抜け道を見つけた娘は夜な夜な抜け出しては恋仲の農民の少年と密会をしていたそうである。少年は娘が持ってきた珍しい植物の種を植えたそうである。数ヶ月後オスマン帝国はハンガリーを追われることになったが、少年が植えた種は真っ赤な実をつけたそうである。それがハンガリーを代表するスパイス、パプリカの始まりだという。故にハンガリーでは昔パプリカのことを「赤いトルコ胡椒」とも呼ばれていたそうである。



パプリカには毛細血管壁の維持に大事なビタミンPや体細胞の正常な成長に重要なビタミンAも多く含まれているが何より注目されているのがビタミンCの含有量である。ハンガリーのパプリカはオレンジやレモンの5〜6倍ものビタミンCを含んでいるのである。壊血病の予防や治療にも大きく貢献したこの発見をしたセント・ジェルジ博士は1937年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。
パプリカの花言葉に「君を忘れない」というのがある。オスマン帝国の男がハンガリーの美しい娘を忘れられないのか。それともアステカ神話にある話、アステカの火の女神チャンティコは食の掟を破りパプリカと焼き魚を食べるのを忘れてしい、怒った食物の神トナカテクトリは罰としてチャンティコを犬の姿に変えてしまったそうである。犬の姿に変えられてしまった女神を思い出した気持ちが「君を忘れない」に繋がったが由来なのか。



思い出の中に色鮮やかに現れる美しい思い出こそがパプリカなのかもしれない。



「君を忘れない」



雲ひとつない真っ青な空の下、暗いバルの一角で響くフラメンコの震える歌声が忘れられない。


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