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美しい表現者「パッチプルス」

毎月始めの金曜日に「季節を楽しむスパイスの会」として旬の食材をいろいろ集めてきてはスパイスで様々な料理を作っていく。そんな会も4年か5年もやっている。毎月開催なので毎回来なくても大丈夫なのだが、いつからか同じメンバーが来月の予約もしてくれるようになり、ここ2、3年は馴染みの顔ぶれで毎月開催している。和気藹々と進む中でもベテランのスパイス使いの腕が光る。卓上に並べられた旬の食材たちはあっと言う間に10種類をも超える様々なスパイス料理にアレンジされていく。「季節を楽しむ会」なのだから変わりゆく季節を楽しめば良いのだが、それだけでは物足りず、毎度様々なテーマを考えてみる。「カラフル」だったり「ロースト」だったりと食の表現だったり、調理方法だったりするがこの前開催した会は「夏に食べたかったカレー」をテーマにしてみたところ参加者の一人が冷たいカレーを食べたいとリクエストがたった。そしてありがたいことに南インドはアンドラプラデシュに伝わるメニューの存在をも教えてくれたのである。南インドで多く食べられているトマトとタマリンドの酸味が美味しい豆をベースとしたさらっとしたスープ状のラッサムという料理があるが、アンドラプラデシュに伝わるラッサムの一つで「パッチプルス(pachi pulusu)」という冷たい状態で食すラッサムがある。

「パッチ プルス」パッチが冷たいという意味らしく、プルスはスープだったり液状のものを指すらしい。タマリンドの酸味をベースに黒糖の甘み、青唐辛子の辛み、塩の塩見をベースにフレッシュな玉ねぎやトマト、ミントやパクチーなどを刻んで中に入れて作る、最後に別のフライパンで油を熱しスパイスをテンパリングしたものを加える。香ばしい香りと旨みが加わりただのスープからパッチプルスに生まれ変わる。それを冷やして飲むのだが、確かに「夏に飲みたかった!」と言った味で名前の可愛さと味の良さに瞬く間に気に入ってしまった。

それからあらゆるところでチャンスがあればパッチプルスを作ってきた。最初をオーソドックスなパッチプルスを作っていたが段々と「酸味」「甘み」「辛み」「塩見」がバランスよくなっていて冷たくて美味しければ良いのだと、勝手に解釈を広げ時にはブドウや梨と言ったフルーツを加えてみたり、とろみが欲しいからとオクラを加えてみたりしてみた。神戸で料理を提供する時にはタマリンドが見当たらず梅干しを刻んだものを入れたがこれも美味しく、紫蘇などと言った和の食材とも相性が良いことがわかった。この間は料理教室に行った場所の庭先にローゼルが咲いているのを見つけこれをジャムを作る要領で砂糖と水で煮詰め少し多めのレモン果汁を加えた。これをベースにパッチプルスを作ったら爽やかで美味しいものができた。

普段はハイビスカスティーと言ったハーブティで飲まれたり、ジャムを作ったりしているローゼルだが原産地は西アフリカだと言われ古くからインドには伝わっていたらしい。奴隷貿易を機にオクラと共に広く世界で栽培されるようになり、今に至るらしいがブラジルに移り住んだ日本人はローゼルを塩漬けにして作ったものを「花梅」と呼び梅干しの代わりにしていたらしい。そういえば私の祖母も日本で料理する時にタマリンドやコカムが手に入らなく梅干しを代わりに使っていたなと思い出した。パッチプルス作りを通してタマリンドの代わりに梅干しやローゼルを使ったのが、移民たちの知恵が見えてきたようでなんだか嬉しくなった。



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