旭座人形浄瑠璃に参加して

3年ぶりに人形浄瑠璃が開催されることになって、もう笠原に住んでいないので同じ黒木町でも練習に通うのに30分かかるから、参加はどうしようかなと思っていた。

でも講習会が4回あると聞いて、せっかくプロに指導してもらえる機会だから講習会だけでもと参加。すると、遅刻して行った1回目から役が決まり、公演に向けてがんばって欲しいという強引な熱意に引っ張られて練習が始まる。

練習に身が入ったのは、公演の1ヵ月前に迫ってから。夫ルパは最初あまり乗り気ではなく、「やめたい」と言った時につい私も「じゃあやめれば」と言ってしまい、その後自問自答して、やっぱり一緒にやって欲しいのだと気づく。その日は二人して練習に行けなかったけど、後からほとんどの人が行けなかったと知ってほっとする。確か満月の夜だった。

ここから話が脱線するが、近所で水神祭があったときにルパが飲み過ぎてしまい、それをきっかけにお酒の量がいつの間にか多くなっていたことに気づく。ルパは寝ているか文句を言っているかのイライラする日々が続き、オンライン診療で専門医と話してみたら、肝臓の数値から見たらぜんぜん悪くないけど薬を出してもらい、ルパは20年程前にも薬を処方されてひどい目にあっていたので詳しく聞くと、昔はそういう危険な薬しかなかったけれど最近の薬は副作用もなくただお酒がおいしくなくなるだけ、という話。

一年前も同じような状況を経験していたので、だんだんこういう人なのだな、と思えるようになる。薬は2日飲んで体に良くないと言ってやめてしまったけど、お酒の量は減った。たっぷり心配してもらってお医者さんとも話したら、心が安定して治る模様。たくさん飲んでいたところを丸1日お酒を飲まなかったので、身体が震えてお酒の怖さを体感できたそう。

人形遣いの練習は夜7時半から9時までなので、その日は帰るまでお酒を飲めない。夜7時には夕食を食べ終わって出掛けなくてはいけないので、普段は夜外で食べることはないけど、ときどき外食をした。黒木町で飲み屋じゃないレストランといったら1、2軒しかなくて1軒は10月の間閉まっていたので同じところに2度、山鹿市のレストランにも行った。夜勤がある日は練習を休むか、一人で練習に行ってそのまま仕事に行った。

ルパの役は観音様であまり動きはなく、ゆっくり上がって姿を現してから少し首を振ったり体を左右に向けたりして、またゆっくり下がって消えるというものだった。人形はふつう3人で一体を動かすけど、観音様は動きが少ないのでルパひとりで持つ。最初の数回は私ひとりで練習に行った。

私は盲目のサワイチの足遣いをする。頭と右手を動かす主遣いと左手遣いはそれぞれ学校の先生だった。その一人がルパと年齢も近く、英語が上手でルパとよく話してくれて本番の頃には仲良くなっていた。ルパも一度続けると決めてからは、夕食を早めに作るなど段取りをして積極的に練習に参加して一生懸命やっていた。みんなが「よかったよ」とか「もっとこうしたがいい」と気に掛けてくれて、英語で話せる相手もいたので、最後の練習や本番の日はとくに楽しそうにしていた。

私もサワイチの足遣いになって良かった。男の人形の足遣いはドラマーみたいにリズムをとる役目もあるみたいで、人形の足を動かすだけでなく、自分の足でどんどん音をたてたりするそう。ただ残念だったのが、小学生の演目の音楽は良いのに、大人のする演目の音楽が良くなかったこと。三味線と唄と人形をあわせる練習ができず、ぶっつけ本番だったので、とくに踊りの部分がどうしてもうまくできなかったと思う。

また、3人で1人の人形を動かして演じるので、初めて会った人、ほとんど話したことのない人とも、最後には心が通じるようになれたと感じた。足を動かしていると人形の上半身の動きはほとんど見えないので、どうやって合わせたらいいのか、果たしてどう見えているのかもわからず、難しかった。主遣いはとにかく人形が重くて大変そう。足遣いも中腰で支えて大変なのだが、自分にはそれほど苦ではなかった。

本番、快晴の中、関係者や観客がたくさん集まって、おいしい料理も出て、晴れやかな日になった。ルパは演目の前に珍しくとても緊張していた。私の方が緊張しやすい性格なのだけど、もう3回目の参加だし、なぜか全く緊張しなかった。完璧にはできないだろうとわかっていたので、直前までできる限り練習はしたけど、本番は同じようにするしかなかった。でも、人形遣いの難しさを知れて、舞台に立つ経験ができただけでも満足だった。

イギリスでは演劇が盛んで、小さな町にも劇場があり、ロンドンには大小たくさんの劇場があったので、よく観に行った。とくにシェイクスピアのグローブ座はみんなが立ち見なのでチケットも高くなく楽しめた。カンタベリーに住んでいたときは1年間演劇の授業もとっていた。旭座人形浄瑠璃に参加して、そんなイギリスでのことも思い出した。

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