先輩と僕とテニスコート

年上のお姉さんとコーヒーが好きです。

これは僕の自己紹介文ですね。Twitterでも年上が好き!とずっと主張し続けていますし、なんなら僕の仲良い友達は10人中10人が“年上好き”と知っています。無個性な人間の僕にとって、“左利きである”こと、と“お姉さんが好き”ということが数少ないアイデンティティなんです。今回はそのアイデンティティが形成されるに至ったわけを振り返ってみようと思います。



ラルフローレンのパーカーを脱ぎ、サイズの合わないブレザーに着られている僕。慣れない制服、夜遅くまで活動する部活、他の小学校から来た新しい友達。中学校は、少し大人になった気分だった僕に、まだまだお前は坊やだと教えてくれる場所だった。

そんな中学校で英語よりも数学よりも先に学んだこと、上下関係。近所に住んでいたお兄ちゃんはたった一年見ない間に“先輩”になっていた。ついこの間までお兄ちゃんだったはずなのに。それまで「大人と子供」の二項対立しか知らなかった僕は、子供の中での上下関係を初めて体感した。

そんな中学校にもだいぶ慣れてきた、葉が黄色くなり始め、秋の匂いが感じられる季節。一人の先輩と出会った。僕の“元”お兄ちゃんと仲良くしていたテニス部の可愛い先輩。

何かの間違いか、先輩は僕のことをすごく可愛い!可愛い!と推してくれた。その時は推すという単語が普及していなかったけどね。僕はその先輩の近くに行くとキャーキャー言われ、試しに手を振ってみると黄色い声が返ってきた。

僕は小学生の頃に全くモテなかった人生を歩んできたわけではなかったが、その時の自分、天狗もびっくりするくらい鼻が伸びていただろうな。


いつ頃だったかは思い出せないけど、僕はその先輩が好きになっていた。

自分に好意を向けてくれたからその先輩に興味を惹かれたのではなく、同い年の女の子とは違う、大人っぽさというものに惹かれていた。当時は認めていなかったが、今振り返ってみるとあれは完全に恋に落ちていた。可愛い少年だ、僕。

たった一学年、20歳の僕から見たら中学生なんてみんな子どもに見える。それでも、13歳の僕から見た14歳の先輩は大人びていて、同級生が持っていないような余裕を身に纏っていた。僕はまだ制服さえ着こなせていなかったのに。そんな大人な先輩が、ちんちくりんな自分のことを可愛いと言ってくれることに快感を感じていたんだと思う。だから、たった一学年の差というものが僕にとって大事だった。

当時の僕は、生意気にもスマートフォンを持っていたが、携帯も持っていない子が半分くらいだった。先輩も携帯を持っていなかったために、連絡手段がなかった。だから意味もなく上級生のクラスの前を通って体育館へ向かったり、テニスコートの近い裏門から帰ったりもした。とりあえず会えたらラッキーみたいな感じだね。

その時は、付き合うとかどういうものか分からなかったし、自分でどうしたいのかすら分かっていなかった。そして先輩はあくまでも、僕のことを恋愛対象というよりは「推し」として見ていたということを何となく感じていた。もどかしくて奇妙で絶妙な距離感は一年とちょっと続き、先輩は卒業していった。


受験シーズンで先輩と会う機会が少なくなる2月や、卒業した後の3月は、学校に行く意味を見出せなかったし、毎日憂鬱だった。そう考えるとしっかり恋してたんだなぁ、可愛いな僕(三段落ぶり二回目)

でもそんな憂鬱は数ヶ月したら綺麗さっぱり忘れていた気がするな。今日の朝ごはんも思い出せない僕、この時から忘れっぽいね。ちなみにこの数ヶ月後、人生初めての彼女ができる。その話は語る機会はないし、語るつもりもない。


そんな先輩が僕にくれたもの、年上のお姉さんから可愛がられる悦びと、青い名札。後者はどこかへなくしちゃったけど、前者は今でも僕の中にあります。

今何してるのかなぁ。

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