自分の指輪を自分で買って生きていく

少し前に黒い指輪を買った。右手中指につけている。ここまで読んでその意味がパッとわかる人は少ないだろうと思う。言ってしまうとアセクシャルのシンボルで、「ブラックリング」「中指」とかで検索するとすぐに出てくるので詳しくは調べていただければ幸い。「エースリング」とかって呼ぶらしい。

某通販サイトで購入した安い指輪だけど、ゴールドリングの表面に艶のある黒いラインが一本塗り込まれているような少しだけ凝ったもの。かなり華奢なつくりで、強い主張をしない佇まいが気に入っている。私はまだはっきりとアセクシャルを自認しているわけじゃないから、真っ黒一色じゃないってのも良い。一見ただの黒いリングだけど、角度を変えてみるとゴールドがチラチラと光る。かわいい。意味とか関係なくかわいい。「エースリング」については、自分の感覚を不安に思ってアセクシャルについて検索しまくっていた頃に知った。当日のうちに、ではなかったけれど、割と時を置かずに購入を決めたと思う。外出先でちょっとしたアクセサリー屋さんを覗いてみたり通販サイトを色々見た中で一番ピンときたのがこの指輪だった。海外からの配達だったから注文から到着まで1週間くらいかかって、届くまですごくそわそわした。小学生の頃に初めてCDを注文した日を思い出した。今どこを運ばれているんだろう、ああ、早く身につけたい、と思った。当時はかなり不安定で、自分のこれまでの行動を振り返ったり、恋人と関係を解消したり、私の感覚はおかしいんじゃないかとか悩みに悩んでいた時期だった。とにかく何か縋れるものが欲しかったのかなと思う。私にしては珍しく行動的だった。

今はオンオフ問わず、日常的にこの黒い指輪を身に付けている。ずっとではなく、服装とか気分によって付けたり外したり。周囲の人に気にしてほしいわけじゃなくて(まだ誰からも何も言われたことはない)、どちらかというと視界にこの指輪が入ってくることが自分の精神に良いから身に付けているような感覚。正直、私の職場的に指輪がOKなのかどうかは結構グレーだ。ネイルは不文律で許されているけれど、リングをしている人って注目して見てみると意外と少ない。結婚指輪くらい。でも、結婚指輪がいいなら普通の指輪だっていいよね?お世辞にも華美なアクセサリーじゃないし!と思ってる。もしちゃんとした理由があって注意されたらもちろん外す。でも、とりあえず今は私にとって身につけている方が心地いい。安心する。ひとつ前のブログで自分がアセクシャルだとしてもそれは私にとってそこまで重要じゃない、という話をしたけど、そうは言っても私の中で自分の感覚を肯定できる外的な何かが欲しかった。それが、歴戦の(?)Aceの方々が定めてくださったこの「エースリング」というシンボルなんだと思う。今もキーボードを打つ指元できらきらしてくれている。お守りみたいだ。

ふと思ったんだけど、もしかして、結婚指輪もそういうお守りのような機能(機能??)があるんだろうか。恋人がいたのに何を今更という感じで浅はかさがバレてしまうんだけど私は昔から結婚願望がなくて、結婚指輪や婚約指輪にもなぜか全然憧れることができなかった。薬指に指輪をはめてもらいたい〜!って感情に全然共感ができなかった。分からなかった。これは私自身の話なのでアロマアセクとは関係ないと思う。両親はそれなりに仲のいい夫婦だし家族のことは好きだから自分でもちょっと不思議だったのだけど、結婚したい、プロポーズされたい、幸せな家庭を築きたい…という考え方がどうしても自分の中で腑に落ちなかった。サプライズでめちゃくちゃ高い指輪をパカッとされて好みのデザインじゃなかったらどうするんだろう、、とか思っていた。もし指輪が欲しいのなら自分で自分の納得のいく指輪を買いたいし、好きな相手が自分のために大金を使ってくれるのだとしたらもっと二人にとって有益な買い物をしたい気がする…だなんて、ロマンチシズムのカケラもないことを思ってた。きっとそういうことじゃなくて、二人にとってのお守りのような、お互いの気持ちを形にしたようなものを手に入れたいって気持ちなんだろうね。ただ指輪が欲しいんじゃないんだよね。このことに辿り着くのにこんなにかかった時点でやっぱり私は恋愛的な心の機微に疎いんだろうな…。恋人ができればいつか結婚したくなるのかな、指輪パカッとされたくなるのかな、、と私自身も少し思っていたのだけど、やっぱり私の中にはそんな気持ちは湧いてこなくて。改めて、私が欲しかった関係性は今のところ恋人や結婚相手ではなかったのかもなぁ、って思う。私のことを考えてくれていた元恋人には本当に申し訳なくて、気付くのが本当に遅かったと思うけれど、やっぱりそれが私の今の感覚な気がする。

「恋人関係を求めない」って書くとなんだかすごく屈強な感じがするけれど、私は大して強い人間じゃないしメンタルもめっちゃ弱い。ひとりが好きだけど、人と関わりたい、人に助けてもらいたい、と思うことはたくさんある。ひとりで考え事をしているととても寂しい悲しい気持ちにもなる。けれど、ひとりを好む感覚、恋人を求めない性質は昔から持っていて、ずっとぼんやりとしていたけどそこは今のところ変わらないみたい。むしろ曲がらなすぎて自分でもびっくりしている。寂しいとかもったいないとか周りから言われるかもしれないけど、そんな自分をあんまり自分で否定しすぎないようにしたい。だから、とりあえず今は自分のほしい指輪を自分で買おうと思う。自分で買った指輪を身につけて、肯定する。この一件があってから、今いる友人や家族をもっと大切にしたいなと思った。私がひとりを好んでいられるのは、ひとりで平気でいられるのは、私に友人や家族がいるからだと思う。そんなことにも気付けていなかったよ。

自分がこれからずっとひとりでいるかは分からない。友人と暮らしたりするかも?ペットを飼うかもしれない。もしかしたら、友人とも家族とも違うしっくりくる関係性をこれから出会う人と築けるかもしれない。寂しすぎて恋人を求める…ことはよっぽどない気がするけど、もしかしたらお揃いの指輪を身に付けたいと思う相手が今後現れることも、なくはないのかもしれない。逆に、黒い指輪だけじゃなく白い指輪を左手中指に身につけようって強く思うような出来事があるかもしれない。先のことは分からないや。けれど、とりあえずは自分で買った黒い指輪を付けたり外したりしながら生きていきたいなって思います。無理せず、自分の感覚を守っていきたい。難しいかな。

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