見出し画像

「エヴァートン 21-22選手名鑑/完全版:後編」シーズン・レビュー 月刊NSNO Vol.12 / エヴァートンFC ブログ


2022年6月 
月刊NSNO Vol.12

「エヴァートン 21-22選手名鑑/完全版:後編」
シーズンレビュー


本稿は後編です。
前編はこちらから。

それでは続きをどうぞ!

MF

21.アンドレ・ゴメス

"マエストロ"と呼べたのはランパードのデビューマッチ、ブレントフォード戦(FA杯)のみだろうか。試合を通して90本以上のパスを繰り出し、タクトを振るい、ボールを捌くゲームメイカー…それだけだった。シーズンを重ねる毎に存在感は希薄になり、当初は怪我の影響でフィットすることに苦しんでいる、と思うようにしていた。今となっては高給取りながらコンスタントな出場や計算のできない選手として成り下がってしまい、非常に怪しい立場である。プレミアの目まぐるしいトランジションやスピードに耐えきれないシーンは頻発し攻撃面でも決定的な仕事が出来ずにいる。恐らく、ランパードの理想型に挑む今季序盤が彼の大きな分岐点となる。


25.ジャン-フィリップ・グバミン

3年間でたったの8試合。彼がチームに貢献した時間はごく僅か。冬にロシアへ移った直後、困難なロシア-ウクライナ情勢に巻き込まれたことも不運だった。CSKAモスクワでゴールを挙げMOMに選出されるもCSKA側が再度ローン、あるいは獲得する可能性は低い、というのが現地の見方。モスクワのナイトクラブで度々姿を発見され、憂さを晴らしたい気持ちはよく分かる。パフォーマンスが低下し、CSKAが冬に獲得した選手の中でも「最も説得力が無い」とジャーナリストに批判されるほどである。昨季は彼に対して''諦めない''という気持ちが芽生えていたが、ランパードは彼を試すだろうか。私だったら別の将来に賭けたい、と思うのが正直なところだ。

26.トム・デイビス

彼のインスタグラムには懸命なリバビリ模様が記録されている。数にして40カット以上、動画では大腿四頭筋に痛々しいオペの傷跡を確認できる。離脱の間はEitCと活動し地元の子どもたちと関わったり、自身が参加する「ChopValueUK」では環境やリサイクルの問題に取り組み、寄付や支援を行う。廃棄する箸を加工し1枚のテーブルを作り上げる映像は、彼の描く持続可能な未来を想起させる。生まれ育った街を愛するからこそだ。焦らずに小さなことを積み重ねる。デイビスの復活はクラブに欠けているサスティナブルな要素。「次のシーズンが待ちきれない」と、本人から発信された今季最後の言葉には、我々の希望を持続させる力がある。

30.ドニー・ファン・デ・ベーク

冬、ランパードの面接時に投げかけられた質問に以下のような項目があったという。「デレ、ドニー、リンガード、君なら誰を獲得したい?そしてどのように起用するか聞いてみたい」実際にはどのような台詞が飛んできたかは定かでないが、ランパードはプレゼンでドニーを所望した。チームへのフィットの速さ、アヤックス産の確かな技術。18-19シーズン、CLで死闘を演じた''2人の10番''が同時にエヴァートンに加入すると誰が予想しただろう。ランパードとの共演、あるいは別の世界線で出会いたかった。彼もブレブレのマン・ユナイテッドの犠牲者だが、かつての恩師ともう一度チャレンジする権利が与えられるのは妥当である。

34.アンワル・エル・ガジ

大きな調子の波があるというエル・ガジ。その波すら分からなかったのが現実だ。昨年のJ・キング以上に不可解な補強のひとつだが、何故起用されなかったか。彼の主戦場であるLWにリシャーリソンやグレイ、ゴードンがいることは勿論、頑なに起用しなかった選択にランパードの抵抗を感じた。メッセージである。表向きには上層部のコミットを感謝する言葉を残すが本当にそうか?モシリと長らくの付き合いがある非公式(インチキ)代理人ジューラブシャンの勧めで加入したが、ベニテスですら嫌がったのに獲得できるのである。クラブが描く原則とは?FFPとは?選んでくれた側としてエル・ガジに対して恥ずかしさすら覚えるパニック・バイだった。

36.デレ・アリ

携帯電話のよく分からない従量制支払いのようなシステムで加入したデレ・アリ。前述のファン・デ・ベークとの共存や、ランパードも期待しているという発言から、どのような変化をもたらすか楽しみになったが、結局スタメンに選ばれることは一度もなかった。一部から私服や所有車のセンスに文句をつけられ、ここ1年満足なプレーができていない状況下で彼の獲得には多くの疑問符がついた。それでも時折光るセンスを醸し出し、懸命にチェイスする姿、そしてクリスタルパレス戦で流れを変えた実力は幾らかの浪漫が漂う。デレ、ランパード、そしてエヴァートンにとって運命の出会いとなるか、彼のように静かに熱く視線を送りたい。

FW

7.リシャーリソン

豪華絢爛、セレソンの核へ成長するリシャーリソン。ライバルからは忌み嫌われ、ファンからは称賛を浴びる。独善的だった昨季に比べ、身を粉にして戦う犠牲心と闘争心を剥き出しにした姿が目に焼き付いた。お調子者でありながら、誰よりもスピリットを体現するクラブの顔。遊び心と戦士の表情、エモーショナルなギャップに多くのエバトニアンが虜になる。…いつかは決別する、そう覚悟するも鷲掴みにされた我々のハートは、すでに彼の形になっている。それは果たして修復できるのだろうか。コパ・アメリカ、東京五輪、そしてW杯。小さかった無色の鳩は今、胸を張って羽ばたく力を身につけた。カナリア色に輝く羽根は眩い風を蓄えている。

9.ドミニク・カルヴァート=ルウィン

長いエヴァートンの歴史で、残留を決める大逆転劇に立ち会えたこと。今だから言える、私たちは幸せかもしれない。彼の試合後の表情は、苦しいシーズンで報われた、1人の男の瞬間を切り取る1枚であり、度重なる負傷を乗り越えた至高のご褒美として映る。彼がいることで空を制し、陸に奥行きができる。攻める指針が生まれる。連続する跳躍と相手を背負う役割は身体に負荷が大きく、更に丈夫な肉体が必要だ。しなやかで繊細な表現力がプレーに還元され、相手を薙ぎ倒す屈強さが備わればリーグトップのFWだろう。要は課題は山盛り、まだまだ成長の余地がある。代表の高みを目指すためのリスタート、まずはどの舞台を選ぶかが肝心だ。

11.デマライ・グレイ

ベニテスがニューカッスル時代から目を付けていたというグレイ。よくぞ連れてきた!誰もが感じた前半戦。鋭いターンで前を向きプレスをかわすシームレスな動きはピッチの至る所で脅威になった。彼がいなかったら…と身の毛もよだつ恐ろしさだが、怪我もありランパード就任後に失速したのは事実。サイドでの動きに限定され、カットインからの動作を読まれると、前線にデザインやアイデアの少ない戦法で選択肢が限られ、決定的なプレーが減少してしまった。それでもキッカー不在の中、プレースキックでも貢献。貴重な攻撃のカードとして奮闘した。本人はエヴァートンでやりがいを見出しており、来季も欠かせない戦力として更なる進歩を願う。

14.シェンク・トスン

アラダイス期にやってきたトルコの点取屋。当時こそ雪のブリタニアを始めチームを救う存在として頼りにしたものの、DCLの台頭や安定しない人事の煽りを受けて徐々にポジションを失っていった。確固たる地位を築けないまま時間だけが過ぎる。クリスタルパレスや古巣ベシクタシュへレンタルで出向し再起を図るも、調子を取り戻しかけて負傷したり、代表マッチでは相応しくないゴール・パフォーマンスを行うなど、キャリア晩期は難しいものとなってしまった。気づけば契約満了を迎え、トルコに戻ることが予定されている。多く入れ替わった監督たちの元、必要とされなくなっていくプロの険しく世知辛い道を垣間見た選手である。

24.アンソニー・ゴードン

近年のアカデミー最高傑作は、とうとうその頭角を表した。21-22シーズンは彼の年と言っても過言ではない。爆発的なスピードと鋭敏なテクニックはトップでも通用する。それを顕示したマン・ユナイテッド戦(A)を皮切りに、みるみるうちに欠かせない選手へと成長、暗く沈んでいくチームの光明として在り続けた。ガス欠シーンは少なくないが、課題のスタミナと向き合いハードワークも厭わない。ホームグロウンらしい熱量を押し出したプレースタイルは周囲の士気を高め、荒削りな姿勢は見た目にそぐわない力強さも持ち合わせる。ハイスピードの鋭いクロスに磨きがかかれば、持ち前の突破力と合わせてまだまだ成長できる潜在性を覗かせる。

33.サロモン・ロンドン

ベニテスの切り札、のはずが前半戦はコンディションが整ったようには見えず、DCLとリシャーリソンの不在を担うには荷が重かった。過去にプレミアリーグで活躍した印象からすると批判の的となったのも無理はない。中盤戦以降は本来の懐の広さや、風貌に似合わないセクシーなプレーも披露。徐々にファンの心を掴み始めるも上乗せは叶わなかった。終盤戦の無意味なタックルは…。スピードが求められたベニテスのダイレクトな戦法よりも、ポゼッション型で見てみたいが、キャリア的には下降線を辿る時期なだけに厳しい立ち位置。扱いづらさ。若手が彼のポジションを奪うことが理想だが負けじと戦って欲しい、おじさん組のプライド。


おまけ

62.タイラー・オニャンゴ

ミナと大差ない恵まれた体格のオニャンゴ。今季は怪我から復活。シティ戦(A)を始め3試合に出場。少ない時間でも柔らかいタッチと落ち着いたパス捌きを見せるなど、能力の片鱗を見せてくれた。そのスケールはプレミア向きだ。

60.アイザック・プライス

アンチェロッティとランパードが太鼓判を押すプライス。待望のトップ・デビュー。来季はローンで武者修行というパターンもあり得る。本人がアンドレ・ゴメスに憧れるように、彼を継ぐゲーム・メイカーとして成長して欲しい。

61.ルイス・ドビン

晴れて契約延長、数多のクラブから熱視線を受けるドビン。今季はトップチームに帯同しチャンスも増えた。残念ながら得点はお預けとなったが彼を生かすも殺すも周囲の大人次第。セルウェル、ランパード、ニコルソン、そして新たなヘッドコーチには期待を寄せたい。


さいごに

前後編に分けてお送りいたしました。
私の好き勝手に各選手を振り返って参りましたが如何でしたか?

そして、今季最後の「NSNO」となります。
みなさまのおかげで1年間続けることができました。本当にありがとうございます。
また22-23シーズンでもお会いしましょう!

それでは!



2022年6月 
月刊NSNO Vol.12

「エヴァートン 21-22選手名鑑/完全版:後編」
シーズンレビュー

気に入ってくださり、サポートしてくださる方、ありがとうございます。 今後の執筆活動や、エヴァートンをより理解するための知識習得につなげていきたいと思います。