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春の便り 運命の岐路を行く

23-24シーズン終盤戦展望


◇展望

クラブにはいくつもの岐路が待ち受けている。

プレミアリーグ23-24シーズンも残すところ12試合。エバートンは勝ち点21ポイントで17位。減点処分の影響を取り除けば13位に相当し、悲観的要素ばかりに呪われているわけでもない。と書いていた矢先、1度目のPSR違反に控訴していた審理の結果が発表された。

via FotMob
勝ち点-10ptから
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-6ptへ処分が軽減された。

順位は15位へ。しかし、残留争いで生き残るためには決して安堵できる状況ではない。

昨年12月中旬にかけて破竹の無失点/4連勝を飾って以降、年末から現在に至るまで勝利がない。ポイントを失った影響は試合数を重ねるほどに効力を増している。2度目のPSR違反、FY22までに加え、FY23を含めた処罰を受けることも考慮しなければならない。

最近、勝利から見放されている現状を問われたダイシは「12月の4連勝を足せば、実は健全な状態だ。それをどう評価するかだ。私の仕事は全体像を見ることだからね」とポジティブな受け答えを残している。しかし、ダイシの采配や試合の展開を見ていると、チームの"焦り"も感じている。選手交代による采配でダイシ特有の「少ない・遅い」交代策に変化が出ており、先制すればその1点を守り切る強さがあったチームに迷いが見え始めた。

勝てないチームにありがちなパッシブな姿勢、ネガティブな印象は避けられているものの、落としたポイントは現況を踏まえると決して楽観できない。一方、足踏みしていることは確かだが、主力の負傷を代役が務め、一時は離脱した主力選手も戻ってきており、今年に入ってリーグ戦で敗れたのはマン・シティ戦のみとポジティブな側面も含んでいる。

残り試合で4〜5勝は最低限必須だろう。ビッグ6との対戦はあと4回(マン・ユナイテッド、リヴァプール、チェルシー、アーセナル)、その他上位勢は2回(ウェストハム、ニューカッスル)、ボトムハーフのライバルとは6回(ボーンマス、バーンリー、フォレスト、ブレントフォード、ルートン、シェフ・ユナイテッド)の対戦を残す。

シックス・ポインターを含む、下位6チームとの対戦で4〜5勝が安易な理想。ビッグ6相手に引き分けられれば、スパーズ戦同様大きなアドバンテージ。逆にクリスタルパレス戦で2ポイント落としたようなゲームは繰り返したくない。私の個人的な推測では「負けてもいい」試合数はあと「5回」までと見積もっている。

今季の命運をかけた3連戦

運命の岐路はピッチ上だけに留まらないことは明白で、4ポイントが戻ってきたことはチームや選手にとって少なからず心理的な負担を和らげたはずだ。今回の判決(-6pt)は2度目のPSR違反に対して大きな判断軸となる。今は祈ることしかできないのが正直なところだ。しかし、正式な処罰がはっきりと決まった以上、シーズン終了後にも同様の厳罰な審判が下される可能性は大いにあり得る。減点された上で残留できるポジションにいられるよう、できるだけ多いポイントを獲得する必要がある。

◇スタッツから

・簡単に崩されない守備

存在感を増し続けるブランスウェイト
ブランスウェイトと鉄壁のバディを組む
ゲーム・キャプテンのターコウスキ

ダイシが就任した昨シーズンから1年が経過した。ブライトン戦終了時点でトータル50試合を務めたことになる。ここまでのチームの成長として明確なのは守備力の向上(特にオープンプレー)とセットプレーによる得点力の向上だ。

守備の要、ピックフォード、ターコウスキ、ブランスウェイトが自陣ゴール前で防波堤となり、一定のパフォーマンスを維持したまま大きな怪我なく出場時間を増やしている。バーンリー時代からの強みが引き継がれ、当時のニック・ポープ、ターコウスキ、ベン・ミーと同じように手を加えずに固執することで守備のパートナーシップを構築することに成功した。また、ミコレンコの成長、戦力外に等しかったゴドフリーの適応は終盤戦への上積み要素として嬉しい材料となっている。

via Opta Analyst

エバートンの今季xGAの数値を見てみるとオープンプレーの守備力は(11月NSNO Vol.24以降)現在も高水準を維持している。アーセナル(13.57)、マン・シティ(18.76)、リヴァプール(23.65)に次ぐリーグ4位の失点予想値になっており、その上で実際のオープンプレーからの失点数は17点、浴びたショット数はベスト5の中でもダントツに多い。
敗戦した2月のマン・シティ戦(⚫︎0-2)でも失点した71分まで実に粘り強い、簡単に崩されない強度を見せつけた。

1年間で成長している分野。昨シーズン終了時、この指標で残した記録は66.1でリーグワースト2位だった。ダイシ陣営がもたらしたもの、諦めずに戦う姿勢を身につけた選手たちを賞賛すべきスタッツだろう。


・結びつかないフィニッシュワーク

ドゥクレはチームを救えるか

一方で全エバトニアンが頭を抱えているのがオープンプレーからの得点力。セットプレーに依存していることは間違いなく、年末のマン・シティ戦を最後に流れの中で得点ができていない。

via understat
via Opta Analyst

xG:27.59(understat指標、Optaは24.54)でゴール数13のオープンプレーによるフィニッシュワークはハッキリ言って悲惨だ。逃したゴールに相当する期待は返ってこない。
守備がこれだけ向上し、ピックフォードがクリーンシートを重ねても、ゴールが決められなければ勝利はない。残り試合を全部引き分けようものなら降格は確定だ。
最下位シェフ・ユナイテッドの倍近くショットを放ちながら、決めたゴール数は13点と全く同じ。現在のオープンプレーの精度と攻撃力では降格してもおかしくない水準だと理解できる。

怪我から復帰したチーム得点王のドゥクレに大きな期待が寄せられる。コンディションはクリスタルパレス戦、ブライトン戦を経て徐々に上がってきた。怪我を乗り越え、「より強くなった」と語る今やチーム一の点取り屋が復活することを願っている。

・カルヴァート=ルウィンは復活できるか?

エースは自信を取り戻せるか。
DCL:23-24 ショットマップ
via understat
DCL:19-20,20-21ショットマップ
via understat
DCL:全シーズン・ショットマップ
(ゴールのみ)
via understat

相手ゴール前6ヤードでこそゴールを残してきたルウィン。ゴールエリアにより近い場所でシュートを増やす必要性が見えてくる。

上記は以前公開したNSNO Vol.10でも触れたルウィンのゴールシーン集。

この動画を見返すと気づくのは、現在のワイドアタッカーであるマクニールやハリソンが相手のペナルティエリアのより深い位置からクロスを上げる場面は非常に限られており、カウンターから早い段階でボールを送るアーリークロスに偏っていることが容易に浮かんでくる。1試合で10本のクロスを蹴っていることも珍しくないマクニールだが、有効な手段になっているかを考えると結果が物語っている。また、ディニュやコールマンのようにワイドアタッカーを追い越してナロークロス及びマイナス軌道のクロスを蹴るような場面も少ない。ダイレクトスピードが重視されているチームにとって、一次攻撃で一気にゴールに迫るのがセオリーで、ミコレンコやヤング、ゴドフリーが上がるのを待つ時間は無く、深い位置まで切り込む回数は限られている。

ハイプレスを維持する上でガーナーやゲイェも前線へ飛び出す守備スタイル、セカンドボールを拾い、攻撃の起点とするスタイルに合わせ、SBは後方で迎撃に備えて重心を下げる傾向にあることも一因だろう。

一方、セットプレーではターコウスキをメインターゲットにしていることで、ファーストタッチでルウィンが触れる機会も少なくなっている。

戦術上、ルートワン・フットボールでルウィンが前線で体を張って競り合う場面は多くなっているが、つぶれ役、ポストマンとしてボールを触るものの、ワンタッチでゴールを狙う最終局面へ至る部分のデザイン性に欠けている現在のエバートンではよりゴールが遠のいている印象だ。

最後にゴールを決めた10月のウェストハム戦のようなスペシャルなプレーが生まれることを願うが2タッチ以上したシュートシーンよりもワンタッチで決められるシーンを多く作っていきたいのが理想である。

via Opta Analyst

ただし、これまでチャンスがなかったわけではない。ゴール期待値の上ではプレミアリーグでもトップ10にランクインしており、同様の選手たちと比較してもいかに取りこぼしているかは明白だ。
しばらくの期間、出場自体が困難だった時期を思えば、これだけコンスタントにプレーできるようになっただけで称賛ものなのかもしれないが、ピッチの上で戦える状態になったからこそ、一刻も早く得点感覚を取り戻すことが待ち望まれる。

◇春のダービーマッチ

3月はホームとアウェイ2ゲームずつの計4ゲームを控えている。ここからは総力戦。先日リヴァプールの優勝で幕を閉じたカラバオ杯でも分かるように上位勢も多数の怪我人を抱えながら満身創痍でリーグ戦を戦っていく。

報道にあった通り、日程変更の可能性が残されるマージーサイド・ダービーは現段階で日本時間3/17を予定しており、クロップ政権最後の対決となる。リヴァプールはエバートンとぶつかるまでに5ゲームを消化しなければいけないスケジュール。FA杯5回戦、ヨーロッパ・リーグのH&A、プレミアリーグでは頂上決戦の対マン・シティ戦が含まれている。そして当日はグディソンパークに迎え入れる。付け入る隙はあるはず。

とにかく、まずは2024年初勝利を目指す次節ウェストハム戦が重要だ。減点緩和と離脱者復帰の追い風を受け、再び結束力を形にする時だ。我々と同じく今年に入って勝ち星のなかったウェストハムは核のパケタが復帰し、ボーウェンのハットトリックで浮上の兆しを掴んだ。負けていられない。次は私たちの番だ。

◇さいごに

春の便りはエバートンにとって、そして我々ファンにとって課せられた重みが幾許か和らぐものとなった。しかし、違反の現実、終盤戦にかけて更に重みを増すのがこの減点処分であり、残留争いを懸けた1ポイントの価値を嫌でも感じるだろう。待ち受ける岐路の不透明さと、どの道に進んでも険しい茨の道が広がっていることに変わりはない。

自らが蒔いた種が己の足をすくう罪の真実と、新たに耕したクラブとチームの努力が形になり始めた現実。それらが激しくせめぎ合う23-24シーズン。

大きく風が吹き荒れる2月だった。おそらく、エバートンに暖かさと平穏が訪れる爽やかな春はやってこない。この便りを握りしめ、春が終わる頃に返事を書こう。また、この舞台で戦う挨拶に換えて。




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