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短編小説『予祝』

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津々浦聖(きよし)は米農家産まれで農業の跡継ぎであった。ベーシック・インカムが始まった世の中で、彼は父からは「自由に生きろ」と言われる。四十代にもなった身の彼は、これからどう生き…
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#ベーシックインカム

短編小説『予祝』第一章

短編小説『予祝』第一章

 ベーシック・インカムという制度が始まったのはつい最近のことであった。政府から一定額のお金を毎月国民に無条件に給付するという制度だが、賛否両論、いろんな渦がある中で始まったのである。当然、仕事を辞める者も出てきたが、その反対に仕事を続ける者もいた。

 仲春。春分。雀始巣の侯。山奥の豊かな湧き水が農業用水路をさらさらと通り抜け、田圃の中へと流れていく。既に水で満たされた田圃には、頭上に広々と横たわ

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