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戦前カメラの蛇腹を修理する

思い立ったときに軽く撮影する程度に、1930年頃のイギリス製中版フィルムカメラの Ensighn Selfix 20 model 1 というのを使っているんですが、購入当初から蛇腹にピンホールがあったのをゴム接着剤を刷り込んで誤魔化しておりまして。

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なんとかそれで使えてはいたものの、いよいよもって補修程度じゃどうしようもない光漏れが発生しだしたので、これはもう自分で蛇腹を作るしかないなということになり、やってみました。

どんな状態?

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修理前はこんな感じです。蛇腹の角が擦り切れていて、ゴム系接着剤を刷り込んだ跡が単純に汚らしいんですが、この手合いのカメラはebayとかで買ったとしても蛇腹にピンホールがどの程度あるかどうかというのはほとんど運でしかないのです。

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表からちょっと強めのライトを当てて確認するだけで、ピンホール(どころの騒ぎじゃない)が確認できますねぇ…。根元は接着剤を刷り込むのもちょっと難しいところなので、やはり蛇腹ごと交換が正解でしょう。

分解する

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詳細は省きますが、レンズを外して、蛇腹を取り出します。蛇腹の根元は接着されていますがどうせ再利用はしないので割と強引に外してしまいましょう。
本体に残った接着剤はなるべくはがしたいですが、ガッチガチに硬化しているのでボディに傷がつかない程度に。

蛇腹の構造

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外した蛇腹を分解してみます。
表皮、芯(オレンジの台形の紙)、遮光フィルム、裏布という4層構造になっているようです。思ったより丁寧な作り。

表皮は革っぽいですが、本革ではなく、どうやら初期の合成皮革のようです。おそらくファブリコイドという、布にニトロセルロースを塗布したものでしょう。

できればこれと同じ作りにしたかったですが、ファブリコイドも遮光フィルムも入手が難しいので代替素材を考えることに。

基本となる蛇腹を作る

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カメラ用蛇腹の作図プログラムという素晴らしいものが公開されているので、こちらを使ってカメラにあった蛇腹の展開図を生成。
元の蛇腹のサイズを元に数値を入力し、生成された展開図を元に台紙を折っていきます。元の蛇腹は台形の台紙を何枚も使うという方式で作られていましたが、今回は1枚の台紙を折る方式でやっていきます。

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この写真はテストなので茶色い紙ですが、実際は黒ラシャ紙を使います。
うちのプリンタだとラシャは紙詰まりして印刷できなかったので、コピー用紙に印刷したものをラシャ紙に重ねて、コピー用紙の上からボールペンで強くなぞって折り目を付ける、という方式で転写しました。
直接印刷できたとしても、折る前に折り目に沿って筋を入れないとなかなかうまく折るのは難しいと思います。

元の蛇腹からちゃんとしたサイズが測れなかったので、何回か出力してはフィッティングして、を繰り返し。なかなか何度も折るのが大変ですが数値を決めて、折りあがった台紙に表皮と裏布を貼って試してみます。

裏布を貼って試す

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布を貼ってみます。
うーん、元の蛇腹は折られた台紙ではなかったので布を貼っても大丈夫だったんだと思いますが、今回の台紙を折る方式だと角の折り目部分が厚くなりすぎて、まだ表皮は貼ってませんが、この時点でもうカメラの蓋が閉まらなくなるだろうというのが容易に想像できてしまう状態。

台紙を分割してみる

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台紙については1枚の紙を折るのではなく、面ごとに分割する形にしてやれば折り返し部分の厚みが抑えられるかも、と思ったので、やってみます。

そして表皮は本革ではなく、ホームセンターで革調の極薄粘着シートを見つけたので、使ってみることに。

そして一旦出来上がり…

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できたのがこれ。見た感じなかなか良いですね。でも…。

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やはり畳んだ時の厚みが厳しすぎます。
ギリギリ蓋は閉まるものの、これではフィルムに干渉してしまうので、裏布を貼るのは諦めて、表皮と台紙の2枚構造で妥協しましょう。

あと、表皮に使った粘着シートは柔軟性が悪くて折りたたんだ後伸ばすときに力がかかり過ぎ、ボディへの接着がはがれてしまうという問題も発生。
遮光性も耐久性も高そうで良い素材だと思ったんですが、これも使用を断念しました。

最終的にはやはり本革

結果的に簡単にその辺の素材で作るのは無理という結論に。やはり革で作るのが本筋か、と思ったものの、クラフト用品店で売っているような牛革は薄くても1mmとかです。カメラの蛇腹に使おうと思ったら0.2mmくらいの厚さには抑えたいところ。
カメラの蛇腹にはヤンピーという山羊だか羊だかの極薄革が使われているという情報があり、いい素材が無いかと探すと、極薄の山羊革を販売されているショップがあったのでこちらで購入。

そして、完成させたのが、こちら。

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いいですね、革調粘着シートだとちょっとビニールぽかったですが、質感もバッチリ。

革と台紙のはスプレータイプの接着剤でしっかり全面貼り付けましょう。ボディと蛇腹の接着はボンドG17という接着剤がおすすめ。
使い方がちょっと普通の接着剤と違うのだけれど、貼り付ける両面に薄く塗布して、指につかない程度に数分乾かしてから圧着するとかなりしっかりと接着することができます。もうちょっと糸を引かなければさらに使いやすいんだけどね。

近々試写してみるとしましょう。

おわり。

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