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かわいいお母さん

遠方に住む高校時代の友人から手紙が来た。卒業以来ポツポツと手紙や電話で連絡を取り合う仲。昨年秋には羽田空港でなんと30年振りの再会を果たした。こっちで1人暮らしのお母さんを彼女の住むY市へと迎えにやってきたのだ。
ところがY市に移って間もなく、お母さんの左半身にマヒが現れた。信じられないことに検査の結果は脳腫瘍。大きいものが2つもあり、とても手術はできないという。
昨年急に歩けなくなったのは病気が原因だったのだ。1人暮らしに強い不安を感じるようになったのもそのせいだったのかもしれない。
コロナ下での入院となり、面会もままならない状態。それがようやく先日面会の許可が下りたとのこと。
けれど病室に入って呼びかけても、お母さんは彼女の方を振り向くことはなかったそうだ。病状がかなり進んでしまったらしい。
「寒くない?」
と言うと、
「疲れた」
と。その後は何を話しかけても、彼女が言ったことをオウム返しにするだけ。お母さんの視線の先に彼女が移動して、ようやく目を合わせることができたそう。
 
昨年空港で久し振りに再会したお母さんは昔と変わらない朗らかな印象のまんまだった。
「リハビリ頑張って下さいね!」
と言うと、両の手をキュッと握りこぶしにして
「はい!頑張りますっ!」
ってなんか無邪気な子どもみたいでかわいい。
「私の母は思ったことをズケズケ言っちゃうところがあって人付き合いが下手なんですよね~」
なんて話すと、
「あ、私はそういう人の方が好きよ!」
即答してくれた。嬉しかった。
私の母もこんなかわいいおばあちゃんだったらなあ~なんてつくづく羨ましくなったほど。
 
友人を慰めようとかけた電話で、泣き出してしまったのは私の方。あの日のお母さんを思い出すと涙が止まらない。
「まだ死んでないから」
と笑われた。
友人は淡々としたいつもの口調。もうとうに覚悟はできているのだろう。
手放しで泣けるのは私が傍観者だから。当事者には泣いてる余裕なんかないのだ。何もできない自分がつくづく不甲斐ない。
 
 
 
 
 

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