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発表会 その2

還暦過ぎての2回目のピアノ発表会。今年も先生のお宅で少人数で。
弾いたのはモーツァルトの『幻想曲ニ短調』。実はこれ、発表会用に選んだわけじゃなくて苦手意識を少しでも克服すべく(健気にも!)コツコツ練習してた曲。
モーツァルトやバッハのような音の粒を揃えて弾く曲が私は大の苦手。というのも私の指、1本1本がちゃんと独立してないから、鍵盤を押すたび、つられて他の指までバタバタ勝手に動いちゃう。
ムダな動きが多くて指がポジションに戻るのに余計な時間がかかるから、結果、拍の長さも、音の強さも、全然揃わなくなっちゃう。
『トルコ行進曲』も『きらきら星変奏曲』も悲しいくらいボロボロ。
『幻想曲』は小山実稚恵氏のCDを聴いて、なんてきれいな曲なんだろう!と感動。この曲なら楽しみつつ練習できるかもと思いついた。
だから先生に
「この曲で(発表会)行きましょう」
と言われた時は耳を疑った。間髪入れず叫んじゃった。
「ムリムリ~!」
だってそもそもが苦手な曲。ペダルをほとんど使わないからごまかしも効かない。おまけに高速で(もちろん私の場合は超低速だけど)長い音階をダーッと駆け上がったかと思うと、ダーンと駆け下りたりが合計4回も!
追い打ちをかけるように、終盤には隣同士の音でいやらしく固めた分散和音を、私の命令に全く従おうとしない左手3、4、5の指メインで(私にとっては)結構な速さで弾かなきゃならない。
しかしすでに目前に迫る発表会。
「大丈夫。ゆっくり弾けばいいのよ」
他に選択肢もないでしょうと言われ、しぶしぶ承諾。
ところが!この曲を弾くと決めたとたん、あら不思議。今までスラスラ弾けてたはずのフレーズで何度もつまずく、かろうじて勢いで乗り切れていた箇所はフリーズの嵐…もう泣きたくなった。
意識してないところで、どうやら密かに緊張し始めてたみたい。いつも以上に手がこわばり、音が硬くなる。苦手意識の呪縛は想像以上に根深いらしい。
きれいな音を出すには練習はもちろん必須の必須条件だけれど、それと同時に心身ともにリラックスすることがとても重要なんだなとつくづく実感。無心になってリラックスしなければ普段通りのパフォーマンスなんてとうてい叶わない。
頭では分かってるのに、どうしてこう体の方はちっとも言うことを聞いてくれないのかな。本番間近になるとますます緊張。どんどんわけが分からない混沌状態に。
もはや暗譜は諦めた。いつも不思議に思うけれど、苦労せずにあっさり暗譜できる曲と、何度弾いても全然脳が受け付けない曲がある。
『幻想曲』は後者。部分的には暗譜したけど(というか楽譜見てたら弾けない)、全部はできなかった。
発表会直前の最後の練習日。
「で、この曲が終わったら次は何を弾く?」
と先生に問われ、常々弾いてみたいと思っていたショパンのノクターンを挙げた。
「あれはムリ。第一手が届かないでしょう。時間のムダ」
えー!!弾きたくても弾いちゃいけない曲があるんですか?チャレンジすらダメなの?まさかの答えに打ちのめされる。
もちろん音を拾えたとしても、曲として仕上げるのは並大抵じゃないことは分かってる。私にはムリかもしれないってことも。
でもたとえ曲にならないとしても、音を拾ってつなげて弾いてみたい。専門家からしたら聴くに堪えない音の羅列かもしれないけど、誰に聴かせるわけじゃない。私はそれだけで十分なのに。
ショックを通り越して(不遜にも)プンプンと腹を立ててもいた。先生だっていつも言ってるじゃないか。
「大人のピアノですから、子どものように基礎からギチギチ頑張るのはやめましょう。楽しんで弾きましょう」
って。楽しみ方は人それぞれでいいんじゃないの?
そんなこんなで、苦手な曲を引っ提げて発表会に出ることが、どんどん気重になっていく。いっそ休んじゃおうかな~みたいな後ろ向きな気持ちもムクムクと。
ドヨンな私を救ってくれたのは友人の一言。
「いいな~発表会!そういうワクワクの緊張感、最近すっかりご無沙汰だもん、羨ましい!楽しんできてね~」
そっか、言われてみればこんなふうに人前に出て緊張する機会は年を取れば取るほど、どんどん失われていくんだなあ。今この時を大事に楽しまなきゃ損かもしれない。ちょっと前向きな気持ちになれた。
気持ちを立て直して臨んだ発表会。案の定間違えたり、拍がおかしくなったりしたとこは多々あったものの、なんとか最後まで止まらずに弾き切った。
ガチガチに緊張するかと思ったけど、去年に続き案外冷静だった。年を取ると、緊張感というもの自体がだんだんぼやけていくのかもしれない。それっていいことなのか、悪いことなのか、悲しいことなのか、よく分からないけど。

「好きな曲を弾くのがいいわね」
発表会の後、先生はノクターンを弾くことを許してくれた。
やった!
ってか、私、変なオーラ出してたのかな??
 
 
 
 
 

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