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既成服を衣裳にするとき

新作をつくるときいつも直面する三大問題、俳優は「なぜしゃべるのか」「どこにいるのか」そして「なにを着てるのか」。そう、俳優が直接身に纏う衣裳は、いつだって大問題。ゆえに、衣裳が早々に決まって作品世界を牽引していく、というパターンもときどき起こります。

『光のない。』(2012年初演)のときもそうでした。舞台美術が決まるよりも先に、2組のカップルとあぶれた女性一人というカップリングと、ウェットスーツ(救助隊)とフォーマルな装い(演奏家)という各カップルのいでたちが決まりました。決まったというよりは、そういうことから決めていかないと太刀打ちできないくらい非常に抽象的なテキストだったため、とにかくイメージを拾って拾って、手応えのあるところから具現化していく必要があったのかもしれません。

ウェットスーツは大阪のスキューバ専門店で採寸をしてつくってもらいました。演奏家の衣装は東京・青山でヨウジ・ヤマモトとコムデギャルソンに行って選びました。

わたしの作品が日本で上演されることをとても誇らしく思います 。わたしの生活 は、日本のデザイナーズ・ブランドをはじめとして、ほとんど日本に囲まれているようなものです。また、日本のみなさんにはわかってもらえないかもしれませんが、庭も日本風にしているつもりです。竹があります、生きている竹、死んでいる竹。竹を死なせることはとても困難です。よく知られるようにこの植物は、その地下茎(リゾーム)は、地中に広がり、地中で同盟を結び合い、どこにでも竹がほしいわけではない所有者に逆 らいます。しかし制御できません。竹は逃げてさえいません。竹は鋭利な刃物で切りかかられてもみずからが死に絶えないことを知って います。いつの間にか竹は先へと進みます、最初は地中を、そして地表で。わたしの作品も平面的な広がりです、先へ先へと広がります、地中を進みはしません、すべては見て聞くことができます。

複雑に絡み合った地下茎の向かう場所を--日本の観客に向けて エルフリーデ・イェリネク

そう、この文章を読んだからというわけではありませんでしたが、日本のデザイナーズ・ブランド、案外、イェリネクの世界と親和性がないわけではない…。既成服に助けてもらった作品でした。

既成服を衣裳にするとき、地点でときどき行うのは、俳優と演出家、ときに衣裳家もいっしょに、全員でお店に行って、その場で試着をして選ぶというパターン。一日がかりですが、出演者相互のバランスを見て決定するには一番手っ取り早いです。(ただしお店の人には多少迷惑がられることも…。ごめんなさい……。)

KAPITALでは何度か。

『CHITENの近現代語』(2014年)
『茨姫』(2014年)
『地下室の人々』(2021年)

しまむらに行ったときもありました。

『みちゆき』(2015年)

HAKUIというおしゃれ業務服サイトで通販したことも。

『はだかの王様』(2014年)

ちなみに、規制服や靴は、一つの作品だけでなく、いろいろな作品で同じものを使うことも多いです。上の写真で安部さんの履いている靴は、『光のない。』つまり『ノー・ライト』でも使用している靴ですね。ヨーロッパでオペラをつくる大きな劇場には、衣裳だけでなく靴もオリジナルでつくる部署があると聞きますが、そう、何を着るかだけでなく、何を履いているのかももちろん大きな問題です。『ノー・ライト』で演奏家に扮したふたりがフォーマルなのに裸足なのは、生と死を行き来する作品世界になじむためでした。

衣裳や履き物はディテールが命! 衣裳についても今後このビヨンドチテンでご紹介していければと思っています。

(文:田嶋結菜)


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