煮沸・WP【ビール用語辞典】ビール仕込みの最終段階!クラフトビールがより楽しくなるコアな知識
今回は煮沸~WP【ワールプール】について
前回はスパージングについてお話ししました。今回はその次のステップについてお話します!
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なぜ麦汁を煮沸するのか?
糖化を終えた麦汁は、アミラーゼが若干の活力を保っていたり、バクテリアや微生物が混入しているのでこれらを煮沸により死滅させる必要があります。
糖化を終えた麦汁にはビールを濁らせたり劣化させる科学成分(高分子タンパク質、糖化してないデンプン、タンニン、脂肪酸など)が含まれています。これらは煮沸すると互いに寄り合って凝固し、過巻流のなかで沈殿する性質を持っています。WP工程で効率よく沈殿させることができるように煮沸工程でしっかりと煮込むことが重要になります。
また、糖化を終えた麦汁の比重は所定の数値よりも低いので、麦汁を煮詰めて補正する必要があります。
ホップの苦味成分であるアルファ酸は熱湯の中に入れないと完全に溶け出ないので、ホップを麦汁と一緒に煮込む必要があります。
麦芽から抽出された硫黄成分のうちオフフレーバーとなるDMS(硫化ジメチル)を蓋を開け蒸発させて除去する必要があります。
麦汁煮沸の目的…
●バクテリアの死滅
●アミラーゼ酵素の活動停止
●タンパク質、炭水化物、タンニン等の凝固
●ホップα酸の異性化(イソメライズ)=ビタリングホップ(苦味付けを目的とするホップ)
●メイラード反応によるフレーバー(カラメル化)の生成
●DMS(硫化ジメチル)の除去
煮沸前の適正な麦汁量
醸造工程に全体に通してかなりの量のビールが失われることを知っておかなければいけません。
●煮沸による蒸発
●WPでの残量
●酵母の抜き取り時での損失
●ろ過機通過中でのこぼれ
●比重計測、味見による減少等
仕込み量1000ℓであれば発酵・濾過を終えて発酵タンクに入ったビールの量が1000ℓになるように、あらかじめ損失分を見込んで仕込む必要があります。
損失分の見込み量は醸造設備により大きな違いがあるが、一応の目安があります。
●煮沸による蒸発・・・9%(60分煮沸)~12%(90分煮沸)
●WP・・・2%
●その他・・・6%
上記の損失量(目安)に基づく場合に各段階での求められる麦汁量は下記のようにして算出します。
●発酵タンクに入った麦汁量(ℓ)=仕込み量×1.06・・・A
●WPに入った麦汁量(ℓ)=A×1.02・・・B
●煮沸前の麦汁量(ℓ)=B×1.09~1.12(小数点以下四捨五入)
【例】
仕込み量1000ℓ、煮沸60分の場合
発酵タンクに入った麦汁量(ℓ)=1000×1.06=1060ℓ
WPに入った麦汁量(ℓ)=1060×1.12=1082ℓ
煮沸前の麦汁量(ℓ)=1082×1.09=1179ℓ
WP【ワールプール】の仕組み
●煮沸を終えた麦汁を1秒間に5メートルのスピードでWPタンクにポンプで注入します。すると、麦汁はタンクの内壁に沿って円を描くように流れ込みます。その結果、激しい過巻流が起こります。
●麦汁の注入が終わっても過巻流は衰えず、やがて煮沸タンクで作られたタンパク質などの凝固物(トルーブ)を渦巻の中心に引き込みます。これは「アインシュタインのティーカップ・エフェクト」と呼ばれている現象で、ティーカップの中の紅茶をかき回しているときに茶葉がカップの中心に寄せ集められ、底に沈むのを見ていたアインシュタインによって発見されました。
●渦巻の中心に引き込まれたトルーブは過巻流の勢いが鎮まるにしたがってタンクの底にお椀を伏せたような形になって堆積するのが望ましいです。
●醸造施設によっては独立したWPタンクがない場合も見られます。この場合は、煮沸釜がWPタンクを兼用する構造になっており、煮沸を終えた麦汁をポンプで循環させることにより過巻流を起こしています。
●WPでトルーブを完全に沈殿させて麦汁から除去しておかないとビールの透明度が悪くなります。特にビールが冷えているときは、ミルクを加えたように白濁してしまいます。
●トルーブにはポリフェノールも含まれており、これをWPで除去することにより渋みやエグミの無いクリーンな味わいのビールをつくることができます。
●トルーブには、また酸化した脂肪酸(リノール酸ヒドロぺルオキシドやオレイン酸ヒドロぺルオキシド)も含まれています。特にピルスナーモルトもしくは二条ラガーモルトの割合が多い麦汁の場合は酸化した脂肪酸が多く含まれているのでトルーブの除去を十分に行わないと酸化臭(T-2-N)が発生しやすくなってしまいます。
WP【ワールプール】の目的…
●麦汁にはビールの風味を損なう微細な固形物質(ホップ粕、凝固タンパク質、酸化した脂肪酸等)が含まれているのでこれらを過巻流によって中心に集めタンクの底に沈めます。
●10分間にわたり過巻流を発生させて固形物質を中心に集めます。
●固形物質がタンクの底に完全に沈殿するまでには、最低でも30分間の時間が必要です。
●WPを完全に行うことでビールの清澄化と賞味期限が著しく向上します。
まとめ
煮沸によってバクテリアの死滅させ、麦汁内の化学成分を凝固、沈殿させることが重要となります。
WPタンクでは激しい過巻流を起こし煮沸によってできた凝固物を中心に集め渋みやエグミのないクリーンなビールを作ります。
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