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「ホップステップだうん!」 Vol.195

今号の内容
・巻頭写真 「岸澤恵美さん」 江連麻紀
・続「技法以前」167 向谷地生良 「同期の世界―Zoomと同期」
・ カフェで働く石村さんのチアフルミーティング
・伊藤知之の「50代も全力疾走」 第5回「10万円狂想曲」
・「夢の中の架空の東京の町」宮西勝子
・福祉職のための<経営学> 057 向谷地宣明「有意味性(Meaningfulness)」
・ぱぴぷぺぽ通信(すずきゆうこ)「マスク洗濯講座」


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岸澤恵美さん

仲間やスタッフから「めっち」という愛称で親しまれています。ゆっくりとした話し方とその声に「めっちって妖精みたい」という声をよく聞きます。

ね、静内行かない?
ドライブしよ〜
マッサージして〜

と、声をかけてくれるめっち。
苦労は気に入らないことすると舞い上がる(爆発)と答えてくれました。

写真はめっちの住んでいる共同住居に遊びに行った時で、気分が乗っていてピアノを弾いてくれました。私が持っていったお土産のお菓子を食べ過ぎてしまうため、同じ共同住居の仲間に止めてもらっていました。

2017年の幻覚&妄想大会「ぱぴぷぺぽだったで賞」を受賞

岸澤恵美様

あなたは、浦河デビューをはたして以来、この10年、いつも「ぱぴぷぺぽ現象」に見まわれ、マイナスのお客さんや悪口幻聴さんにジャックされながらも、大声爆発で吹き飛ばしたり、恋多き女として、べてるの草食系男子を”キシメグなしでは生きられない”魔法にかけてヘロヘロ状態にして、さみしさを紛らわすという技を編み出され、サバイバルな浦河の街で今日まで生きて来られました。

特にあなたがタクシー代わりに利用する救急車、夜な夜な通う総合文化会館の警備室、暇つぶしに訪れる役場の窓口からかかってくる町民からのSOSによって、べてると地域との絆ばかりではなく、関係機関の連携も年ごとに深まり、スタッフの間にも”キシメグさんとつき合えれば一人前”として苦労がブランド化され、スタッフ教育、人間的な成長に多大な貢献をされました。

さらにあなたは、さまざまな苦労にもめげず当事者研究にも取り組まれ、「大声爆発」の研究にも取り組まれています。よって、ここに2017年度幻覚&妄想大会「ぱぴぷぺぽだったで賞」を差し上げます。

副賞として、日頃、お世話になっている総合文化会館の警備員のおじさんへの感謝として持参する「お中元」の品を贈ります。

2017年7月29日
幻覚&妄想大会

(写真/江連麻紀 協力/愛)

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続「技法以前」167 向谷地生良

「同期の世界―Zoomと同期」

新型コロナの問題が勃発し、北海道にはコロナ感染の第二波が押し寄せています。実は、第一波は中国から持ち込まれたもの、そして、第二波は、中国からヨーロッパを経由して、強力に変異したタイプが帰国者を通じて持ち込まれた可能性も指摘されています。

非常事態宣言が出て以来、浦河で在宅ワークして大学の会議、学生との打ち合わせなど、Zoomを用いたコミュニケーションを駆使して日々を過ごすようになって、いろいろと発見があります。その一つに「対面」とZoom場面では、疲労感が異なる、ということです。例えば講演に例えると、聴衆が公務員の場合はひどく疲れる、しかし、地域によってこれも差がありますが、一般市民を対象とした講演は、話している内に、だんだん気分が乗ってきて、心地よさを感じることがあります。前者は、岩に向かって話している感じがあって、後者には、打てば響く感じの違いがあります。つまり、話すと言うことは、相手からのリアクションを五感で感じてとっているような気がします。

これがまさしく「同期」なのです。例えば同期現象の研究成果に「立って見つめ合うと体の無意識の動きが同期する 」(自然科学研究機構生理学研究所)があります。具体的に言うと「1.二者間が見つめ合うと、微小な体動が時間遅れなしに同期する」「2.無意識の体動同期は、二者間の視覚による体動制御が対等になることで実現される」というものです。これは、「静止立位時の体動は、主に視覚・平衡感覚・筋や足底の自己受容感覚といった三つの感覚で制御されている」、特に「視覚による体動制御」が影響していることを示しています。これは二者のうち、どちらかが目隠しをした場合、両者が目隠しをした場合などと比較して、導き出した結論です。

また、「生体リズムが相互に同期化する現象」(エントレインメント)の研究(山形大学工学部)でも、「人間同士のコミュニケーションにおいても音声と動作・表情が同期する現象、すなわちコミュニケーションにおけるエントレインメントが存在し円滑な情報変換に重要な役割を果たしている」と言うのがあります。このように視覚、音声や身振り、表情といった要素、ある当事者研究によると、相手の汗の臭いや衣服についた臭いなどの要素も大きいといった報告をしている人もいます。その意味で、Zoomなどは、二者間に行きかう目に見えない情報や、何かの一部だけを媒介して、コミュニケーションを成り立たせている可能性があります。

それも、キャッチボールのような双方向ではなく、ドッジボールのように一方通行で成り立っている可能性があります。特にZoomの場合は、相手が音声をミュートにしている時は、特に疲れます。その意味でも、Zoomの有効活用をするためには、対面でつながりの記憶を身体に覚えこませ、コミュニケーションの実感を互いの中に定着させるための工夫が必要な気がします。それを土台としてZoomを活用すると多少、補えるのではないかという仮説が成り立ちます。ぜひ、試してみたいものです。

もしかしたら、対面の記憶が有り過ぎると、Zoomがつまらなくなる、初体験の方がやりやすいという考え方も成り立ちます。いずれにしても、場数を積み上げて検証を重ねたいと思います。

向谷地生良(むかいやち・いくよし)
1978年から北海道・浦河でソーシャルワーカーとして活動。1984年に佐々木実さんや早坂潔さん等と共にべてるの家の設立に関わった。浦河赤十字病院勤務を経て、現在は北海道医療大学で教鞭もとっている。著書に『技法以前』(医学書院)、ほか多数。新刊『べてるの家から吹く風 増補改訂版』(いのちのことば社)、『増補版 安心して絶望できる人生』(一麦社)が発売中。

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カフェで働く石村さんのチアフルミーティング

べてるでは、「3度の飯とミーティング」 という理念があるように、仲間を応援するミーティングをいつもどこかで毎日行われています。

この日のミーティングは、浦河町の大通りにある「カフェぶらぶら」でウェイターとして働く石村さんの「チアフルミーティング」を行いました。「チアフルミーティング」は、毎週金曜日に石村さんを応援するミーティングです。

最近のべてるのミーティングでは、定番のホワイトボードに加えて、 これまでの人生や現在の苦労を振り返る「紙芝居」も活用しています。紙芝居による「石村劇場」は、石村さんのユーモアあるコメントで仲間の笑いを誘いました。

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小さい時から頑張り屋の石村さんは、同級生たちが就職していく中で、焦りを感じ、資格取得など励みましたが、妄想が出てきて統合失調症と診断されました。現在の石村さんの自己病名は「妄想型統合失調症・健常者になれないのでないかと思うタイプ」。幻聴さんが何人もいて、神経質体質の幻聴さんが 「人の命が救われるかもしれない」から「食べろ」と命令してきます。

「食べたら良いことが起こるかもしれない」と期待して幻聴の言われるままいろいろなものを食べてしまうという現象が起きます。ある時はレントゲンを撮ったら胃腸などの消化器官がゴミ埋め尽くされていたことから、「ダイソン石村(主治医の川村先生が命名)」と呼ばれています。これまでは、T字カミソリ、目薬、犬の首輪の金具、印鑑、ティッシュペーパーなど食べてきたそうです。カギを飲み込んでしまったときは、家に入れなくなって困りました。

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そんな石村さんは今仲間から応援をもらいながらカフェで働くことで、新しい自分の助けかたを見出しつつあります。苦労の三ツ星カフェの情報発信部長として、自分の苦労とともにべてるの活動を世界に発信しています。

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