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「ホップステップだうん!」 Vol.193

今号の内容
・巻頭写真 「長門さん」 江連麻紀
・浦河教会 新会堂と付属住居建築献金のお願い
・続「技法以前」165 向谷地生良 「同期する生命-対話は好奇心である」
・ 伊藤知之の「50代も全力疾走」 第4回「新型コロナウイルスの流行に思うこと」
・「入眠儀式当事者研究」宮西勝子
・福祉職のための<経営学> 055 向谷地宣明 「新しい現実」
・ぱぴぷぺぽ通信(すずきゆうこ)「コロナ当事者研究はじまる!」


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長門さん

自己病名は「電波でイライラ障害、救急車多乗型」です。

最近長門さんの電波が強くなってきています。
電波がくると腕が震えてしまい、作業に参加することができなくなったり、べてるから住居に帰りたいというような気持ちになってしまうようです。

向谷地悦子さんのところにやってきて「悦子さん、電波が来てる。ほら、手がこんなに震えてる。」と言うと、悦子さんは電波を振り払うように手をぶらぶらさせて、長門さんも一緒に手をぶらぶらと振って、電波を払いのけています。

(写真/江連麻紀 協力/のんちゃん)

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浦河教会 新会堂と付属住居建築献金のお願い

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会堂建築募金委員長 早坂 潔

僕は中学3年の時、母の病気がきっかけで幻覚が起こるようになりました。浦河赤十字病院の精神科7病棟に入院しました。最初に目に入ったのが鉄格子。「これで人生終わりだな」と思いました。

病棟で会った女性から「早坂さん教会へ行かないかい」と誘われて、3人で礼拝に出たのが教会を知ったはじめです。ある時、昼食に誘われ、食事前に「早坂さんも一緒に食事が出来て感謝します」って祈るのを聞いてびっくりしました。僕はひとりじゃないんだと知りました。

今回、新しい会堂を建てようと1カ月に1度ぐらいずつ、みんなが集まって話し合い、妄想してきました。会堂はベてるスタッフの研修や地域の集まりにも使えるように考えています。住居も付けた会堂を建てるために力を貸して下さい。募金よろしくお願いいたします。


浦河は「地震の巣」と呼ばれるほどに地震多発地域ですが、現在の教会の建物は、耐震基準に満たない既存不適格建物です。近年劣化が激しく補修に年間80万円余りを費やしています。また、高齢者・障がい者のためのバリアフリー化も求められています。

目標募金額 2000万円

○寄付はこちら

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続「技法以前」165 向谷地生良

「同期する生命-対話は好奇心である」

先日、あるメンタルヘルス領域で働く心理職の方から相談の連絡をいただきました。それは、いわゆるコミュニケーションが取りにくい生活困窮者Aさんとの関りについての相談でした。その方は、どちらかと言うと反権力、反専門家を標榜し、行政や関係者に対する反発心や敵意を露わにして論争を挑んできますので、対応を迫られた人もすごく消耗します。

一般的に、相談支援の領域でも、特に心理領域では、医学モデルが「検査」によって病気の原因を探り、診断名がつくまで、それを繰り返すように、心理領域においても様々な心理テストやアセスメントの尺度が用意されています。ソーシャルワークの領域でも、同様に医師の診断や心理テストの結果を参考にしながら、図のように問題をアセスメントして援助プランを立案し、実行に移します。

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ところが、対話的なアプローチは、事前の打ち合わせや方針を敢えて持たずに現場に赴くことを大切にしています。それは、先入観を持たずに、当事者に向き合うためです。つまり、一般的な治療や相談支援における「問題解決モデル」は、病識がなかったり、本人が問題だと感じていなければ無力でした。しかし、当事者研究やオープンダイアローグに代表される対話のモデルでは「好奇心」があります。「何が起きているのか」「この状況を、本人はどのように生き抜いてきたのか」という「興味」や「好奇心」から生まれた問いを基調としたコミュニケーションが大切になってきます。

中村雄二郎は、そもそも「哲学とは好奇心である」と語っています。「経験上でも書物の上でも、積極的にいろいろなことに出会って、未知なものやそれまで気づかなかったことを新鮮に受け取り、おどろく態度を持ちつづけること」それが対話的思考の出発点(中村雄二郎「対話的思考 野奇心・ドラマ・リズム 新曜社」)となるのです。

話は戻りますが、「コミュニケーションが取りにくい人」との関りにおいては、往々にして私たちは、そこに「問題解決」という目的意識を持ち込み、周囲が納得しやすい結果に向けた予定調和的な支援プランを立て、気が付くと、周りの安心が本人の納得や生きやすさに先行してしまいがちになります。そこで、私は先の心理職の方にいいました。「そもそも、私は、Aさんをどうにかしよう、とかいう問題意識から降りて、本人への興味と関心だけで今も関りを続けています。その意味では、とっても無責任かもしれません」といいました。

よく電話をくれるAさんですが、彼とは「出会いとは何か」「貧富の格差は何から生じるか」「なぜ働くのか」「家族とは」などについて、議論をします。よく笑ってくれますし、私も笑います。ここで「哲学とはリズムである」という中村雄二郎の言葉の意味を実感することができ、このリズムの中に「対話の愉しみ」が生まれるのです。前号でも触れたように、その面白さは「扱われたテー マをめぐって、意外なところに話題がいき、ときに脱線するように見えながら、そうなることでかえって、問題そのものが自由に展開され、考察が深まっていく」ことと、「相手の議論からいろいろな示唆や刺激を受けて、自分でもびっくりするような考え方が、おのずと出てくる」(中村雄二郎「対話的思考 野奇心・ドラマ・リズム 新曜社」)ことと深く関係しています。

向谷地生良(むかいやち・いくよし)
1978年から北海道・浦河でソーシャルワーカーとして活動。1984年に佐々木実さんや早坂潔さん等と共にべてるの家の設立に関わった。浦河赤十字病院勤務を経て、現在は北海道医療大学で教鞭もとっている。著書に『技法以前』(医学書院)、ほか多数。新刊『べてるの家から吹く風 増補改訂版』(いのちのことば社)、『増補版 安心して絶望できる人生』(一麦社)が発売中。

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