「ホップステップだうん!」 Vol.179
今号の内容
・巻頭写真 「第16回当事者研究全国交流集会」 江連麻紀
・続「技法以前」153 向谷地生良 「集団ストーカー・シンドローム」
・夏の終わり うらかわ港まつり
・アイデンティティーのつかまり立ち 紺野陽介
・福祉職のための<経営学> 041 向谷地宣明 「働きたい」
・ぱぴぷぺぽ通信 すずきゆうこ 「集団ストーカーの研究1 ねらわれて」
第16回当事者研究全国交流集会
午前中は東京大学先端科学技術研究センター准教授の熊谷晋一郎先生の講演。家族についてお話をしてくださいました。
漫画家の細川貂々さんとツレさんの講演は好評発売中の私の苦労と付き合う当事者研究入門「生きづらいでしたか?」についてもお話ししてくださいました。
午後の分科会の家族会議の様子。子どもたちと一緒に会場の参加者が当事者研究しました。
私は家族会議の担当だったため他の分科会の撮影に伺えませんでした。
フィンランドの心理士・経験専門家の方のオープンダイアローグの実践報告もしてくださいました。
(写真/文 江連麻紀)
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続「技法以前」153 向谷地生良
「集団ストーカー・シンドローム」
香川で行われた当事者研究のワークショップでの出来事。初老の父親が一人娘のことで相談したいと話しかけてきました。聴くと、娘は統合失調症と診断されていて「集団ストーカー」に狙われていると言い張り、周囲とトラブルが絶えない、どう対処したらいいかという相談でした。先月は、わざわざ高知から札幌で暮らす息子のことで相談したいと、遠路、浦河を訪ねてきた母親がいました。その母親の相談事が、得体のしれない集団によって行われている「テクノロジー攻撃」に苦しみ、周囲とトラブルを起こし、アパートから退去を迫られている息子への対処でした。
さらに、二週間前、しばらくベてるを離れていた女性メンバーさんが、彼氏との付き合い方の相談をしたいとベてるを訪ねて来ました。その彼氏は「集団ストーカー」に追われていると怯え、ボディーガードのように彼女を自分の傍に置こうとするのだそうです。最初は同情していた彼女も「私を縛らないで」と喧嘩が絶えないとのこと。そういう相談を受けて、みんなで研究をした後、私は、翌日、札幌の当事者研究の交流会に参加しました。すると、常連のメンバーに付き添われるように三十代の若者が「みんなに自分の悩みを聴いてほしい」とみんなの前に立ちました。何と、悩み事が「集団ストーカー被害」だったのです。「誰も真剣に聞いてくれない」という若者の話を聴きながら、一緒に集団ストーカー現象の研究をすると、若者は「初めて聞いてもらえた」と安堵の表情を浮かべ、これからも一緒に研究を続けることを約束してくれました。
メンタルヘルス領域に身を置いて40年が経ちます。いわゆるこころの病は、時代を反映する合わせ鏡のように変化し続けてきました。摂食障害が見られるようになったのが30年前で、リストカットが目立つようになったのが20年前です。そして、今のトレンドが「集団ストーカー」に代表される”監視系””付きまとい系”の現象です。
三日前のことです。香川で相談に乗った娘さん本人から電話がありました。「何者かが私を24時間、監視してるんです。道を歩いていても、私をバカにする言葉を浴びせたり、部屋にも侵入して嫌がらせをするんです」
私は、「誰もわかってくれない」という娘さんの話を聞いているとそこに「時代の空気」を感じました。
「電話をくださってありがとうございます。実は、最近、この手の相談や苦労人が本当に多くて、しかも、共通しているのが孤立や孤独、周囲とのトラブルです。そこで私は言いました。「みんなで、ネットワークをつくってこのストーカー現象を解明しませんか。日本ばかりではなく、世界が監視社会になっていて、個人情報保護も、あってないに等しく、抑圧的な弱者排除の社会になりつつあることと、この集団ストーカー現象は無関係ではないような気がします。このことを感じるアンテナを持ってる皆さんは、大事な存在ですよ。これからも、よろしくお願いします」
すると娘さんは言いました。「はじめて私のことを認めてくれた人に出会ったような気がします。この苦労は、大事な苦労として、研究していきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。」新しい時代のテーマへの挑戦が始まったような気がします。
向谷地生良(むかいやち・いくよし)
1978年から北海道・浦河でソーシャルワーカーとして活動。1984年に佐々木実さんや早坂潔さん等と共にべてるの家の設立に関わった。浦河赤十字病院勤務を経て、現在は北海道医療大学で教鞭もとっている。著書に『技法以前』(医学書院)、ほか多数。新刊『べてるの家から吹く風 増補改訂版』(いのちのことば社)、『増補版 安心して絶望できる人生』(一麦社)が発売中。
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