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「ホップステップだうん!」 Vol.188

今号の内容
・巻頭写真 「松本寛さん」 江連麻紀
・続「技法以前」161 向谷地生良「花巻の原則-その5「経験の見える化」
・伊藤さんと年賀状 泉望
・べてるの新年会 和田智子
・「身体性がワカルというとき」宮西勝子
・福祉職のための<経営学> 050 向谷地宣明 「Anosognosia(病態失認)」
・ぱぴぷぺぽ通信(すずきゆうこ)「お祈りしてくれて‥‥」


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松本寛さん

精神病がどうゆう病気か聞かれて「友達が増える病気です」と語った松本さん。
浦河ひがし町診療所に通いながら、無脳薬の生活も5年になりました。

先月のクリスマスイヴの日、爆発した松本さんはニューべてるの2階でぐるぐると歩き、落ち着かない様子でした。
そして女性スタッフの肩を鷲掴みをしたとき、止めに入ったのは新人スタッフの冨山さんでした。

そのときの様子を冨山さんは、「幻聴さんは首を絞めようとしていたけど、まっちゃんは幻聴さんを抑えなきゃとしているような複雑な目をしていた」と言われていました。
冨山さんが松本さんの腰をトントンと叩いて落ち着くように促すと、松本さんは手を放して外に出ていってしまいました。

その日はクリスマスイヴ。
松本さんが楽しみにしていた賛美歌を歌うキャロリングの日でした。

何度かけても電話に出ない松本さんとようやくつながり、冨山さんは車で松本さんを迎えに行きました。
教会に向かう車の中で、冨山さんは最近抱えていた悩みを松本さんに相談すると、的確なアドバイスのあとに「君の問題じゃない」と言い切ってくれたそうです。

「昼に首を絞めてきた人が、夜には恩人になってた」と語る冨山さん。

爆発した人が保護室ではなく、一年で一番暖かいイベントのキャロングに参加する浦河。

「この日の出来事で自分の想像を超えたものを感じられて、やっぱりべてるに来てよかったと思えた」と冨山さんは言われていました。

写真は、冬だけどタンクトップで歌っている松本さん。

(写真/文 江連麻紀)

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いきなりはじめる当事者研究~(1月23日 木曜)

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時代美術館(中国・広州)- べてるの家(北海道・浦河)による海外芸術家滞在プログラム

中国広東省広州市にある時代美術館(Times Museum)と、べてるの家との連携によるアーテ ィスト・イン・レジデンスプログラムが今月からはじまります。
招聘アーティストには、公募の中からアーティスト/ダンサー Er Gao(アーガオ)さんが選出されました。

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ErGao, courtesy of the artist

アーガオさんは、自身のダンスカンパニー/スタジオ「二高表演」を主宰し、これまで、主にワークショップを通して多様な参加者と行う身体表現を追求してきたそうです。その根底には、即興的な動きに社会的・文化的な背景や規律がいかに表れるかに関心があるそうです。

べてるでは「当事者研究」に参加したり、メンバーにインタビューを行って即興のダンスを構想します。

浦河には1月26日(日)〜2月6日(木)滞在予定です。

[ べてるの家でのダンスワークショップ・交流会 ]

べてるのメンバーへのインタビューから構想した即興のダンス・ワークショップ開催します

場所:北海道 | 浦河べてるの家(もしくは浦河町文化会館など)

2020年2月5日(水)*予定

主催・協力・助成
NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト] 、社会福祉法人浦河べてるの家、時代美術館(中国・広州)、NPO法人BASE、医療法人社団宙麦会、平成31年度 文化庁 アーティスト・イン・レジデンス活動支援事業

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続「技法以前」161 向谷地生良

「花巻の原則-その5「経験の見える化」

「内容の視覚化、データ化に努め、パソコンなどを見ながら本人と一緒に図式化したり、ホワイトボードに絵やグラフ、流れ図を描いたり、時にはアクションを交えながら対話を深める」

前回、「対話のトライアングル(三角形)」の大切さを紹介しました。なぜ、「三角形」をつくるのか。特に神田橋は、わざわざ「二等辺三角形」と言っています。私は、この「三角形」に、私たちの持つ認識の限界と、それを乗り越えるための知恵としての「対話(研究)」が、関連しているように思います。

それに関連して、参考になるのが和光大学の伊藤武彦先生から教えていただいた発達心理学で用いられる「三項関係的コミュニケーション」の概念です。自然人類学者の長谷川真理子氏は、三項関係について「三項関係の理解能力がヒトの進化に貢献」したとして以下の図のようなやり取りを紹介しています。

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このような構造は、心理学や言語学の世界で「共同注意」(joint attention)とか「対象指示」(reference)などと呼ばれて、人間の(まさに人間らしい)コミュニケーションを特徴づける重要な性質 (福岡大学 古賀恵介)として知られたものです。この三項関係は、二重三重に、私たちの”誤作動”しやすく、偏りやすい認識を乗り越えるために人間に備わった大切な特徴のような気がします。

「対話」とは、決して話し言葉にとどまらず、さまざまなアクションやアートを含む多様な自己表現を含むように、一人一人の人間の持つ「認識」の限界を補うために、人類は「対話」という暮らし方を身に着けたのではないでしょうか。ですから「経験の見える化」は、「三項関係」と関連づけて理解することによって、よりその意味が分かるような気がします。

特に統合失調症などを持つ人たちは非常にわかりにくい世界を生きています。その世界を共に生きようとする時に、「経験の見える化」は、不可欠なものになります。

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向谷地生良(むかいやち・いくよし)
1978年から北海道・浦河でソーシャルワーカーとして活動。1984年に佐々木実さんや早坂潔さん等と共にべてるの家の設立に関わった。浦河赤十字病院勤務を経て、現在は北海道医療大学で教鞭もとっている。著書に『技法以前』(医学書院)、ほか多数。新刊『べてるの家から吹く風 増補改訂版』(いのちのことば社)、『増補版 安心して絶望できる人生』(一麦社)が発売中。

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伊藤さんと年賀状

泉望

2019年から伊藤知之さんの年賀状はネット印刷を利用するようになりました。

2020年1月3日。三が日が終わろうとしている頃LINEが届きました。
相手は伊藤知之さん。

「年賀状を昨年と同じ〇〇〇(ネット印刷の会社)で申し込んだら詐欺にあいました!札幌から帰ってきて眠いので詳細は明日ラインします」という文面で、伊藤さんの慌てっぷりが目に浮かび心配しましたが、本人も寝るというので私も寝ました。

翌朝、約束通り詳細が届いていました。

「おはようございます。〇〇〇の年賀状ですが、ネコポスで送ってもらうよう注文したのですが、ネコポスってヤマトですよね?
なのにいまだ届かず、しかも郵便局を名乗る怪しい番号からショートメールが届きapple社から注文の覚えがないのにお届けにあがりましたが不在のため持ち帰りましたとのことです。
ショートメールのURLを見てみるとIDとパスワードを入力するように言われました。
これは明らかにフィッシング詐欺です。どうしたらいいでしょう?ちなみに恥ずかしながらIDは知りません・・・」
という内容でした。

私はひとまず「IDは入力しないこと」「注文確認のメールを転送してほしい」ということを伝えました。

すぐに伊藤さんからメールが転送されてきました。
私は中身を確認し、サイトも確認。おかしなところは別段見当たりませんでしたが、支払い方法がカード払いでしたので、実際詐欺だった場合のことを考えるとだんだん不安になってきました。

何度も転送されたメールの内容を見直すうちに、注文の状況を確認できるページに気づき、伊藤さんに念のためここで状況を確認してみようと提案することにしました。

しばらくして伊藤さんから返信。

「申し訳ありません。注文の最終確認のボタンを押していなかったようです。」

え!まさかの顛末。そしてその後
「今注文しました。」

こうして伊藤さんと私のお正月詐欺事件は終わりました。
後日すずきゆうこさんにこの出来事を話したところ、
「伊藤君って去年も年賀状で何か失敗してなかったっけ?そうだ、名前のところが伊藤知之と花子の連名になってたんだよ」
と、去年の失敗の話も聞いて大笑い。

「連名の部分、変更しないでそのまま注文したら花子になってしまって。全部修正テープで直しました!!」

そしてまた時間は流れ1月15日。
もうとっくに届いているはずの例の年賀状が伊藤さんの机の上に届いていました。

「5日ほど講演で留守にしていたので今受け取りました。まだ年賀はがきの発表前だから送っても大丈夫だと思います!!」

伊藤さんにはネット印刷は向いてないんじゃないかなと思いながら伊藤さんのお土産のおやきを食べる私でした。

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