「ホップステップだうん!」 Vol.181
今号の内容
・巻頭写真 「里親の当事者研究会」 江連麻紀
・続「技法以前」155 向谷地生良 「人間万事塞翁が馬」
・ 企業×当事者研究プロジェクト
・「疲弊ときどきお薬」 宮西勝子
・福祉職のための<経営学> 043 向谷地宣明 「あいうえお」
・ぱぴぷぺぽ通信 すずきゆうこ 「回復したと思うとき」
里親の当事者研究会
9月27日、一般社団法人グローハッピーが企画・主催した全国で初めての里親による当事者研究会が東京都中野区ではじまりました。
べてるからはご自身も里親の向谷地悦子さん、池松麻穂さん、吉田尚平さんが参加して私も含めて12名が集まりました。
それぞれの里親ならではの苦労が語られる中で、私が特に印象的だったのは、里親の苦労を語る場所が少なく語りづらいということでした。
これまで語ってこられなかった里親さんたちですが、この場を待っていたかのような爆発がいくつもあり、里親研究会の3回シリーズの1回目としての充実した時間でした。また次回も楽しみです。
みなさんの感想
「日本の貧困や子育ての大変さに注目が集まっている中、里親さんたちの苦労が聞けてよかった」池松さん
「里親としての育てづらさを語って社会に向けて貢献できるような冊子が作れたらいいなー」向谷地悦子さん
「初めての企画でしたが、里親仲間や参加した方の爆発できる場になりました。ほっこりしたファシテートの悦子さんに導いて頂き、癒しの場として、また経験や知恵の共有の場として広がっていったらいいなーと思います。」齋藤直巨(さいとうなおみ、一般社団法人グローハッピー代表、東京都里親)
(写真/文 江連麻紀)
-------------
続「技法以前」155 向谷地生良
「人間万事塞翁が馬」
9月、豊島区千川で就労支援と生活支援の拠点である「Bese camp」の開設1周年記念のイベントがあり参加しました。恒例の沢田研二のアップテンポな「TOKIO」に合わせてメンバーが替え歌を歌い、踊る様子をみて、私は苦労満載だった一年の歩みを振り返っていました。
発表では、メンバーの爆発ばかりではなく、人間関係のトラブルを含めた金欠の苦労も次々に起きる中で、いつも研究と言うキーワードを手放すことなく歩んできたことが、伝わってきました。しかも、その中に、何ともいいようのない”可笑しみ”があって、人をホッとさせます。”可笑しみ”とは、いわゆる”どつき漫才”のようなダイレクトで暴力的な笑いと違って、”悲しみ”の中から生まれた笑のような気がします。現実からの逃避的な笑いではなく、人間に生きようとする力をもたらす笑です。
それを思った時に、浮かんだのが中国の故事にもとづいた「人間万事塞翁が馬」という諺です。
ここでいう「人間」(じんかんとも読む)というのは、いわゆる「世間」のことを指します。このことわざの背景にある物語はこうです。
ある日、老翁が大事に飼育していた馬がどこかに行ってしまいます。周りの人たちは、可愛がっていた馬がいなくなってしまい、さぞかし落ち込んでいると思って老翁に同情すると「大丈夫、その内、いいこともあるさ」と言います。すると、何としばらくするといなくなっていた老翁の馬が、もう一頭の馬を連れて戻ってきたのです。しかも、毛並みのいい元気な馬です。心配していた周りの人たちも大喜びです。ところが、老翁は「人生、良いことばかりじゃなくて、何が起きるかわからないよ」というのです。すると、何と老翁の息子が、馬から落ちて足を挫いてしまったのです。周りの人たちは、「大変だったね」と慰めたのですが、老翁は「だけど、悪いことばかりじゃなく、いいこともあるかも」というのです。そうすると、今度は戦争が始まり、若者の多くが戦場に駆り出された命を落とした中で、足を挫いた塞翁の息子は、それを理由に戦場へ行くことを免除され助かった、という話です。
つまり、このことわざは「何が幸いするかわからない」という「人生の不確かさ」を説いています。べてるの歩みで言うと、気の小さい、根気の続かない、劣等感の塊のような潔さんがいたお陰で、仲間が仕事の応援に集まるようになり、気が短かくて切れやすい健さんが昆布作業の発注元の会社と喧嘩をしたお陰で、下請けを脱して自立できたのです。このように「にもかかわらず」の苦労の循環が起きることが組織の健康さを示しています。その意味でも、Bese campの歩みは、本当に楽しみです。
向谷地生良(むかいやち・いくよし)
1978年から北海道・浦河でソーシャルワーカーとして活動。1984年に佐々木実さんや早坂潔さん等と共にべてるの家の設立に関わった。浦河赤十字病院勤務を経て、現在は北海道医療大学で教鞭もとっている。著書に『技法以前』(医学書院)、ほか多数。新刊『べてるの家から吹く風 増補改訂版』(いのちのことば社)、『増補版 安心して絶望できる人生』(一麦社)が発売中。
ここから先は
¥ 150
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?