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「ホップステップだうん!」 Vol.182

今号の内容
・巻頭写真 「木林さんのお赤飯」 江連麻紀
・続「技法以前」156 向谷地生良 「苦労のトレンド」
・ 平田オリザさんワークショップ
・「『治りませんように』(みすず書房)の書評のようなもの」 宮西勝子
・福祉職のための<経営学> 044 向谷地宣明 「Security of Life」
・ぱぴぷぺぽ通信 すずきゆうこ 「えみ子さんの努力」

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木林さんのお赤飯。

以前もこちらでご紹介させていただいた、木林美枝子さんに手作りお赤飯をご馳走になりました。「汁物もほしいでしょ」と、お味噌汁もつけてくれて豪華な朝ご飯をいただきました。

「お赤飯美味しいでしょ。美味しいもの食べて美味しいって感じるのは自分なんだから、自分が好きってこと。単純なことでいいんだ!人間にしかできないことができてる自分が好き。みんな謙遜してるけどみんな自分が好きなんだ。そうじゃないの、そうだってー。」と、笑う木林さん。

お赤飯をご馳走になったことを向谷地悦子さんに話したら、
「お赤飯と言えば、数年前に木林さんのお母さんが亡くなった時にお赤飯を炊き始めようとした木林さんを止めてほしいと家族から連絡があったのを思い出すなー。北海道は弔事があると黒豆で作るんだけど、どうしても小豆で作りたかった木林さんはお赤飯を作ったんだよね。お赤飯が木林さんにとってお母さんとの思い出なんだろうね。」と教えてもらいました。

木林さんのお赤飯、とても美味しかったです。

(写真/文 江連麻紀)

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続「技法以前」156 向谷地生良

「苦労のトレンド」

先日、べてるから「四国の方(母親)が息子さんのことで相談があって、浦河に来るそうです」という連絡がありました。カフェぶらでお話を伺うと、札幌で暮らす息子さんが「テクノロジー犯罪集団」にやられて近所とトラブルになっているとのことでした。母親は、病気だと考えて受診を進めているそうですが、勿論、本人は「病気ではない、本当だ」と言い張っているようでした。実は、前の週に香川の大学で「当事者研究三昧」のワークショップがあり、それに参加していた初老の男性が「私の娘が、ストーカー集団に狙われて、電波やテクノロジー技術を使った犯罪集団に嫌がらせをされているといって近所とトラブルになっている」と相談をされていました。

そして、その後、札幌で開催されている当事者研究交流集会(毎月、第一、第三火曜日)に参加したところ、常連のメンバーが「新人です」と紹介をしてくれた青年がいました。私は、自己紹介をした後、「苦労の専門分野はどんな領域ですか」と尋ねました。すると、「テクノロジー犯罪にやられています。自分だけじゃなくて、母親もやられています」というのです。この”テクノロジー犯罪、三連ちゃん”には、驚きました。そういえば、浦河にも、この「テクノロジー犯罪系」に苦労をかかえ、研究を続けているメンバーが、三人ほどいます。

私のこれまでの現場体験を振り返ってみると、40年前、浦河は「統合失調症」と「アルコール依存症」が、二大テーマで、強いストレスにさらされた結果として起きる急性の精神病状態を「心因反応」と言っていました。それから10年ほどして、はじめて内科に担ぎ込まれてきた「神経因性拒食症」の女性と出会い、”摂食障害”があらたな時代の”苦労”として登場します。カーペンターズのボーカル、カレンさんが摂食障害で命を落としたことが世界に伝わた時期が重なります。それから、さらにリストカットなどの「自傷行為」を抱えた人たちが、雨後のタケノコのように外来に来るようになりました。

それと同時に、いわゆる酒瓶を枕に寝ているような、そして、離脱症状によって激しい幻覚妄想状態(振戦せん妄)に陥り、走り回るようなタイプの依存症は極端に減り、身体と人間関係をジワジワと蝕まれる内科や外科病棟に入退院を繰り返す”隠れ依存症”が増えたような気がします。そして、昔は統合失調症系の人たちの妄想の定番であった”天皇家の血筋”を主張する人たちがいなくなり、電波、チップ、電磁波、レーザー光線、マイクロ線、テレパシー、監視カメラなど、それこそ、テクノロジー系の苦労を訴える人たちが急激に増えてきました。

大切なのは、病気か否かをわからせようとするのではなく、それらが、時代のカルチャーと密接につながっていることを理解したうえで、一緒に考え、仲間づくりに協力することだと思います。最近、当事者研究の交流会で「テクノロジー犯罪」にやられている青年に会いました。「この交流会に来てはじめて、自分の考えを否定しないで聞いてくれる人とはじめて出会いました」と言っていたその青年は、犯罪集団の存在感が”薄くなったような気がする”と言うのです。やはり、このテーマの底流には、孤独と孤立があるのです。

向谷地生良(むかいやち・いくよし)
1978年から北海道・浦河でソーシャルワーカーとして活動。1984年に佐々木実さんや早坂潔さん等と共にべてるの家の設立に関わった。浦河赤十字病院勤務を経て、現在は北海道医療大学で教鞭もとっている。著書に『技法以前』(医学書院)、ほか多数。新刊『べてるの家から吹く風 増補改訂版』(いのちのことば社)、『増補版 安心して絶望できる人生』(一麦社)が発売中。

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