『林檎』

悲しんでいる

悲しんでいる あの声を聞いて

泣いている あの声を想って

呼ばれていた あの人の声に

選ばれていた あの声の人に

林檎は赤黒く垂れ下がり いずれ土の上で腐る

甘い香りに 苦い味に 滴る蜜に 熟れた眼差しに

ひと波乱ふた波乱み波乱 目まぐるしく変化する海 人生の海で溺れかけて

手を伸ばしてしがみつくと あの人スカートの裾だった

夢中になれる香りに 骨抜きにされて 翻弄されて

手を差し出せば 手の平には赤い林檎 赤い林檎に噛み付いて

悲しんでいる 泣いている 呼ばれている 選ばれている 悦んでいる 怯えている 楽しんでいる 苦しんでいる 愛している