チェキはなぜ特別な写真か
今年、私もとうとう「推しと2ショットチェキ」的なことをしてしまったのだが、そのチェキの売り上げが好調だという。
とはいえ、これは別記事でも書く予定なのだが、写真フィルム、デジタルミラーレスカメラなどの写真(イメージング)事業は、ヘルスケア、マテリアルズ、ビジネスイノベーション、イメージングの4つのセグメントに分けられた富士フイルムの事業のなかで、もっとも利益が少ない事業であることには変わりない。数年前、西麻布にある本社の周りをよく素通りしていたが、本社1階の壁に大きく掲げられていたポスターは、高畑充希と松田聖子のアスタリフトのものだった。
チェキはなぜ特別な写真か。これは、スマホで撮れるような、高画質ですぐに確認できる写真じゃない、という観点からチェキが人気になっているのではないということが重要だ。それならば、「写ルンです」で事が足りるし、実際に「写ルンです」もまだまだ人気があり、原材料の調達困難なども手伝って、たびたび品薄になっている。
チェキには、フィルム写真にもデジタル写真にもない特徴がある。ひと言で言えば、写真なのに複製ができないということだ。デジタルが複製可能なのはもちろん、フィルムで撮影された写真も複製可能である。ネガフィルムだと顕著だが、フィルムに焼き付けられた写真それ自体を、私たちは鑑賞することができない。実際に見るには、プリントする必要がある(あるいは、スキャンしてデジタル画像化する必要がある)。そして、元フィルムがある限り、同じ写真を何枚もプリントすることができる。ネガフィルムというアナログなテクノロジーであれ、撮影によって得られるのは、複製可能な「元データ」なのだ。
しかし、ポラロイドやチェキなどのインスタントカメラでは、撮った写真がそのままプリントとして出てくる。ここに「元データ」に当たるものはない。あるとすれば、まさに撮った写真が「元データ」を兼ねている。もちろん、チェキで撮った写真も、コンビニでコピーするようにスキャンしてデジタル画像化することはできるが、それは文字通り「コピー」となり価値が下がる。比喩が古いが、CDラジカセでCDからカセットにダビングするようなものである(「ダビング」って死語だよなあ……)。
この点で、インスタントカメラで撮られた写真は、一枚一枚が確実に「一点モノ」となる。写真でありながら、同時にモノなのだ。アイドルなどのライブやイベントの特典として重宝されているのもこの特徴のためであると思うし、こうしたメディアは他に無いからこそしぶとく生き残っているのではないだろうか。
以下余談。
先の記事には今後の方針として次のように書かれている。
個人的には、ARのようなギミック性やプリンターの拡充よりも、フィルムを充実させていって欲しいと思う。フィルムにおいて色合いや感度に応じて種類を選択できたように、チェキ用フィルムのバリエーションが増えて欲しい。現状ではチェキ用フィルムは、外枠の装飾部分において差異化するくらいでしかバリエーションを提供できていない。もちろん、サイズは3種あるし、白黒もあることは有り難い。しかしやはり、フィルムで「今日はPRO 400Hにするか、それとも業務用100でいくか」と悩んだような体験を、チェキでもさせていただけないものかと思ってしまう。
以下蛇足。
これを書いているあいだ、富士フイルムのヘルスケア事業部のウェブサイトを覗きに行ったら、蛯原友里さんがアスタリフトのサプリメント、「ホワイトシールド」の広告に出ていることを知った。蛯原友里さんと富士フイルムといえば、2006年発売のデジカメ、FinePix Z5fdの広告でも関係があり、15年来の付き合いということになる。広報部に根っからのファンがいるものと思われる。
あと、チェキは失敗してもハサミで切らないようにね。
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