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Engagement Social Graph解剖#Clubhouse SNSクラスター分析

1月末頃から、Clubhouse現象にみる日本のメディア環境の変化についてが僕の洞察テーマとなっています。

日本で爆発的に拡まっていった要因については、感染症の流行との類似性に触れながら、先日まとめた記事でいったんの結論をみました。

先日の記事はこちら。
Clubhouse 1/24現象は感染症パンデミックに類似するクラスター発生が要因

そして、この記事の中でも触れていますが、プロダクトが優れていたということ加えて、日本のソーシャルグラフの成熟が背景にあるのではないかという仮説を挙げました。

ソーシャル‐グラフ【social graph】
複数の人間の相関関係や人間同士の結び付きを意味する概念。SNSにおける人間関係のネットワークを可視化したものや、それらの情報をデータ化したものを指す。

Clubhouse現象の特異性は、影響力を持った各業界キーパーソンが一気に参画するという非常に稀な状態を生み出したことにあります。この稀有な事象をSNSクラスター分析することで、日本のソーシャルグラフにおける影響の高いクラスターを紐解き、直近のメディア環境の変化について考察します。

なので、ここで洞察するソーシャルグラフは、フォロー/フォロワー関係にある”グラフ”を分析するものではありません。

誰がどのように発信したストーリー(記事/SNS投稿)が、いつ世の中の反響を得ていったのか、についての洞察です。

このSNSでの反響のことを”エンゲージメント”と呼んでいますが、その数値を元にクラスター分類しながら、Clubhouseの狂乱の現象下で浮き上がったソーシャルグラフについて迫っていきたいと思います。

日本のデジタル史上最大のごった煮状態

まずは、今回のClubhouse現象の特異性について簡単に振り返ります。
今回の事象を端的に述べたSNS投稿を紹介します。

大人気YouTuberの東海オンエアとしみつ氏が、熱狂が始まった第1週に投稿したTweetです。

TVタレント、YouTuberから、ビジネスの成功者、文化人、俳優、モデル、アスリートetc... 業種を飛び越えた著名人たちが、赴くままに集い、そこに群がる一般のオーディエンスたち。

2005年前後からインターネット業界を見てきた僕も、このような事象をみたことがありません。衝撃はそこにありました。

約2週間で認知率50%超。推定利用者数130万人超。

LINEリサーチによれば、Clubhouseの認知は全国15~59歳までの52%に達したとリリース発表されました。10代:66%、20代:64%、30代:48%、40代:50%、50代:43%と、世代を超えて認知を獲得。利用者は全体の2%と、単純に人口換算すると130万人を超える計算になります。少し乱暴な数字ではありますが。

Twitterの月間アクティブユーザー数が約4,500万、Instagram約3,300万、Facebook約2,600万ですので、まだ利用者が他のSNSを凌駕する規模ではありませんが、TikTokが約950万人であること、招待制で利用者を絞っていることを鑑みると、利用者が増え始めて約2週間で到達した数字としては驚異的な数字だと言えそうです。グロースの専門家ではないので推測ですが。
Source:LINE Research
https://research-platform.line.me/archives/37143102.html

一気にピークまでエンゲージメント数が上昇

Cliubhouseの認知獲得のほとんどがソーシャルメディア経由で達成された言っても過言ではないと思われます。
実際の反響を示すエンゲージメント数(ENG)の推移は以下のグラフです。
エンゲージメント数のピークは2月1日に迎え、マスメディアでの露出なく、ほぼ1週間で250万ENG/日まで急拡大しました。
ちなみに、公開直後の鬼滅の刃が300万ENG/日なので、非常に大きな反響を示す数字です。全くのゼロの状態から、約1週間で評判が評判を呼びここまでのエンゲージメントを叩き出す事象は、他に例をみません。

<”Clubhouse関連キーワード”SNSエンゲージメント数推移>

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Source: spicebox,inc. SNSクラスター分析ツール「THINK」

SNSで影響度の高いクラスターの把握ができる好題材

今回の事象は、一定期間内における獲得エンゲージメントのMAX値に近いような状況が起きていたとも考えられます。

この事象は分析材料の観点からも、以下の2つの特異性を持っています

・影響力を持つ人たちが、同一の条件(同じ期間、同じ事象、事前知識の有無)で、一斉にソーシャルメディア上で発信を行ったこと
・Clubhouseの招待制の特性上、影響力を持った人たち同士もソーシャルメディア上で影響し合い、認知や利用意向につながっていたこと

以上の理由から、ソーシャルグラフにおける影響力を持ったクラスターと、そうしたクラスター同士のつながりを把握する非常に良い材料になると考えています。

影響力を持ったクラスターを把握するSNS分析

分析手法の概要は以下です。

特定のキーワードを含む「SNS投稿/Web記事」の中からエンゲージメント数の高い投稿や記事をピックアップ。定量/定性の両面から分析し、話題化の起点の特定と、発信内容の傾向を読み解く。

SNS上の話題化現象の「起点(人/メディア)」と「内容(Web記事/SNS投稿の切り口)」を特定し、どのような人たちから、どのような文脈で話題になっていったのかを把握することができます。

<分析の手順>
・エンゲージメント数が高い上位10の「WEB記事/SNS投稿」をDailyでピックアップ
・一つ一つの「WEB記事/SNS投稿」の発信者と内容からクラスター分類
・各クラスターのエンゲージメント数の占有率を算出
・日毎のエンゲージメント影響度の高いクラスターを把握

※エンゲージメント数:
いいねやシェア、コメント、リツイートなどFacebookとTwitterでの総アクション数に加え、対象コンテンツについて取り上げた記事に対するSNS上における口コミなどの総数。スパイスボックスの独自ツールにて計測。

Clubhouse関連のSNSエンゲージメントの、日ごとのクラスター分類の結果は以下のようになりました。

<”Clubhouse関連キーワード”SNSエンゲージメントのクラスター推移>

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影響力の高いクラスターの推移は、以下ようなイメージで、Clubhouseに参入したり、SNS投稿/Web記事を発信しているかと思われます。

1)初期はテック系クラスター(Tech:緑)が大半。ガジェット寄りのライフスタイル・メディアや、すでに5月の時点でニュース・メディア(News:黄)がエンゲージメントを獲得。因みに2020年5月の時点で取り上げていた日本のニュースメディアは荻上チキ氏のTBSラジオ番組Session-22。

2)初期のビジネス著名人クラスター(Celebrity/Biz:青)は、落合陽一氏のエンゲージメントによって形成。そこからNewspicks系の落合氏フォロワーのビジネス・クラスター(Biz:水色)が大量発信し、エンゲージメント。

3)スタートアップ関連企業への取材等で関連性の強い記者など、ニュース・メディア・クラスター(News:黄)に派生。すぐにメディアでの考察記事が掲載され、高いエンゲージメントを獲得。

4)スタートアップの若手起業家たちと関係性のあるビジネス著名人(Celebrity/Biz:青)に派生。泡バーなどのコミュニティや、VCなどがハブになり、形成されたネットワークにより派生。そうしたビジネス巨人たちが降臨するたびにエンゲージメント。

5)スタートアップ企業の広報担当者がハブとなり、つながりの強いメディア関係者、芸能人タレント(Celebrity/TV:ピンク)、ファッション系インフルエンサー(Fashion Model:薄オレンジ)、ネット広告代理店系の担当者など、横のつながりのある友人/知人に一気に広がる。タレントやインフルエンサーによる「はじめました」SNS投稿や、おもしろルームのレポート投稿が高いエンゲージメントを獲得。

6)スタートアップとの直接的な関係性はないが(5)と関連を持つ有名YoutTuberクラスター(YouTuber:赤)が参入したり、ディスるようになる。Clubhouseに対するディスりや、関連したおふざけ投稿が話題に。

7)著名人の盛り上がりにも影響され、アスリート(Athlete:紫)やミュージシャン(Musician:サーモンピンク)も参入し始める。著名人の「はじめました」SNS投稿は相変わらずエンゲージメント数が高い。その他にもClubhouse内で製作した楽曲が話題化した事例も。

7)一般人クラスター(Ordinary:グレー)によるClubhouse関連ネタSNS投稿が定番遊び化していく。”Android悲哀ネタ"や、”カニの家ネタ"の大喜利合戦。ネタ系投稿で絶大なエンゲージメントを獲得する一般人も出現。

8)ビューティインフルエンサーでもあるFashion Modelクラスターと関連性の強いヘアサロン、美容サロン、ボディメイク系ジムなどのインストラクター兼インストラクターが次々と参入。

9)不動産や株式投資関連のノウハウセミナービジネスをやっているようなビジネスクラスターも参入。クラブハウスでの儲け方を伝授するSNS投稿がエンゲージメントするなど、早くも情報商材ビジネスが乱立の予感。

10)ニュース・メディアによる、問題点や課題など批評的なコンテンツが発信される。

11)TVタレントや人気 YouTuberの「遅れたけどはじめます」SNS投稿が定番化の予感。

影響力を持ったクラスターの、日ごとの移り変わりと参入のきっかけとなったつながりに関しては以上です。

もう少し変遷の傾向が見えやすいようにWeeklyで集計してみます。

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かなり綺麗に傾向が見えるようになりました。
このクラスター変遷Weekly Ver.を元に、Clubhose現象からみえる巨大なエンゲージメント・ソーシャル・グラフのビジュアライズを試みてみます。

Engagement Social Graph #Clubhouse

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これは、あくまで僕自身の定性的な感覚も含めたイメージマップです。
定量的な数値を元に、実際にエンゲージメント数を獲得している「SNS投稿/Web記事」を定性的にクラスター分類し、影響度の高いクラスター同士の関係性も反映させました。Clubhouse現象を分析する中でみえたエンゲージメント影響度の高いクラスターは、大枠、網羅できていると思います。

ポイントは、このそれぞれのクラスターが実際につながりを持ち、影響度の高い人たちで構成された巨大なソエンゲージメント・ソーシャル・グラフを成熟させていることです。

Clubehouseに限った現象ではなく、このエンゲージメント・ソーシャル・グラフは、その時々のイシューに合わせて中心軸を変化させながらも社会に対する影響を持ち続けるでしょう。
今回は、Clubhouseというシリコンバレー発のITサービスであった為、起点となったのがStart Upクラスターでしたが、例えば、これが東京オリンピックがテーマだとすれば、Athleteクラスターが中心軸となり、その他のつながりに応じて変形をしていくでしょう。

影響力を持ったコミュニティ同士がつながりあったソーシャルグラフは、ここ数年で劇的に変化し、絶大な力を持つようになったと強烈に感じます。
いくつかの社会変革とともに、ここ数年で急速に発展していったのだと推測できます。

Engagement Social Graphを成熟させた変化

こうした影響力のあるもの同士のつながりが形成された背景はいつくかのポイントで紐解きができます。

・【YouTuber⇄Celebrity/TV⇄Athlete】
発信を躊躇っていたTVタレントのSNS発信に縛りがなくなり、TVタレントとYouTuberやアスリートとのコラボ配信などの交流が本格化。

・【YouTuber⇄Musician】
レーベルに所属せずに、SpotifyやYouTubeを主戦場としたミュージシャンやトラックメーカーが台頭し、YouTuberと密接な関わりを持つようになった。

・【Celebrity/Biz⇄Biz】
サロンビジネスの浸透によって、絶大な影響力を持つコミュニティが出現。ビジネス系著名人のフォロワービジネス層がソーシャルメディア上で活発な発信を行うようになった。

・【Fashion Model⇄Biz】
ファッションモデルからビューティ関連インフルエンサーとして本格的にビジネスを行う人々が多数出現。組織に所属せず、自ら仕事を取り、サロンを運営してコミュニティを形成したり、ビジネスシーンに影響力を持つインフルエンサーが台頭。

・【Biz⇄Fasion Model⇄Musician】
若い世代の起業家や活動家がソーシャルメディアを通じた影響力を持つようになり、多様なコミュニティが形成されるようになった。

エンゲージメント格差社会へ

ここ数年で、これらのことが同時並行で変化してきました。
そして、Web Mediaがコラボレーションのハブとなって、グラフを少しずつ完成させていったと思われます。日本のインターネットサービスらしい編集力を中心に据えた、新しいメディアの台頭が背景にあると考えますが、この点については、また別途考察を深めたいと思います。

この数年、海外での事業を中心に注力していたこともあり、日本で、影響力を持った同士のつながりの連鎖による、強大なエンゲージメント・ソーシャルグラフが形成されていたことに気づきませんでした。まさに浦島太郎。
あるいは、茹でガエル。

今後は全てのビジネスにおいて、付け焼き刃ではないエンゲージメントによってつながるコミュニティを形成しているのかどうかで、存在意義が問われるようになるでしょう。

Clubhouse現象は、このことを顕在化させました。
次なるコミュティプラットフォームの出現が予測される中、持てるものがさらなる力を持ち、持たざる者は力を失っていく、エンゲージメント格差の社会になっていくでしょう。

一歩一歩、社会と呼応しながら、
自分たちならではのエンゲージメントを高め続けていく。
それ以外に、開かれた道は見当たらなさそうです。


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