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番外:推理小説家たちと降霊術

【注意】カーの『黒死荘の殺人』の軽い「バレ」が含まれます。
 また、知識不足による間違いが含まれている可能性があります。

 私は趣味で推理小説を読むのですが、ジャンル?としては主に海外古典が多いです。一押し作家はミステリの女王ことアガサ・クリスティですね。

 そんな古典ミステリ群には、よく降霊術の話題が出てきます。それだけ世の中で流行っていたのでしょう。

 ちょっとミステリに詳しい方ならよくご存知でしょうが、この降霊術にどっぷりハマってしまったのが、シャーロック・ホームズや『失われた世界』などで知られるコナン・ドイル大先生。

 ホームズを生み出した作家がオカルトにハマるなんて、と笑い話のように語られることも多いのですが、実は重い事情もあります。

 ドイル先生は元々オカルト好きではあったのですが、第一次世界大戦で息子さんを亡くし、その声を霊媒を介して聞いていたのだそうです。

 そもそもイギリスで降霊術が流行った一因が、第一次世界大戦だったという説もあるようです。

 そんなドイル先生の行動にショックを受けたのがディクスン・カー。密室大好きおじさんとして有名です。ドイル先生の大ファンながら降霊術はインチキだと思っていたカー先生。ニセ降霊術師バスターの奇術師ハリー・フーディーニには大きな感銘を受けていたようです。

 ちなみにドイル先生はフーディーニに「あの人は頭がいいはずなのに騙されやすくて……」といった感じに評されていた模様。……でもぶっちゃけ作風からしてドイル先生はキレ者って感じじゃないよね……。先生の真骨頂はキャラの魅力と物語のワクワク感だと思うの……。

 ちょっと話が逸れましたが、ドイル先生に対して複雑な気持ちをいだいていたカー先生の作品に『黒死荘の殺人』というものがあります。物語の発端として、死んだ息子の声を聞かせてくれる降霊術師にハマってしまった老母が登場します。

 結局、降霊術はインチキであったことが判明し、トリックの仕掛けだらけの部屋が解体される様を目の当たりにして、老母は泣き崩れます。

 しかし、その後の彼女は(表面上は)強気な態度を取り戻し、「私はまだ信じています」と言い切るのです。

 この描写に、私はカー先生の葛藤と優しさを感じました。インチキを暴けばそれで終わりにできる、そんな簡単な話ではないと彼は理解していたのです。信じている人にだって様々な事情がある。ドイル先生がそうだったように。

 私の一押し作家であるクリスティも、しばしば物語の中に降霊術ネタを登場させています。ミス・マープルの初登場作品である短編集『火曜クラブ』の中の『動機対機会』は、亡くなった愛する孫の声を聞かせてくれる霊媒にすっかり肩入れしてしまい、その霊媒に大金を残そうとする老人の遺書が主題になります。また、本物の霊媒が登場するホラー短編『最後の降霊会』も書いていますね。

 こういった物語が書かれた背景には、様々な社会情勢があったのでしょう。私は研究家ではないので詳しくはありませんが、物語に出てくるシチュエーションの中には、FCの問題と共通するものがたくさんあるように思います。

 人間はいつの時代も同じ心理を抱えて生きているものです。