SNSを伝搬する衝撃波とそれによるエントロピーの上昇【論文紹介】#16
SNSを使う人がN人いて、通し番号が振られているとする。その中から任意に選んだ2人、i番目の人とj番目の人(i≠j)が互いを見てある確率で相互フォローになるとする。
今週紹介する論文はこちら。
Shockwavelike Behavior across Social Media
ソーシャルメディアを伝搬する衝撃波のような現象
Shockwavelike Behavior across Social Media (aps.org)
(本論文内のanti-Xとは、Twitter(現X)のことではなくXは任意の話題のことで、anti-Xは(任意の)アンチ勢のこと。anti-Xのことばかり書いているが、任意の話題で当てはまると思うので、本記事ではアンチのことには限らないように書く。)
SNSの利用者はそれぞれ、ある話題yについての趣向の強さ$${y_i(t)}$$を持つ。任意の数の話題がありうるが、ここでは1つの話題yだけで、その強さ(0~1の値)だけを考える。
任意に選ばれた2人、i番目の人とj番目の人は、趣向の類似度$${|y_i(t)-y_j(t)|}$$(図1(d))に応じた確率でクラスタとしてつながる(フォローし合う)。i番目の人とj番目の人が別のクラスタに属していれば、2つのクラスタがiとjを通してつながることになる。
クラスタには一定速度$${\frac{dN(t)}{dt}}$$で新規参入者が入る(図1(f))。
また、フォローが外されるなどして一定確率vfでクラスタは破壊される(図1(e))。
話題yについてのクラスタが、類似性(同類性)を好むならばF(t)は(0~1の範囲で)大きい値、非類似性(異類性)を好むならばF(t)は小さい値を取るとする。
上記の設定により、メンバー数sのクラスタの数$${n_s(t)}$$の時間微分$${\dot{n}_s(t)}$$は次の方程式に従う。
$${\dot{n}_s=\frac{F(t)}{N(t)^2}\sum_{s_1+s_2}s_1n_{s1}s_2n_{s2}-\frac{2F(t)sn_s}{N(t)^2}\sum_{s_1}s_1n_{s1}-\frac{\nu_fsn_s}{N(t)}}$$(1)
1項目は2つのクラスタの融合、2項目は新規参入、3項目は確率νfでの分裂を表している。
マクロレベルの量F(t)とN(t)はミクロレベルの凝集に比べてゆっくりと変化するので一定とする。$${u(x,t)=\sum_{s}sn_s(t)e^{-xs}}$$と置くと、(1)式はuの時間発展として次のように書ける。
$${\dot{u}(x,t)=-\frac{2F(t)}{N(t)^2}u(x,t)u'(x,t)+\frac{2F(t)+\nu}{N(t)}u'(x,t)+e^{-x}[\dot{N}(t)-\frac{\nu_f}{N(t)}u'(x,t)]}$$(2)
これは、衝撃波解を持つ非線形流体方程式の一般化である。
つまり、uの振る舞いに、あるところで不連続な変化が伝搬していく解がありうるということ。
実際のクラスタの成長のデータと、式(2)から予測される理論値が図2である。それぞれのクラスタに趣向があり、それぞれの成長曲線をたどっている。(b)での飛びは大きな別のクラスタが合流したときのもの。
図2(c)と図2(d)は、理論的に予測される2.5指数のべき乗分布がよく一致することを示している。
一般の流体で発生する衝撃波については、以下のサイトにわかりやすい導出がある。
衝撃波 | 宇宙物理メモ (github-nakasho.github.io)
できれば各自手を動かしてその式が導出されることを納得していただきたい(難しそうに見えるが、高校で物理をやっていればわかるレベル)。
衝撃波の通過に関して一つ重要な結論は、通過するとその気体のエントロピーは増加するということである。
図2に示されている通り、SNSである特定の話題が取り沙汰され、あちこちで新たなフォローが発生するのは衝撃波のようなものである。それらのツイートを読むことでSNSの利用者は衝撃波に晒され、フォローしたり、あるいはフォローの前駆的行動ともなる、いいねやリツイートや返信などをする。それによって自分の周りのネットワークのエントロピーが上昇する。
SNSの利用者は、SNSのネットワーク全体のエントロピーを上昇させるために今日もせっせとSNSを使っていると言えるのかもしれない。
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