見出し画像

平成が終わる夜に

拝啓、平成さま

書き出しも定まらないまま、あなたに手紙を書いています。
まさか私が、あなたに手紙を書くなんて思ってもいませんでした。
元号が変わることは去年からわかっていたし、そんなことには何も感慨深いものなどあるわけないと思っていました。
当たり前の毎日が、ずっと続いていくだけだと。
でもいざ自分がこの場所に立ってみると、なんだか感傷的になってしまうものです。なぜかあなたに手紙を書きたくなりました。
言いたいことは意外に山ほどありました。
書き出して消した、
過去の後悔。遺恨。執着。思い出。
そりゃあそうです。これだけ生きてきたのですから。
でも、今日でさよならするあなたに、そんなことをいうのは野暮かなと思ったのです。

終わってしまうあなたに、先の希望を感じてもらえるように。
そして私たちが、あなたに取り残されないように。

”たとえば孤独な夜が過ぎ
わりと良い朝が来る
どうせ変わりやしないのに
みんな何かに手を合わせてる

たとえば虚しく時が過ぎ
馴れ馴れしい静寂が来る
しまった もう世界は終わっていた”

平成が終わったとしても、
孤独も、朝も、虚しさも、静寂も変わらないだろうけど、
スタートは切れてしまっています。
私たちは、走り出しています。
寝ていても、何もしてなくても走っています。
あなたはついてこれない。私たちはどんどん遠ざかっていく。
でも、カメラロールいっぱいのあなたを見れば、一瞬で戻れる。
あなたが見守ってくれていることは知っています。

”わたしが神様だったら
こんな世界は作らなかった
愛という名のお守りは
結局からっぽだったんだ”

あなたとの日々をいくら後悔しても、
あなたと見つけた愛がからっぽでも、
違う何かを注ぐことにしようと思います。
からっぽの愛に価値がつくこともあるかもしれない。
とにかく、
ぎゅっと信じて何かを握っていれば、
それが勝手にお守りになっている。
今までは信じ切れなかっただけでした。

あなたに取り残されないように、
余計な装備はここに置いていきます。
まだこの世の中は私たちには風当たりが強いけれど、
思ったよりも時代は動いていないけれど、
動かせるように。少しでも身軽になります。

あなただけには、笑われないように。同情されないように。
私たちがすぐにでも、あなたのことを笑い飛ばしてみせます。

敬具

P.S チャットモンチー「世界が終わる夜に」に愛を込めて。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?