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走りはじめた


1年くらい前だと記憶していたつもりだったApple Watch Series6 Wi-Fiモデルは
調べてみたら2020年12月8日に購入済みだった。
充電したらまだ動いた。

ストラップだけ再購入した。

なんでかというと
ストラップを外してペンダントにしていたから。

オペ中にはその方が便利かなと思ったんだ。

残念ながらオペ室ではWi-FiだかBluetoothだかが
うまく作動せず
Apple Watchは電話として使えなかった。

iPhoneを持ち込むならApple Watchはいらなかった。

それでお蔵入りしてた。

引っ張り出してきたのは
2023年5月21日を遡ること数週前
走ろうと思ったから。ランニング。

短距離が早かった私は
長距離は嫌いだった。
疲れるし、苦しいし、なにより遅い。

身体中の筋肉が速筋でできてると信じ込んでいた。
真偽は不明だけど。

走った方がいいなと思ったのは
血圧が高かったせいだ

数年前からこの現実に気がつかないふりをしていた。
しかしいよいよ無視できない。

開業前後のストレスがすごかった。
病気もしたし。
看護師に注意したあとの後味の悪さの
半分以上は過剰なカテコラミン分泌のせいだと解釈してる。

走る医者。

アメリカの医者は走る。
留学中、とくに綺麗な美しいアメリカ人はそこらじゅうで走っていた。

日本でも走ってる。

洒落たウェアで背筋を伸ばして涼しい顔でまっすぐ前を向いて。

私は近くの公園に行って
大きな立て看板の園内案内板を眺めながら
柔軟体操をする。

シューズはNIKE
ウェアも帽子も。
インナーにはアンダーアーマーのスパッツ。
しめてXEBIOで3万円。

夕暮れ時、人が多くて気恥ずかしいけれど
マスクでかろうじて顔が隠れている。

サングラスは今度オークリーを買おう。
形ばっかりにこだわる。

Apple Watch
NIKE Run Clubアプリ始動。

何から何まで完璧なお膳立てで
走りはじめた。
数十年ぶりに。

「先生の体型だと走っても血圧は下がらないんじゃないですか?」
他科の医者の言葉が蘇った。
「でももし走るなら喋れるくらいのペースがいいらしいですよ」

最初の300mで異変を感じた。
Apple Watchの画面の数字が500mの間違いではないかと感じるほどの苦しさだった。

いくら長距離が不得意もはいえ
でもさ、こんなにも…ほどがあるでしょ?

ほとんど歩いてるじゃん。
喋れているけどそれは
頭の中で。

マスクをずらす。

園内で腰掛けている人たちが、
子連れの親子が、
外国人が、
私をみている、気がする。

やばい、
知り合いだったらどうしよう。

一周だいたい1kmの公園外周。

胸が苦しい気がする。
いや、痛い。
右だからアミちゃんじゃないはず。

アミちゃん
AMIちゃん
急性心筋梗塞

夕方走ることにしたのは万が一倒れても
助けてもらえるかもしれないから。
本当に倒れそうになるとは。

AEDを背負った方が良いかも。
いやあらかじめパッドを貼り付けて走るべきかな。

2週目突入、ここまで8分13秒
タイムは気にしない。

とにかく20分走ろう。
NIKE Run Clubアプリがそういってるから。

2周目4分の1を過ぎた頃から
俄然足取りは重くなり
心拍数は165
胸が痛い。

ウォーキングをしている人を目視してから追い抜くまでの時間が長い長い。

たぶんウォーキングの人は
不審者に追いかけられている気分だろうな。
すまぬ。

あとちょっと。

出発地点に戻ったら
お水飲もう。

NIKEの創業者、
フィルナイトは言った。

「走ればわかる」

映画のセリフだ。
私はフィルのようにマイケルジョーダンと契約するかどうかもわからないし(するわけがない)
クリニックをこれ以上大きくするのかどうかも
わからないけれど
走っているうちに答えが見つかるのかもしれない。

自己との会話を続けながら
洒落たウェアで背筋を丸めて暑苦しい顔で地面のアスファルトが後方へ流れるままに、走ってんだが走ってないんだかわからないくらい、こんなんだったらむしろ走らなくていいんじゃないかなっていう感じでゴールした。3週目は無理。

Apple Watch、止めた。
止め方もわからないので適当に触った。
細かい作業、もどかしい。面倒臭え。

記録それは儚い。
19分05秒 2.15km

20分には届かなかったが
それがどうした。
こっちは
止まった瞬間から
汗だくだ。

楽勝ではないが
喉も乾いてないわ。


歩くたびに
脚がガクガクする。
生きてるわ私。
心臓痛いけど。

ありがとう、神様。

飯がうまいというほどではなかったけれど心地よい
疲労感だ。

また走りたい。

何ヶ月後になるかわからないけど。


すぐに続かなくならないようにそれくらいが
ちょうどいいんだと思う。

疲れたな。
緊張感のある疲れではなくて
リラックスしてしまう疲れだ。

開業するなんて思ってなかったけれど
開業しなければこのランニングも
無かったな。

おやすみ、世界。

その日、アプリでのイビキの記録がいつもより少なくなってた。

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