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レトロ酒場は時代の流れとともに

「ベルリン酒場探検隊レポート」

以前からどうにも気になっていた酒場がある。ベルリンの中心地、それも交通量の多い大通りの角地にドンと立っているのだ。いかにも昔ながらといった、ゴリゴリな雰囲気が漂う。酒場でおなじみのSchultheiss(シュルトハイス)ビールの赤い看板に圧倒されながらも、ゲスト隊員とともに足を踏み入れた隊員久保田であった。


レポート提出者:久保田由希

酒場データ

店名:Zur Quelle(ツア・クヴェレ)
入りにくさ度:★★★★☆
居心地:★★★★☆
タバコ:分煙
ビール:Schultheiss(シュルトハイス)0.3L 2.50€ほか

これでもかのSchultheiss(シュルトハイス)

とにかく外壁は、Schultheiss(シュルトハイス)ビールの赤い看板だらけ。窓以外はすべてシュルトハイスだ。よく見るとジョッキを差し出すおじさんのロゴと、ロゴ入りビアグラスの看板が交互に並んでいる。つまり、おじさん、窓、ビアグラス、窓、おじさん、窓、ビアグラス……といった具合である。そんなに迫られては逆に入れなくなってしまうではないか、と小心者としては怖気づいたのだった。

しかしいい具合に、横ちょの扉が開いているのを発見。交差点の角に面した正面扉はぴったりと閉じており、ここを開けるのはなかなか勇気がいりそうだが、横ちょからスルッと入るのならハードルはだいぶ低くなる。

貼り紙は力強く主張する

開いている扉に近づくと、やたらと貼り紙が目に入った。

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「18歳未満の入場お断り!!」と力強く拒否している。ここは喫煙可の酒場。その場合は18歳未満は入場できない規則があるので、これは何もこの酒場だけの主張ではない。それにしても力強い。

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「ワイファイフリーゾーン」らしい。客が長時間居座るのを嫌ってワイファイを入れない店もあるというのに、ずいぶん進歩的である。この外観とワイファイというのがいまひとつ結びつかないが、それは偏見なのかもしれない。

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「バーテン募集!!」「クレカも使えます」
募集の貼り紙も力強い調子だ。気合の入った人が応募するかもしれない。
クレジットカードが使えない飲食店も多いなか、ここで使用可能というのはいささか驚いた。しかもアメックスまでとは。もしかして銀座のクラブ並みのサービスがある酒場なのだろうか。

そんな力強い貼り紙を見ながら、開いている扉から入る。

小麦ビールをラッパ飲み

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(横ちょの扉から、さり気なく入店。いま気づいたが、看板の文章はベルリン方言ではないか)

目立たぬようにスルッと入ったつもりだったが、カウンターの女性が入店するわれわれを見守っていたかのように、ダンと目の前に現れた。外観同様、女性もなかなかの迫力である。

こういうときは、まずこちらから声をかけるのが「ベルリン酒場探検隊」としての経験則だ。よし……。

「どうも。えーっと、ビールがほしいんですが何が……。あ、あそこに出てますね」
と、タップにかけられたビール銘柄のパネルに目をやる。

しかし、そんな質問をするまでもなく、自分のなかではシュルトハイスと決まっていた。これだけ外観の看板で洗脳されれば、ほかの銘柄を頼む気になれないではないか……と思っていたところ、同行のゲスト隊員はAllgäuer Büble(アルゴイヤー・ビューブレ)を注文。

「アルゴイヤーはビンしかないけどいい?」と言われ了承すると、ビン1本がそのまま出てきた。ピルスならビンでラッパ飲みということもあるが、アルゴイヤー・ビューブレのような小麦ビールでラッパ飲みとは珍しい。また一つ、経験値が上がった

意外にも時代の流れに敏感?

比較的早い時間帯のせいか、店内には先客が一組いただけだった。常連らしく、カウンターの女性と親しげに話している。しかし、ほどなくして帰ってしまった。われわれが明らかに一見客で外国人なので、自分たちの聖地が侵されるように感じたのだろうか……と柄にもなく気にしてしまったが、その後英語を話す客や若者たちが来店し、少し安堵した。客層は幅広そうだ。

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(テーブル表面の塗装が剥げているのがおわかりだろうか。そしてシュルトハイス)

タバコを吸わないわれわれは、手前の禁煙ルームの一角に落ち着いた。木のテーブル表面に塗ってあったであろうニスが剥げている。創業が何年かは聞かなかったが、年季が入っていることは間違いない。しかも24時間営業のようなので、それだけ消耗も激しいだろう。

レトロなランプや写真が飾られた店内は、昔ながらの酒場の風情がある。通路を隔てた奥の部屋は喫煙ルームらしく、紫煙が立ち込めている。そのなかで若いお客がビリヤードに興じている。

分煙されている酒場は、案外少数なのではないだろうか。酒場という性格上、だいたいは喫煙の場合が多いような気がする。ここは外観・店内ともに懐かしさ満点だが、意外に時代の流れを取り入れているのかもしれない。そういえばワイファイもカードも使えるようだし。

ジュークボックス人間模様

禁煙ルームの一角には、酒場につきもののジュークボックスが置かれていた。Zum Hechtでジュークボックスを初体験したが、どうもここにあるものはそれとはタイプが違うようだ。CDがどこにも見当たらない。あるのはフラットな画面だけ。どうやらタッチパネル式らしい。またずいぶんとモダンである。

やがて若い男性が立ち上がり、ピッピッと画面に触れた。店内に流れたのは、a-haの "Take on me”。
ちょっと待て。これは80年代ディスコとかでよくかかっていた曲ではないか。君、まだ30代だろう。それとも80年代がいまアツいのだろうか。

今度はかなりお年の男性が、やはり画面の前に立った。しかし勝手がわからないのか、立ったままで何の音楽もかからない。見かねた若い男性が手伝おうと近寄ったところ、声を荒げて拒否をする。なんというか、頑固老人は世界のどこにでもいるのだろう。若者は笑いながら席へ戻っていった。

支払い金額の問題だったのだろうか

結局われわれはビール1杯で3時間ほど過ごした。夜も更けて次第に混み合ってきたので、そろそろ会計をすることに。
表の貼り紙にクレジットカードで支払えるとあったので、カードを取り出す。

「現金でお願い」

え、じゃああの貼り紙はいったい……。

ベルリンのさらなる秘境酒場の開拓と報告のために、ベルリン酒場探検隊への支援を心よりお待ち申し上げる。