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今晩はもういいかしら

ベルリン酒場探検隊である。
今回も世界各国に暮らす物書き仲間によるリレーエッセイ「日本にいないエッセイストクラブ」としての参加である。早いもので、このリレーエッセイも9周目となった。今回はわれわれベルリン酒場探検地が第一走者を務めることとなった。次回走者は文末をご覧いただきたい。リレーエッセイのこれまでの記事は、マガジンにまとめられているのでこちらもご一読いただければありがたい。
ハッシュタグ #日本にいないエッセイストクラブ は、メンバー以外の方もふるってご参加願いたい。

リレーエッセイ、9周目のお題は「夜」である。

レポート提出者:久保田由希

カウンター席に腰かけて

多くの場合、酒場は夜に行くところなので、ベルリン酒場探検隊がこれまで提出してきたレポートも夜の出来事が多い。いやしかし、ベルリンには24時間営業の酒場もある。とはいえ、そんな酒場でも訪れるのは夕方になってからだったが。朝っぱらから飲むには気力も体力も必要で、悲しいかな、そこまでの体は持ち合わせていないのだった。
やはり酒場は夜の場所だろう。

もう数年前になろうか。まだコロナの影も形も見えなかった頃の話だ。
その酒場に訪れたのは、夜の7時頃だった。まだこれからという時間帯である。間口が狭い、うなぎの寝床のような店内のほとんどを、カウンター席が占めていた。われわれがカウンターに向かって横並びに腰掛けると「何にする?」と、店の女性が声をかけてきた。

「何があるんですか」
「ビールはシュルトハイスとキンドル。ヴァイツェンは瓶だわね」
「じゃあシュルトハイス」

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いつもの銘柄に落ち着き、グラスを傾ける。
狭いカウンターで、店の女性と顔を突き合わせるのはなんとなく気まずいか……と思ったが、女性は端に腰掛けていた常連としゃべっている。
それなら、こちらも日本人女性同士で遠慮なく話をさせてもらおう。日本人同士が日本語で話していても誰かから咎められるわけでもないが、小さな店だとやはり気を使ってしまう。場の雰囲気を乱したくない。

そろそろ閉めていい?

やがて常連らしき男が席を立ち、店にはわれわれだけになった。グラスは空になっている。

「どうします?」
と、空になったグラスを見て女性が声をかける。
「同じものを」
「私も」
と、われわれ。

「ここは初めてなの?」
「ええ。偶然見かけて。あなたの店なんですか?」
「ううん、私はここで働いてるだけ。オーナーは別にいるわよ」
「私たち、酒場が好きで。いろんな店に行ってるんです」
「最近は酒場も厳しくなってきたね。うちもそう」

それはよく聞いてきた。酒場に行くと、年のいった常連客がポツポツといるという光景はよく目にする。

「そろそろ閉めようかと思うけど、いい? 今晩はもうお客さんも来ないと思うから」

時計はまだ9時にも届いていない。路上に出たわれわれはしかし、次の店に行く気にはなれなかった。

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前回テーマ「日本の恋しいもの」最終走者はイタリアのすずきけいさん。

香川県出身のすずきけいさんが、ロックダウン中のイタリアでうどんを打つ。小麦の国イタリアで挑戦した手打ちうどんは、いかに。
じつは私もベルリンでうどんを「打ってもらった」ことはある(自分では面倒なので打たない)。手打ちうどんに凝っていた友人は、香川から小麦を取り寄せたりしていたものだ。

次回走者はアルゼンチンの奥川駿平さん。前回記事はこちらだ。

アルゼンチンでとくべつ日本を恋しく思ったことがない、という奥川さん。しかしアルゼンチン人の奥さんが恋しく思うものがあった。
からあげは、うまい。揚げ物は面倒なので自分では作らないが、最近の日本ではからあげ屋があちこちにあるので困らない。「はやまのからあげ」は、うちの近所の唐揚げ屋のものよりもうまいのだろうか。


ベルリンのさらなる秘境酒場の開拓と報告のために、ベルリン酒場探検隊への支援を心よりお待ち申し上げる。