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言葉が増えれば世界も広がる —私が多言語に携わることとなったのは

青木隆浩

第二回:スピーチコンテストへの挑戦


1.大会に向けての取り組み

みなさん、こんにちは。今回はスピーチコンテストへの挑戦についてお話いたします。

中国語に夢中だった私は、中国語が学べる高校に進学しました。その高校では、1、2年生は週6時間、3年生は週9時間と、毎日中国語の授業があり、高校3年次に私は学習の集大成として、日中友好協会主催の全日本中国語スピーチコンテストに挑戦することにしました。
スピーチのテーマには、短期留学先の中国で出会ったおばあさんとの交流を選びました。ほんの短い交流でしたが、私にとって非常に思い入れのある出会いだったからです。

放課後はありがたいことに中国人の先生がマンツーマンで指導を引き受けてくださることになりました。
スピーチは正確な発音で話すことはもちろんですが、棒読みにならないよう、そして一番伝えたい部分が聞き手に伝わるように心がけなければなりません。そのため、単なる発音練習にとどまらず、意味を踏まえた上で重要な部分を高く読んだり、緩急をつけたりします。先生からは、「そこはもう少しポーズを置いて」「大切な部分は高く読んで」といったような、いわゆる「感情表現」のテクニックについて丁寧なご指導があります。
さらに、それらを習得するために、私は抑揚やポーズなどを記号化し、先生の模範朗読を聞きながら原稿に書き込んでいきました。例えば、ポーズを置く箇所にスラッシュを入れる、高く読まれる箇所に丸を付ける、スピードを落としてゆっくり響かせる箇所に傍線を引く、少しスピードを上げて読む箇所に点を打つなどです。そうすることで、文章のリズムを可視化することができ、模範朗読の音声をより忠実に再現できるようになりました。

リズムや抑揚の印をつけた原稿の例

2.本番を迎えて

スピーチコンテストでは原稿を見ずに話さなければなりません。さらに、スピーチの途中でつまずいたり、「えー」のような言い淀みが入ったりすると減点対象になります。けれども原稿を思い出すことばかり考えていると上の空になり、口先だけが動いて内容が伴わない「棒読み」になってしまいます。そうならないために、「考えなくても口をついて出てくる」まで練習を重ねる必要がありました。

本番は全国から高校生、大学生、社会人など様々な年齢やバックグラウンドの人たちが出場します。中には非常に興味深いエピソードを語られる方や、ユーモアたっぷりに日常の出来事を語られる方、聞きやすいきれいな声と発音でスピーチをされる方など、実に多才な顔ぶれであふれていました。

そのため、前の人たちのスピーチを聞きながら、演台上での立ち居振る舞い、声の伝わり方、時間配分、さらには会場でスピーチを聞く来場者の反応などを観察し、本番での参考にしました。

演台に上がると会場全体に声が通るよう、客席の後方に向けて声を響かせるようにしました。
スピーチが進むにつれて聴衆の皆さんが私の話に聴き入ってくださり、まるで私の話に歩調を合わせるかのような息遣いが伝わってきました。
これは今まで感じたことのなかった会場との一体感で、私もより感情を込めて話すことができ、幸せな気持ちでスピーチを終えました。

3.スピーチコンテストを通して得たこと

スピーチコンテストに出場したことで、「聞きやすい発音」「伝わりやすい話し方」を学ぶことができました。
さらに、スピーチで伝える喜びを体感した結果、当たり前のことではありますが、会話は「一方的なもの」であってはならず、「相手がいてこそ成り立つもの」なのだと強く感じました。
もちろんスピーチでは原稿や話す内容等を入念に準備しておくのですが、その上で、実際の相手の反応を肌で感じ取りながら臨機応変に調整をしていく「柔軟性」を培う経験にもなりました。
これらの経験が、語学講師として「中国語の面白さ」を伝える上でも役立っていると思います。

※スピーチや音読のコツについてはこの記事の筆者、青木隆浩先生の『基礎から学ぶ 中国語発音レッスン』(ベレ出版刊)で詳しい解説と一緒に練習できるようになっています。中国語の発音をしっかり学びたい方にピッタリの一冊です。

記事を書いた人:青木隆浩(あおき・たかひろ) 
東京外国語大学大学院にて博士号取得。北京語言大学に3年間留学。桜美林大学孔子学院講師。高校在学中に日中友好協会主催のスピーチコンテスト全国大会で優勝。また、中国政府主催の漢語橋世界大学生中国語コンテスト世界大会で最優秀スピーチ賞受賞。さらに、モンゴル国政府主催の若手モンゴル研究者プレゼンテーションコンテストにて優勝。
全国通訳案内士(中国語、韓国語、英語)、日本語教師などの資格を持つ。
著書に『ひとりで学べる中国語 基礎文法をひととおり』(共著、ベレ出版)、『基礎から学ぶ 中国語発音レッスン』(ベレ出版)、『マンガで身につく!中国語』(共著、ナツメ社)などがある。

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